第14話:警報

「町田ダンジョンの予習はしてきた?」

「大体は」

「大剣選んでるからここ選んだって感じ?」

「そんなところです」

「いいね」



 ダンジョンによって特徴は様々。同時に、特に武器や戦術によって適正のある無しは変わってくる。1つの武器しか扱える技量を持たない探索者が特定のダンジョンへの同行を断られる、なんて光景は日常茶飯事……らしい。


 なので特にこれという理由が無ければ大抵の探索者は予習し、自身の扱う武器と相性のいいダンジョンへ向かうか、複数の武器を扱えるよう鍛錬しある程度どのダンジョンへも潜れるようにするかを選ぶことになる。大抵は前者だ。


 謎の高レベルがあったとしてもわざわざ慢心していく意味は無い。例に漏れず突入するダンジョンを選ぶにあたり、自身の唯一使った武器である大剣が有効に使える場所を探した上で入念に予習をした。


 そして弥勒さんは弥勒さんで、自身の活動の都合で都内のDランク以下のダンジョンは全て足を運んだことがあるそうだ。当然調べ直しもしていて、町田ダンジョンの情報はほぼ完璧と言っていい。


 「めんどくさいから喋っていい部分は喋ろうよ」との弥勒の言で続いた突入前の打ち合わせは、非常にスムーズに進んでいた。



「まあ実際に見て驚いたけど、君くらいのレベルなら町田ダンジョンの敵は軽く捻れるだろうし、あんま心配することは無いかなー。あるとするなら……」

「6階以降のモンスターハウスか警報ですね」

「そだね、君次第だけどあれだけは流石にダルい。踏んだら踏んだでなんとかするしか無いけど……面倒だし事故があっても怖い、基本的に踏まない方向で行こっか」

「そうですね」



 比較的同時接敵数の少ない分エネミー単体の能力が高い傾向にある町田ダンジョンでは、その数を増加させる罠……フロア中に存在するエネミーを発動地点に集める「警報」と大量のエネミーが一度に出現する「モンスターハウス」の危険度は一段と高い。


 6層以降にしか出現しないそれを避けるために、6層以降は一層罠に気をつけて探索するのが基本となる。その認識をお互いに再確認し、食事を終えて席を立った。








「そのはずでしたけど」



 その弥勒さんがわざと作動させた警報の罠を見て、思わず渋い顔になる。



「いやぁごめんね、配信見てたらマジでやばそうなな感じだったから、咄嗟にね」

「自分に都合がいいって言ってましたよね」

「それもある、ってことで。配信見てる限りとりあえず危機は去ったようだしいいじゃん」



 端末を見ながらヘラヘラと笑う弥勒さんに溜息をつく。やった意図はある程度想像がついてたけど、事前に一言言ってほしかった。



「大量の敵に囲まれた経験は無いんですが」

「流石に任せきりにはしないよ、柔らかそうなのはある程度やる。ゴーレム系とかはお願いね」

「はぁ……わかりましたよ」



 腰に提げた短剣を抜いてくるくると回す弥勒さんにもう一つ溜息。いや、雑談で時間を潰している暇はないか。とにかくこの警報で集まってくる敵に対処しなければ。


 取得したばかりの【戦闘感知】は現在何の情報も齎していない。それはつまり戦闘状態になっていたエネミーが移動したということ……弥勒さんの言う通り、方法はどうであれとりあえず危機は去ったようで何よりだ。


 まあ、大量の敵を上手く捌ければ大きな稼ぎになる。チャンスと考えていくべきだろう。とりあえずはそう納得して、通路から顔を出したゴーレムに大剣を叩きつけた。



「らぁっ!」

『ゴ……!』



 一気に距離を詰めての一撃で通路内に押し戻し、追撃の突き出しで体力を刈り取る。これなら何体襲ってきても物の数ではなさそうだ。



「恵太くーん! ドロップ拾うのめんどくさいから倒すなら部屋の中で倒してほしいなー!」

「それくらいはやってくださーい!」

「流石にだめかー!」



 戯けたような、緊張感の無い叫び声に思わず力が抜ける。警報発動に思わず力が入っていたけど、いい感じにリラックスできた気がする。狙ってやったわけじゃないだろうけど。


 俺のレベルなら、冷静に処理していけば危険度の高い警報の罠といえども問題無さそうだ。不気味なのは変わらないが……ありがたく恩恵は受けよう。



「この感じ……前後で挟まれそうだ、後ろは任せていいよ」

「了解です、前方を片付けます」



 再び来る敵に対して大きく構える。さて、救出の方は首尾よくやってくれるだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る