「1周年記念!初めてのD級ダンジョンに挑みます!」
「はぁっ……! はぁっ……!」
「舞衣姉ぇ……!」
キッカケは注意散漫と油断。ダンジョンに挑むときに絶対にしてはならない2つが、私達には真の意味で備わっていなかった。
「みんな、おはまい! 双子系ノビシーカーの双葉
「おはひめー! 双子系ノビシーカーの双葉
「「二人合わせて舞姫です!」」
"おはまい!"
"おはひめー!"
"うおおおおおおおお"
"待ってた"
"来た!"
同時接続数……つまり配信を見てくれている人が約2000人。
双子という物珍しさ、(自分で言うのはちょっと自意識過剰だけど)二人でE級ダンジョンを踏破する実力、(自分で言うのはすごく自意識過剰だけど)ビジュアルの良さもあって、嬉しいことに現役学生のノビシーカーとしては上から10には入る人気だ。
「私たちも早いものでデビュー1年が経ちました!」
「これも応援してくれてるみんなのお陰だよ! 」
"おめでとー!"
"成長したなぁ(後方古参面)"
"めでてぇ"
"おめでとう!"
ノビノビ動画やYouVisionで配信や動画を見て、それをかっこいいと思ってやってみたくなって、姫衣……
配信やってみよう、って言ったのは愛衣の方。双子での探索者は珍しいからもしかしたら大人気になれるかも、って。
「それじゃあそろそろ雑談はここまでにして、」
「行くよ!D級、町田ダンジョン!」
"きちゃ!"
"待ってた"
"頑張れー!"
ものは試しで、誕生日にパパとママに自動追従機能カメラを買ってもらって、もちろんちゃんと相談して、所謂個人勢の配信者としてデビューした。
個人勢の配信者が伸びるのはとても難しい。私たちも、もちろんたくさん登録してくれたら嬉しいけど、現実的に1年で登録者100人達成出来たらいいねと、(内心の欲望はともかく)あまり過剰な期待はせずにいた。
ところが有名な配信者の方が、私達の配信を見ていたことを雑談で話題にしてくれたことから一気にバズった。これが夏休みだったこともあってチャンスとばかりに一時的に配信頻度を上げた。その結果、あれよあれよと目に見える数字……登録者数が積み上がっていく。それをモチベーションに変えてダンジョンにでの戦闘は更に加熱さが増し、目に見える数字……レベルやスキルレベルが引き上がっていく。
そして遂には高校卒業後にウチに所属しないかという、所謂スカウトが届くようになった。いくつか届いたその中にはPシーカー界隈では最大手と言っていいぱられるわーるどの名前すらあった。
「戦闘終了!」
「よし!結構なんとかなる!」
"お疲れ様!"
"かわいいよー!"
"何度見てもいいなこの2人の戦闘"
"華麗だ……"
全能感。やること為すことが上手く行く、そんな快楽。それでも自制の心を保っているつもりだった私達は、今ならば数字という目に見えるものに支配されていたと理解できる。
走馬燈のように駆け巡る、最近の配信。雑になった罠の察知、撮れ高を気にしてあえて引っ掛かる罠、格下相手の魅せ重視になり基礎を怠った戦闘、悪い意味での怪我への抵抗心の低下。
「いやー私達って無敵だね!」
「それじゃあこの調子で……え?」
"なんだこの地響き"
"罠踏んだ?"
"おいやばくね?"
「モンスターハウスッ!?」
「囲まれてる!」
そんな積み重なった慢心のツケを、払わされる日が今日だった。
かちり。
「あ、ぎぃっ!?」
「舞衣姉ぇっ!?」
"うわ"
"マジでやばいって!"
"血が!"
"協会はよ来いよ何してんだ"
なんてことの無い石弓の罠が私の足首を貫き、思わず倒れ込む。
余裕の無い状況こそ注意が散漫になりやすく、罠を踏みやすい。ガイダンスで言われたそんな言葉が頭を過ぎる。でも、もう手遅れ。
低い地響きの音が、モンスターハウスで私達を囲むようにして現れたゴーレム達が追い付いてきたことを知らせる。必死で走ったつもりだったけれど、包囲を抜け逃走するための戦闘で思いの外体力を使っていたらしく、そこまで距離を離せていなかったようだ。
「……姫衣、私が出来るだけ敵を留めるから、あなたは逃げて」
「舞衣姉、だめだよ、そんな……」
「お願い、私のことはいいからっ……!」
「絶対ダメ! 私達は、二人で……ぐぅっ!」
「姫衣っ……!」
"死なないで!"
"麗しい姉妹愛だ……てかドッキリなんでしょ?そろそろネタばらしはよ"
"助けはまだかよ、他の探索者カスすぎ"
"協会早く!、!!!"
せめて姫衣だけでも逃がそうとする私と、私を背負って歩き出す姫衣。姫衣の所持スキルではSTRには大した補正は付いてない。その歩みは遅々。
チェイサーゴーレムに、悠々と先回りされる程度には。
「あ……」
「そんな……」
"やめてえええ"
"あーあ"
"やめろ!"
"え、これガチなやつなの?"
ゴーレムが拳を振り上げる。それに合わせて、自然と目を硬く閉ざす。想像するより遥かに痛いか、そもそもそれが感じられるより前に死ぬかもわからない、そんな痛みに備えるかのように。死神に懺悔するかのように。
ダンジョン内に、「警報」が鳴り響いた。
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