第23話:閑散
『あら急用なの?大変ねぇ、わかったわ。今日はお休みで大丈夫だから、明日またお願いね!』
「すいません、ありがとうございます」
『いいのよ、いつも頑張ってくれてるもの!』
おばさんは快く休みの申し出を受けてくれた、本当に頭が上がらない……。
授業が終わったので一度帰宅し、シャワーを浴びる。着替えてダンジョンに行く時専用のバッグに自室の宝石を投げ入れ駅へと取って返したのだが。
「……なんでいるんだ?」
「いや、だって気になるじゃん!」
そこには動きやすい服装に着替えた瑞希が待っていた。瑞希の家は2つ隣の駅だしここに来るにはそんなに時間かからないから、俺より先にここにいること自体は不思議じゃないが。
あんな話をされたら気になるのは確かか。先に言っておいて欲しいけど、だいぶ前から衝動で動くことあったしな……。
「いいけど、C級ダンジョンは初めてなんじゃないっけ? 配信とかはいいのか?」
「いやー凄腕美少女探索者として売ってる身としてはね、いきなり歳の近い知らない男と一緒に探索とかめっちゃ燃えそうだし」
「凄腕美少女……」
思わず胡乱な目で見やってしまう。美少女って……自称で言うのか、それ?
「何その反応ー?美少女でしょ?」
「そうだけど」
「ならいいじゃん」
「うーん……」
まあ、本人とリスナーさんが楽しめてて周りに迷惑かけてないならいいのか。そういうことにしておこう。
電車に乗り込んでしばらく、町田に近づくにつれて徐々に車内の人影が少なくなってきた。誰も乗っていないというほどではないが人影はまばら、普段はどんな時間でも……いや通学路じゃないからそんなに頻繁に行くわけじゃないけど、町田へ向かう電車はいつでもごった返していたような気がするんだが。
「やっぱ避難指示の影響は大きいんだな」
「そりゃーそうでしょ、まあ急な話だしまだ対応できてないよって人も多いだろうけどねー」
「……」
思わず押し黙ってしまう。何も知らなかったからとはいえこの状況を引き起こしたのが自分かもしれないということに、責任感は生じてしまう。もちろん自分のせいではない可能性だってあるけど、楽観視はできない。
「まあまあ、一旦難しい顔やめとこ? とりあえずやることやってから考えようよ」
「瑞希……そうだな。ありがとう」
「いいのいいの」
町田の町並みもまた、本来の活気とは程遠くなっていた。たくさんの飲食店や商店はシャッターがいくらか目立ち、開いている店も貼り紙で翌日からの閉店が書かれているものが多い。雪や台風でも出社するうちの企業はブラックだ、なんて話は聞いたことあるけど、流石に避難指示が出てると違うのかな。
「歩いてるのはほとんど探索者、か?」
「そうでもないんじゃない? まだ対応しきれてない人だっていっぱいいるだろうし、あとはほら」
「ああ……」
避難指示が出ているにも関わらず地べたに座り込んで大声で談笑する若者グループ。店が開いてないから外で、ってことなのだろうか……。
危機感が無いと呆れるのは簡単だ。しかし実際のところ、スタンピードによる被害、損害がどれほどのものになるかっていうのを日本で明確に想像できる人は少ないと思う。
探索者協会は陸上自衛隊や民間会社と提携して、一定以上の魔力濃度のダンジョンを攻撃し魔力濃度を下げることになっている。そのおかげで、最後に日本で起きたスタンピードは10年以上前にもなる。確か、大地震によって原子力発電所で事故が起こり、深刻な放射能汚染によって近づけなくなったエリアのダンジョンからモンスターが溢れ出したものだ。日本史の授業で習った。
世界的に見れば日本はダンジョンへの対策というのはかなり進んでいる方で、スタンピードが起きてどれくらいの被害が出て、なんていうのはどこかの国で発生したものをテレビを通して知る程度の他人事か近代史の一部でしか無い。
だからだろうか、きちんと避難している人とそうでない人の「万が一」は違うんだろう。自衛隊がどこかの国のスタンピードに派遣されたってニュースも時折聞くから……あの若者グループが大声で喋っている言葉を借りれば、「万が一があっえも自衛隊や他の探索者解決してくれるから問題無い」、って感じだろうか。
「……ああはなりたくないな」
「だねぇ……」
そんなことを話しているうちに町田市部へと到着した。
探索者にマスコミ、警察、自衛隊、協会職員。あと野次馬……様々な人でごった返している。パッと見た感じ、警察と自衛隊が協力して野次馬に対処していて、マスコミは職員が対応している感じかな。
「なんか、やけに野次馬多くないか? 避難指示出ているはずなんだが……」
「んー、多分これじゃないかな」
「ん?」
瑞希が見せてきたのはSNS。えーとなになに、「協会からの要請により、私達Splashatterも町田ダンジョン付近の防衛に参加します! 付近にお住まいの方は必ず避難してください!」……ようするに民間会社への要請を受けたってことか。それで投稿者は……。
「アリエス・ケール……って確か、Pシーカーの」
「あれ、知ってるの? あんま興味ないんじゃないっけ?」
「この前新宿行ったときに生で見た」
「えーなにそれ! 羨ましい……あー、いやあれか、翔吾か。ファンって言ってたもんね」
「そうそう、その時もファンの人が集まってきてて動きづらかったんだけど……」
Pシーカーは所謂アイドル売りが多いらしいけど、こういう要請も受けるんだな。群衆に目を向けてみると、拡声器で避難を指示されているにも関わらず動こうとしない人たち。アリエスさんの投稿の必ず避難してくださいって文字は見えてなかったんだろうか。
「なんだかなぁ……」
「流石に全部がアリエスさんたちのファンってわけじゃないと思うよ、他にも個人のノビシーカーとかも来てるだろうし。こういう時個人とか数人単位だと動きやすいから……」
「あれ? 恵太くん?」
「え?」
施設に入る前からげんなりしているところにふと名指しで声をかけられる。こんなところで会う人で知り合いっていうと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます