第4話 初めての朝
『チュンチュン』
小鳥が鳴いている。
「んー。よく寝たー。じゃねーよ! 何呑気に寝てんだよ! 今は何時だ?」
朝日が窓から差している。
「朝……なのか?」
周りを見る。
「あれ、アイリスとユリシャどこ行ったんだ?」
と声に出したと同時に、
「ただいまー!」
と、アイリスの元気な声が聞こえてきた。玄関の方からだろう。寝起きの足で玄関まで向かう。
「あら、ユイト! 起きたのね。おはよ!」
短い金髪を手で整えながらアイリスが言った。
「おはよう。どこへ行っていたの?」
ユイトがまだ眠い目を擦りながらアイリスへ問う。
「ちょっとそこの市場まで朝食の材料をね! 無事に3人で夜を過ごせてよかったわね!」
アイリスの言う通りだ。寝てしまったが何事もなく3人で朝を迎えられ良かった。
「ん……? 3人? なあアイリス、ユリシャがどこか知らないか?」
「ああ、ユリシャなら自分の部屋にでもいるんじゃないかしら! もうすぐ朝食も出来上がるし呼んできてちょうだい!」
「わかった」
この家の構造はというと、全て木でできた2階建の家だ。そして王都の家とは全く違った外見をしている。ユリシャの部屋まで行くための階段があるのだがギシギシと音を立て今にでも踏み抜いてしまいそうだ。階段には少し敏感になっているユイトからすれば終始ハラハラする思いだ。
ユリシャの部屋の前に着いた。中から何やら呪文のようなものが聞こえる。単純に怖い。
「お、おいユリシャ。朝食だぞ」
ユイトはノックをし、あえて扉は開けず外から声をかける。だが相も変わらず呪文を唱えている。
「おーい! ユリシャ、いるんだろ! 朝ごはんできたぞー!」
すこし声量を上げ再び声をかける。寝起きだというのに1回で聞き取って欲しい。
「ユ、ユイトか。わかった。すぐ行くと伝えてくれ」
何やら少し動揺した声音で返事が返ってきた。
「おう、わかった」
階段をおりリビングへ向かう。すると、テーブルの上には美味しそうな卵料理だろうか。黄色い食べ物とパンのようなものがあり、またもや黒い液体があった。
「ねぇ、ずっと気になってたんだけどこの黒い液体はなに?」
「え? 知らないの? カプラスだよ?」
やはりまたユイトの知らない飲み物だった。
「カプラス? ちゃんと人が飲んでも大丈夫なやつだよね?」
「当たり前でしょ! なんで人ならざるものに飲ませる飲み物をユイトに飲ますのよ!」
アイリスが顔を真っ赤にして怒っている。
「おい。朝から少し騒がしいよ」
ユリシャが降りてきたみたいだ。
「お前もだよ! 朝から呪文唱えやがって」
「や、やはり聞かれてしまっていたか……聞かれてしまっては仕方がない。君には死して償ってもらうとしよう! グハハハハハハハ」
なんて笑い方をしているのだろう。そもそもユリシャは朝からなんの呪文を唱えていたんだろう。厨二病という難病に感染してしまっている人の考えはよくわからない。
「さあ2人とも、馬鹿みたいな話してないで朝ごはん食べましょ」
「ああ、そうだな」
「ふっふっふ。同意」
3人揃ってテーブルを囲む。
「ではいただこう」
まずは卵料理のようなものから口へ運ぶ。
「うっ……」
「どうしたんの? あ! 不味かった?」
「美味い! え、なにこれなにこれ! 日本の卵料理より美味いじゃん! 何で作ったの?」
アイリスが心配そうにしていたが、次のユイトの一言で目をかっぴらいて嬉しそうに椅子の上で跳ねた。
「おいし? おいし? 嬉しい! これね、今朝市場で買ってきたドラゴンの卵なんだよ」
「え?」
「ん?」
今彼女はまたさりげなくとんでもないことを発言した。この世界の住人はドラゴンの卵も食すというのだ。
「いや、なにも」
「ふーん」
少しアイリスに睨まれた気がしたが無視をして卵料理を食しカプラスを飲み干す。
「ねえ、今日はクエスト受けに行くってのはどうかしら?」
一通り3人とも食べ終わった頃、アイリスがそう提案してきた。
「うむ。簡易的なものであらば我が闇の力を多少解放すれば1人でクリアできるとも!」
またもやユリシャが厨二病のようなセリフを言う。
「クエストか……確かギルドに行って受けるんだよな? まだメンバー揃っていないし、ユリシャが言う通り簡単なものならいいんじゃないかな?」
恐らく賞金も手に入るであろうし、この世界のことももっと知っていかなければならないと思いユイトはアイリスの提案に賛成した。
「そうね。簡単なものにしましょ! じゃあ、準備が出来た人から外に出てきてね。揃ったら王都へ向かうわ」
「よーし! 2人とも集まったわね。それじゃあ、れっつごー!」
あの後、準備と言われたがユイトはあまり準備するものがなかったので比較的早く外へ出れたのだが、ユイトが出てくるより早くアイリスが待機していたので少し驚いた。ユリシャはというとユイトが外へ出てきた後少し経って出てきた。そんなユリシャだがあまり変化は目に見えてなく、相変わらず子猫を肩へ乗せて変な帽子をかぶっている。
「ムウムウ、今日もとても可愛いよ。今日はクエスト受けに行きまちゅよー」
歩きながらそう子猫へ語り掛けているのはユリシャである。
「なあ、ユリシャその子猫は魔獣なのか?」
「ふふふ」
ふふふ? 不気味な笑い方をする。
「いい質問だ少年。後々わかるさ。楽しみにしているといい! ねー、ムウムウ」
「ねえ2人とも! 見てちょうだい! あと2レベル上がったらファイアーボールが使えるの!」
そう言ったアイリスが見せてきたのは文庫本よりかは少し薄い本のようなものだった。
「おお! アイリスよ。お主いつの間に3レベルまで上がっていたのだ。全く目が離せないな少女だ」
「アイリス、その本みたいなのってなに?」
ユイトだけ仲間はずれにされているような気がしてアイリスに自慢げに持っている本について聞く。
「あれ、ギルドのお姉さんに教えてもらわなかった? これはね、レベルが上がると取得できる技が全て書かれている本よ。その職業の人しか取得できないものばかりだから技を取得しておいて損は無いわよ。多分ユイトも持ってるはずよ?」
そう丁寧に説明してくれたが、技が書かれている本なんてものなんて貰ってもないし見たこともないユイトはどうすればいいのだろう。
「少年。少し止まれ。目を瞑って自分の本を呼び出すが良い。心の奥にあるはずだ」
ユリシャがユイトを引き止め本の呼び出し方を教えてくれた。
「……」
ユイトは目を瞑り、心の奥に眠っている本を掴む。すると右手に少し重みが感じられた。右手を見るとそこには、
『冒険者の書』
と書かれた赤茶色の渋い色をした本が握られていた。
「これが……僕の本…」
「そうだ。君はまだレベルがゼロだったな。今日のクエストでレベルを上げると良い」
「ああ。そうするよ。ありがとうユリシャ」
「さぁ、二人ともあと少しで着くわよ!」
シャシャート街にある公園には昨日同様、子供たちが元気よく遊び回っている。平和だ。そして、あと少し歩けばアイリスが言った通りユイトが昨日お姉さんに色々説明してもらい、冒険者という職業をいただいたギルドがある。
ギルドに着き、ドアを開けると奥にはやはり昨日のお姉さんがいた。
「職業選択ですか? クエストですか?」
「クエストでーす!」
元気よく身を乗り出しアイリスが答える。
「わかりました。ではこちらの中からお選びください」
そう言われ、差し出されたのは色んな生き物が書かれ、下に各々の賞金と難易度が書かれている紙であった。
「今日はいっぱいあるわね」
「そうだな。珍しいクエストまで揃っておるの。ふっふっふっふ。楽しみだ」
どうやら今日は珍しいクエストまであるらしい。
「できるだけ難易度の低くて報酬が多いものがいいわよね」
「ああ!」
「うん!」
アイリスの提案にユイトとユリシャは元気よく返事をした。
しばらく3人で相談したあと、
「これにしましょ! 難易度はノーマル、報酬2500ユース」
ユースというのはユリシャに聞いたところ、2倍した数が日本円になるらしい。つまり、このクエストをクリアすれば5000円といったところだ。
「そうだね、難易度も無難だしそれにしよう」
ユイトが賛成しその後に続いてユリシャも同意してくれた。
「お姉さん、これにします!」
「かしこまりました。アルミラージ討伐クエストですね。この街のハズレを少し行き、メユリスの森を少し入ったところに多く出現しているみたいです。約20匹程の討伐をお願いいたします」
「わかりましたー! 行ってきます!」
ギルドを出てしばらく歩くらしい。
「ところでユリシャ、お前もこういう本持ってんのか?」
歩きながら自分の本を見せ、ユリシャへ問いかける。
「いや、私は魔獣使いだ。魔獣使いは基本そういった技は使えない。その代わりといってはなんだが、魔獣を使って戦うのだ」
技を使わないとなるとどう戦うのだろう。とても気になるので後で勉強させてもらおう。
その後3人で楽しく会話を混じえながらメユリスの森という草木が生い茂った場所へ辿り着いた。
「ギルドのお姉さんは少し入ったとこだと言ってたな」
「そうね。ユイト気を抜かないようにね!」
そうアイリスに言われたところだった、背後でなにか物音がし、振り返ると黒色の兎のような生き物がいた。
「なんだあいつ、可愛いな。持って帰りてぇ」
そうユイトが呑気なことを言うと、
「少年。あいつがアルミラージだ」
「なっ! あの子兎がか?」
そうユイトが言った途端兎の両耳の間から白く長い角が2本生えてき、そして後ろからそいつの複製体のようなものがかなりの数現れてきた。
「なるほど。あいつが今日のクエストのモンスターか。全員ボコしてやる!」
と元気よく言い放ったもののユイトは戦えるような武器は何も持っていなかった。
「ユイト! これ受け取って!」
「おお! かっけぇ! 助かるアイリス!」
アイリスが何の武器も持っていないユイトへ短剣を渡してくれた。
「では私からゆこう」
そう言うとユリシャの肩に乗っかっていた子猫が地面へ飛び降り巨大化した。そして気づけば周りを大量のアルミラージに囲まれていた。だがユリシャはそんなことお構い無しだ。
「ムウムウ、我が力を最大限使うが良い!」
そう言われたのを合図にムウムウという魔獣はアルミラージの群れへ飛びかかっていった。
「穿て! エンシェントノヴァ!」
そう唱え、アイリスの持っていた杖から火属性の魔法が打ち出された。もろにアイリスの技に直撃したアルミラージは淡く輝き、消えていった。
「よし! 僕もこの短剣でやっつけてやるぞ!」
3人とも各々の技を繰り出し、アルミラージを一掃していく。だが、
「おいおいおいおい。話と違うぞ。倒しても倒しても次から次に出てくるこいつら!」
「不味いな。少年、まだいけるか?」
不登校であったユイトは体力があまりない。故にユリシャの期待に添えれないであろう。
「すまない。かなりきちぃ」
ユイトは体力が尽き、アイリスも技を連打し続けてしまったためか、あまり魔力が残っていないようだった。あと頼りになるのはユリシャのみだが、
『ユリシャ! 後ろ!』
アイリスとユイトが声を揃えそう伝える。ユリシャの後ろからアルミラージが噛み付こうとしていた。
「っ……!」
遅かった。ユリシャはかわしきれずアルミラージの噛みつきをもろに食らってしまった。
「っち。しくじったな」
「やばいな。ユリシャはあまり動けない、アイリスも残り魔力がわずかといったとこだ。動けるのは僕ただ1人のみだ。だが僕1人でこの数を相手するのは無……」
無理だ。そう言いかけたと同時に淡く輝くみどり色の光が周囲をおおった。眩しさのあまり目を閉じる。
「な、なんだ?」
目を開け、周りを見回すとユリシャの肩の傷は治り、アイリスも魔力が戻りピンピンしているようだった。
「遅れてすまないのです」
そう言い放たれた方向へ目をやるとそこには。
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