第12話 光の皇帝
ユイトら一行は、ユリシャの故郷『スヴィヒ王国』を支配した者の正体を確かめるため、王国へ竜車を走らせた。だがその道中の花畑、その中でユイトらは突如にして睡魔に襲われ、意識は闇へ落ちていった。
そして、次にユイトが目を覚ましたのはスヴィヒ王国へ向かう数分前であった。――そう、ユイトらは再び眠りに落ちたことによって死したのだ。
そしてたった今、例の花畑がユイトの視界に移った。
「――ダメだ。何か打開策を見つけないとまた……」
ユイトがそう呟き、思考回路をフル回転させていた時であった。竜車は依然としてアイリスが走行させ、時速三、四十キロメートル程度である。その中、ユイトは花畑の中に複数の小さな影を見つけた。それは人というには小さく、魔獣といえばそれも少し違った容姿をしていた。
「おいアイリス、あそこにいるの見えるか?」
ユイトは眉間に
「あそこって? 何も見えないのだけど」
「いや、そこそこ! あそこに二頭身くらいのキノコみたいなのいるじゃんか」
そう、花畑に近づいて行くうちに気がついたが、それはキノコであった。――圧倒的キノコ。
「アイリス! 止まれ!」
「う、うおおおお!」
ユイトは花畑へ入る手前でアイリスに竜車を止めるよう要求した。アイリスは大層慌てたが、無事に竜車を止めてくれた。
「急にどうしたのですか? 急がないとユリシャさんが……」
シェロも俯いてうつうつしていたが、ユイトの馬鹿でかい声量により、顔を上げアイリスとユイトの顔を交互に見た。
「ほら、あそこ見ろよ……」
ユイトが指差したその先には、
「う、うわー! なんなのですかあれは! キノコがいっぱいなのです!」
そこには、キノコの大群が道を塞ぐようにして整列しており、先頭の笠の色が青色のキノコに関しては槍を構えていた。その距離、約百メートル。
「敵意は……ありそうね」
「みたいだな」
「みたいなのです」
「みてぇだな」
各々そう言葉にし、竜車を降りた。
「あれ、何だか甘い香りが鼻腔をくすぐるのです。何でしょうかこのショートケーキのような甘い香り」
――まずい。この香りは以前も漂ってきた香りである。この匂いが漂って来て、そこからの意識がない。
「シェロ! あんまりその匂いを嗅ぐな! 死ぬぞ」
「――っ! わ、わかったのです!」
シェロは一瞬、『死ぬ』という単語に反応し、顔色を変えたが直ぐに元に戻り、了解の意を示した。
「アイリス、あのキノコについて情報あるか?」
「んー……エーテル森林にいるピロという魔獣に似てるけど、少し違うというか覇気があまりないような気がするの」
覇気がない、とはどういうことであろうか。
「なるほど、まー所詮はキノコだ。こっちにはシェロもラートもいる。お前ら行くぞ!」
「え、ちょ!」
『おー!』
ユイトらは士気を高め、キノコ軍団へ飛びかかりに行った。アイリスはユイトらへ何か言いたげにしていたが、間に合わなかった。
ユイトらはあまり甘い香りを吸い込まないように呼吸を深くし、間合いを詰めた。その距離約六十メートル。
――五十メートル。
――四十メートル。
――二十メートル。
――そして眼前まで迫った時であった。
『ズズズズ。ボロボロボロボロ』
先程までキノコ軍団が立っていた場所、基、ユイトらの目下の地面の中から、大きな顔の部分はドラゴンのような、体の部分は亀のような魔獣が飛び出てきた。その魔獣は大きく口を開け、飛び込んでくるエサを人のみにしようとした。
「テレポーテーション!」
シェロがそう唱えた。が、間に合わない。
「ユイト!」
背後でアイリスの声が聞こえる。
「ボリッボリッ」
ユイトらは噛み砕かれた。
窓から綺麗な城が見える。王都には小さな子達が駆け回っている。危うく果物をカバンに入れた女性にぶつかりそうになり、危機一髪で交わす。人生とはそういうものだ。残りあと少しのところで無事交わし、交わされる。――神は乗り越えられない試練は与えない。
「燃える」
ユイトは死から覚醒した。再びベッドから立ち上がり、一階へ降りていく。外にはやはり、アイリスらが竜車へ乗っていた。
「ユイト君、急ぐのです。アイリスさんが不機嫌なのです」
「お、おお。すまねぇ。寝過ぎてた」
アイリスの顔色を伺いながら竜車へ乗る。それと同時にアイリスは竜車を走らせた。風が心地良い。
正直なところ、あの亀inドラゴンの存在は予想外であった。
「なるほど。
あの魔獣の体格のデカさは以上であった。だが、その分動きも鈍くなる。となると話は簡単である。何より速く先制を仕掛ければ良いのだ。
それから数時間後、やはり同様。例の花畑が見えてきた。
「アイリス! 止まれ!」
「び、ビックリするじゃない!」
ユイトはアイリスへ止まるよう言った。アイリスは目を見開いて叱ってきたが、命を失うよりかは容易いものだ。
花畑までの距離はおおよそ百メートル。その中にはやはりキノコがいた。アイリス達もそれに気づいたようで、
「何なのでしょうかあれ……」
「わからないわ。だけど敵意が感じられる。気を抜かないようにね」
そう言い、ユイトらは竜車から地面に降りた。
「シェロ、あのキノコの手前まで行ったら頭上、五十メートル位にまで俺を飛ばしてくれないか?」
「五十メートルなのですか? 出来ますけど、そこからどうするのですか?」
「まあまあ、お前らはそこでちょこんと座って見てれば良いよ」
ユイトはそう捨て台詞を吐き、決めポーズまでし、キノコ軍団がいる方向へと走り出した。その距離約七十メートル。
「正直、これといった打開策は無いが……まあやってみるだけやってみよう」
――三十メートル。
――十メートル。
「シェロ! 今だ!」
「テレポーテーション!」
『ゴゴゴゴゴゴ……』
予想通り、キノコ軍団は囮だ。地面の中から例の魔獣が出て来た。そしてユイトはシェロのテレポート魔法により上空五十メートル付近にまで飛ばされた。魔獣はこちらに気付いているようで、大きく口を開けている。このまま垂直に落下すれば単なるエサになってしまう。
「俺はそんなヘマしねぇけどな」
息を深く吸う。
「セラサス・フローラ!」
ユイトは背中から剣を抜き、唱える。するとどこからが桜のような花びらが出て来、剣にまとわりついた。
「これはとったな」
ユイトはそのまま垂直に剣を向け、魔獣に向かって落下していった。――勝てる。そう思っていたが、
『ブォォォォ』
「――っ!」
魔獣との距離、約二十メートル。その至近距離から口を開けて待っているだけかと思っていた魔獣が青く熱せられた炎を口から吐いた。
――ダメだ。避けられない。
ユイトは上空だということもあり、どれだけ体を捻ってもその炎は避けられない。炎が迫ってくる。
『――』
諦め掛けたその時。花畑一帯を金に輝く光が
――その光の正体とは。
階段から落ちたら異世界だった。 一ノ瀬 修治 @titose__mizuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。階段から落ちたら異世界だった。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます