第22話:異常
「おはようー」
「おはよう、惠太このニュース見た?」
教室に入ってすぐ、瑞希と翔吾に声をかけられた。その手には電源の付いた端末が握られている。
「先生来る前にはしまわないと取り上げられるぞ、それでなんのニュースって?」
「「ん」」
「いやどっちかでいいって。ええっと……?」
―――「町田ダンジョンで異常な魔力濃度上昇が続く」。その記事タイトルを見て、背筋が凍るような感覚を覚えた。
「町田ダンジョンで異常な魔力濃度上昇が続く」
探索者協会は15日の朝4時頃、東京都内の町田ダンジョン(C級)において、ダンジョン内魔力濃度が150%を突破したと発表した。
町田ダンジョンは4月12日20時時点の魔力濃度は96%。13日未明から魔力濃度はこれまでに観測されたことの無いペースで上昇を始め、13日8時に108%、同日20時に119%、翌14日8時に133%、20時に141%を計測していた。
ここまで急激な魔力濃度上昇は既存の観測データでは世界を見回しても例が無く、防衛省は大規模なスタンピード発生に繋がる可能性が高いとして、協会と連携して対策を進めている。
スタンピードは、魔力の溜まりすぎたダンジョンがそれを発散するために外部へ大量のモンスターという形で放出する現象であり、発生の基準は約200%とされている。現在のペースでは4月17日20時頃に基準に到達する見込みであり、すでに住民への警戒情報発表で、警戒レベル3の「高齢者等避難」が発令されている。15日12時をもって警戒レベル4の「避難指示」も出される予定となっている。
-スポーツ日報
「これは……」
「町田ダンジョンってこの前惠太が行ったところでしょ? もしかして何か心当たりないかなーって」
「レベルの件といい惠太は普通の探索者ってわけじゃなさそうだしなー、なんか変わった出来事とかあったかもじゃん?」
難しい顔をする2人。心当たり……変わった出来事、か。
「思い当たるのはある、な」
「え、ほんと?」
「半分冗談だったんだけどマジか……」
「先生が来る、長くなるかもしれないし昼休みでいいか?」
「おっけー」
「……で? 心当たりって?」
「ああ……」
昼休み、屋上で弁当を広げながら開口一番話を促された。
水色の宝石のことをかいつまんで話す。ボスからドロップしたものでありながら俺にしか見えておらず触れもしない宝石、怪しさは満点だろう。
「なるほど、それは怪しいねぇ……」
「今持ってきてたりする?」
「まさか。家に置いてある」
「そりゃそっか」
「その宝石拾ったあと、なんか変わった事とか最近無い?」
「変わった事? 特に無かった、と思……あ」
恵理から聞かれた何気ない質問。パッとは思い浮かばない中考えを巡らせる中で、唐突なフラッシュバック。真っ白な空間、石鎧の騎士、そして惨殺される俺。
経験が染みついてきたのか2~3発の攻撃は安定して避けられるようになってきたし一回ごとの戦闘時間も少しは伸びてきたが、ここのところ毎日夢の中で殺されまくっていることを思い出した。
「それは……いやな夢だね、この前夢見が悪いって言ってたのはそれのことね」
「食事中にそんな話題勘弁だわー。拾った宝石を胸に付けた騎士ねぇ、絶対関連してんじゃん」
「まあそう考えざるを得ないよな……」
もしこの宝石が町田ダンジョンの魔力濃度異常上昇と関連しているなら、この宝石は返しに行くべきだろうか。ダンジョンのボス部屋へまた行くのはちょっとめんどくさい……。
「まあ、返しに行くのが無難だと思う。これまで異常が起こってなくて、宝石を持っていった途端に異常が起きたなら、宝石を元の場所に戻せば解決するんじゃない?」
「だよな。状況だけ考えたら宝石は封印の要石みたいなもんだったってのがしっくりくるな」
「カナメイシ……?」
聞き慣れない単語だったが、どうやら地震を鎮めるために置かれた石で、そこから転じて何かしらの中心や要点といった意味合いになるらしい。そういえば地理の授業で話が逸れた時に聞いたことがあるような無いような。
つまりこの宝石が町田ダンジョンの何かしらの封印をしていて、封印が解けたから魔力が漏れ出していると。
「確かに辻褄は合うな、やっぱ返しに行ったほうが良いか」
「多分、このペースで魔力濃度が増えたら土日は警戒レベル5になるから近づけないぜ?思い立ったが吉日とも言うし、今日行ったほうがいいんじゃねーか?」
む、それは確かに……。スタンピード発生が近いとされる地域の近くの電車は折り返し運転になって近寄らなくなる。
手前の駅で降りて歩こうにも学生探索者はスタンピードの参加が禁じられてるから途中の検問で止められるし、行くなら今日がいいか。
「そうなると、バイトは休み入れなくちゃだな……おばさんに連絡しないと」
「あーそっか、学校終わったらいつもバイトだったもんね」
「大変だなぁ」
「他人事と思って……あ、もしもし、恵太です……」
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