第17話:提案
弥勒
終わった? 15:16
Kta
はい 15:16
とりあえず7層に降りようかと 15:17
弥勒
了解 15:17
7層入り口に戻るわ 15:17
「近い歳の女の子の素肌はどうだった?」
「セクハラですよ……」
「おおうド正論、ごめんごめん」
合流してすぐ、にやにやと笑いながらいじってきた。俺が見てた配信の映像からは見えなかったけど、弥勒さんは救助対象の衣装について見てたんだろう。困った人だ……自分にはまだ縁がないけど、上司のセクハラってこんな感じなんだろうか。
「はぁ……もう行きましょう。8、9層はすぐですし」
「あ、それなんだけどさぁ」
「はい?」
弥勒さんから唐突に出された提案は単純、ボス部屋へ行かないかというものだった。
事前の打ち合わせでは、9層あるうちの7、8層を往復し稼ぎをする予定だった。ダンジョンは原則的に、ボスのいる最終層からは前の層に戻ることができず、またボスはドロップ品の単価を戦闘時間で割ると効率が悪いためだ。
「そう言ってましたけど、どうしたんですか急に」
「これ見てよこれ」
見せてきた端末に映っていたのは魔石他ダンジョン産ドロップ品の相場情報を表示するアプリだ。弥勒さんが指差した場所を見ると、町田ダンジョンの魔石の買取額が「104%↓」の表記になっている。
「朝見たときは114%だったんだけどさぁ、相場割りそうなんだよね……」
「こんなに下がるものなんですか」
「君は特殊な例だけど、雑魚狩りにできるような人が来て短時間で狩るとこうなることもあるんだよ。それ込みでも想定した時間狩れば105%くらいで売れるかなって予測だったんだけど、さっきのが思ったより影響あったっぽいわ」
魔石の買取額はダンジョンの平均魔力濃度と比例している。
ダンジョン内の魔力濃度が高すぎるとモンスターがダンジョンから溢れて街に出てきてしまう、所謂スタンピードが発生してしまう。それを防止するため、魔力濃度が高いダンジョンに探索者が進んで挑むようにするために買い取り金額が上がる。
ダンジョン内で敵を倒して魔石を回収すればダンジョン内の魔力濃度は下がる。1体や10体じゃほとんど影響はないはずだけど……たしか、チェイサーゴーレムのように巨大なエネミーや単体で強力なエネミーは内包する魔力が大きい。さっきの警報+モンスターハウスで複数体呼び出されたのもあって、大量に撃破した分一気に減少したってことか。
「稼ぎとしちゃもう十分だしさっさと帰還しよう、ってわけよ。君ならボスも瞬殺できるだろうし俺もここのボスくらいなら足引っ張らないし、区切りとしてはいいでしょ」
「まあ、そうかもですね」
「謙遜しちゃってぇ、決まったなら行こうや」
そう言ってさっさと歩きだす弥勒さん。この人地味に押しが強いところあるなぁ、反対する理由が特に無いからいいけど。
7、8層を軽く突破し、星空模様の門を前に立って端末を弄る。何をしているかと言えば、ボスの情報を見ているのだ。
各ダンジョンの情報は協会の下にアーカイブ化されており、探索者であれば専用のアプリでいつでも閲覧できる。これは探索者が集めた情報を集積し、協会が登録することで更新される。有力な情報提供には賞金も出るので、特に新ダンジョン探索免許を取得して新しいダンジョンが発見された際に率先して潜ることで資金を稼ぐ人もいる。情報が無い新たなダンジョンの探索は非常に危険な分、成果によってはかなりの金額が出るからだ。
普通の探索者は先人の残してくれたこの情報を予習し、それを頼りに探索を進めることになる。自分もそうだが、本来ボスには挑まない予定で確認していなかったから今ここで改めて確認している。
町田ダンジョンのボスは
「まあ君なら正面から殴っても問題無く倒せるでしょ」
「ですかね」
攻撃を引き付ける役が敵の攻撃を回避しつつ敵を一か所に留め、その間に関節部や装甲の隙間、頭部といった弱点を攻撃することで攻略するのが正攻法。しかしレベル130辺りから装甲の上からでも十分なダメージを通せると書いてあった為、自分なら問題無く撃破出来るだろう。
(……こういうのを、フラグって言うんだっけ?)
そんなことを考えながら、星空模様の門を潜る。
赤みが増した壁面のボス部屋、その中央に膝を付いて鎮座した巨大な石像。
その躯体に光る紋様が浮かび上がり、立ち上がろうとするその瞬間。
「剛断っ!」
兜を被った脳天への一撃によってボスとの戦いが開幕した。
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