第16話:羞恥

「ん、信号が消えたね」

「ということは」

「救出成功……だね、警報解除するよ」



 約10体ほどのゴーレムに散発的に襲ってくるオークやオーガといったエネミーを討伐していた最中、邪魔にならないように置いてあった端末からの通知音が消えた。


 これはつまり協会の人が助け出すことに成功した……はずなんだけど。



「今の間はなんです?」

「いや一応、救出に失敗して死んだ場合でも職員が信号止めるからさぁ、配信見て確認したわけよ」

「やめてくださいよ」

「大丈夫だって、ちゃんと助かってるの確認できたから」



 ならよかった、碌でも縁起でもないことを言うなぁ。


 まだ鳴っている警報の罠の解除は任せて、戦闘の合間に取得した【敵感知】で反応を確認する。



(まだあまり育ってないから範囲は狭いけど……とりあえず反応は無し。一帯の敵は狩り尽くしたか?)



 ダンジョンでの敵はリポップ……再出現までにある程度の時間を必要とする。霧散した魔力が再び集まって形作られるまで時間がかかるからとか、魔石を回収することでその階層内の魔力が微量なりとも減ってその分を他の階から補填するからとか、そういう理由らしい。


 そのため警報で短期間に一気に敵を倒しまくった今の状況ならば、追加の敵に襲われるような事態にはならないはず。ようやく一息付けた。



「解除終わったよ、改めてお疲れ様」

「お疲れ様です」

「いやいや、俺ほとんど何もしてないし。そっちは疲れてないの?」

「大体一撃で倒せてたので、そんなに」

「さすがぁ」



 戦闘の疲れ自体は無い、ただ警戒し続けるというのは思った以上に疲れを感じた。後々レベルでゴリ押せない場所に潜ることになればさらに長時間の警戒が必要になる。どこかしらで訓練する必要があるな。


 そんなことを考えていると、「げ」と弥勒さんが声を上げる。



「どうしたんです?」

「いやあなんか配信切り忘れてたっぽくて職員との会話流れてんだけどさぁ、なんかお礼言いたいからこっち来るとか言ってんだけど」

「……いいことでは?」

「言ったでしょ、俺はこういうの映りたくないの! あとで合流場所送信するからそっちで合流するよ、あと変なことは言わないでね今やってることバレるのはまずいから!」



 笑顔でそう捲し立てるとじゃあ後でね! と足早に立ち去ってしまった。これ俺に対応しろってことか? さっきさり気なく職員さんが来た時も警報を押したのを俺ということにしてたし、本当に目立ちたくないんだな。当然と言えば当然だが。



(……武器の手入れするか)



 学生は協会に手続きすることで貸し出しされる武器しかダンジョン内で使用することはできない。この貸し出し用の武器は色んな企業の物があるが、そのどれもが旧式で性能や耐久面において現行で販売されている物と比較して劣っている。


 特に自分はこの武器の適正レベルと比較してレベルが高すぎることもあって装備の消耗が早く、丁寧に戦っても割とすぐ折れそうになるので細かい手入れがいる。



(修理用の魔石、足りるかなこれ)



 武器の中に内蔵されてる修復魔法を起動するだけだから武器を使う側は特別な技術はいらないが、起動するには魔力、つまり魔石がいる。警報が鳴っている間にも時折修理を挟んだから支給された魔石も底を尽きかけている、予定よりかなり早いけどそろそろダンジョンを出るべきか。D級ダンジョンの魔石をこの武器の修理に使うのは無駄が出すぎてもったいないしなぁ。



「あ、いました!」

「お疲れ様です、先ほどはありがとうございました」

「ああ、お疲れ様です」



 入口近くのセーフエリアに戻って水分補給と修理をしていると、通路からさっきの職員さんが顔を覗かせる。その後ろには俺と同年代の女の子。さっき見なかった娘だから彼女が救出対象ってことか。


 擦り傷だったり服の汚れはあっても大きな怪我は見られない。無事に助けられたみたいでよかった。



「こちらは救出対象だった方です。あなたの行動に助けられたということで、どうしてもお礼をと」

「双葉 愛衣です。本当に、なんて言ったらいいか……命の恩人です、本当にありがとうございます」

「い、いえいえそんな」



 深々と頭を下げる双葉さん。腰に下げた剣と背負ったチャクラムを見るに愛衣さんは近遠複合型の「踊り子」らしく、それに合わせて彼女の装束は露出度が高い。配信者だから派手な格好をしているのだろうか? 健全な男子学生の俺にはちょっとだけ目に毒だ。


 武器や消耗品に制限があるのに対して服や防具に関しては自費で買える範囲なら指定が無い。そのため特に配信をやっている人なんかは自作らオーダーメイドで専用の衣装を着こなして目立つようにしていることもある。俺には金が無いから私服だけど。



「職員の方から聞きました、救難信号に合わせて警報の罠を作動させたって。あれが無かったら、今頃……」

「タイミングに関しては偶然ですよ。とにかく助かったならよかったです」

「それでも本当に、本当にありがとうございました!」

「えぇと……」



 話してるうちに思い出したのかぽろぽろと涙を流しながら、更に腰を折って感謝を伝えてくる。泥と煤に塗れた背中が眩しい……普段見えない部分の女の子の素肌にドギマギしてしまう。


 助けを求めるように職員さんに目をやると、生暖かい目で見られてしまった。恥ずかしい。



「双葉さん、そろそろ行きますよ。治療の他、色々聞かないといけませんから」

「あ、はい……すいません、本当にありがとうございました。もし縁があればまた」

「ああ、えと……お大事に」



 ぺこぺこと何度も頭を下げながら帰路につく双葉さんと職員の方を見送る。もう少し上手く話せればよかったんだけど、難しいな。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る