第8話:方策

「実際のところ程度はどうあれ何かしらの事情があって、早急にお金が必要だからダンジョンで稼ぎたいって学生の例は無くはないんだよ。私が知ってるのだと、企業のノビシーカーに内定したからデビュー前に機材を買うためとか、重いのだと親が交通事故にあったからその間の生活費とかね」



 再び座り直した女性……三好さんは語る。



「アルバイトはどうしても校則で禁止されてたりとかそもそも面接しても必ず受かるわけじゃないとか、色々あってすぐにとは言わないでしょ? そういう事情もあってライセンスさえあれば潜ることはできるダンジョンでお金を稼ぐことを狙う層もいるわけ」

「なるほど……」



 確かにわからない話ではない。自分は確かに苦難に見舞われてはいるが、それ以上に……というか、正確には苦しんでいるのは母さんで、俺はそれを補助したいと思っているだけだ。


 そしてそれと同じように、世界には苦しんでいる人間はいっぱいいる。なら危急的に資金が必要な学生っていう大雑把な括りで考えれば、似たような状況にある人間もどこかにはいて。



「そういう人間がどうにかして稼ぐ方法を作った、と」

「まあそういうことだね。この辺協会はずっと前から駄目なものは全部駄目!って言って融通効かないから……いやまあ私もそんな昔の実態知らない又聞きだけどね」



 さっきの受付でのやり取りを思い出す。確か前に軽く調べた限りでは俺が産まれる前くらいから学生がダンジョンに潜るのは禁止だったと書いてあったけど……。



「それで、具体的にその人たちはどうやって稼いでるんですか?」

「割と単純な話だよ。ただそれは恵太くんが、一人である程度狩りができる前提だけどね」

「一人じゃないとだめですか?」

「方法を絶対に口外しないと信用できるお友達がいるならその子と一緒でもいいけど、可能な限り一人が望ましいかな。一旦着いてきて」



 そう言うなり立ち上がってセーフエリアの外へ進み始める三好さんを追って、6Fの奥へと進んでいった。






「あれ、倒せる?」



 岩陰に隠れた三好さんに合わせて隠れ、指差した物を見やる。


 こちらに気づいていないジャイアントスラッグが3匹。感知範囲が狭く動きも鈍い、4と5Fにも出てきたエネミー、俺の敵じゃない。問題はどうやって倒すかだ。


 変に手を抜いて「この実力じゃあ情報を教えられない」なんて言われても困る。一気に倒してしまう方がいいか。



「いけます」

「じゃあお手並み拝見ってことで」



 大剣を構える。それなりに広い通路の交差点の中央付近、今隠れている岩陰からの距離がこれくらいだから……力加減は多分これくらいで……。



「っ!」



 大ジャンプし上を取る。距離はほぼバッチリ。そして自由落下に任せ……。



「ふんっ!」



 1体を重量に物を言わせて斜めに叩き斬る。一撃で真っ二つになったジャイアントスラッグが即座に消失するのに合わせてビクンと反応をするが、その動きは遅い。



「っら!」



 着地から一歩踏み込み、回転斬り。これもクリーンヒットし、2体のジャイアントスラッグが大きな切り口が生まれる。真っ二つとはいかないが、これで十分。



「終わりましたよ」



 量子化する死体を背に岩陰の三好さんに声をかける。ジャイアントスラッグの死体の匂いは仲間を呼ばないし、アラートの罠はこの階には出ない。本来は高めの耐久力が厄介らしいけど、俺にとっては特に問題の無い相手だ。


 あれ?



「三好さん?」

「あ、いやお疲れ……すごいね、ほんとにルーキー?」

「間違いなくこの探索が初めてですよ」

「それでこれだけのダメージを出せる……? いやいいか、この目で見ちゃったしね」



 ……やはりこの力って異様だよな。今日中に10Fを踏破してステータスを見たいところだ。



「それで倒しましたけど、このあとどうするんですか?」

「ああうん……ここに魔石が落ちてるよね?」

「落ちてますね」



 ダンジョン内でエネミーを倒すと死体が量子化した魔力という形でダンジョンに飲み込まれる。飲み込まれた魔力はダンジョン内で凝縮され新たなエネミーを生み出す。こうしてダンジョン内で魔力が循環していく。


 ただし飲み込まれる魔力は倒したエネミーの全てではなく、魔石という魔力の塊や、非致死性ダンジョンで無いならアイテムと呼ばれるエネミーに対応した物品という形で、物質的にその場に残る。それを回収し売却することで、探索者は利益を得ている。まあどちらも学生ライセンスだと買い取り不可だが。


 ダンジョンは大気中の魔力も吸収するため、放置するとエネミーが際限なく増え続け、やがては地上にあふれ出る。それを阻止するため、あまりエネミーの討伐が進んでいないダンジョンは魔石の買取の利率を上げることで探索者を呼び、逆なら下げることで他のダンジョンに潜ることを促す。そうやって探索者の界隈というものは回っている。


 俺が倒したジャイアントスラッグもそうで、倒した箇所には極小サイズの魔石が転がっている。



「これ、君が持ち帰ることは意味無いよね」

「まあそうですね、換金できませんし」

「ならこれを拾って誰かが換金してもいいよね?」



 ……ああ、わかった。なるほど単純な話だ。



「つまり、他の人に換金だけしてもらって、お金はこちらがもらうってことですね」

「そゆこと」

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