第7話:休憩
新宿ダンジョン『支配の塔』5F。
「ふっ!」
非致死性ダンジョン全てに共通の設計として、1F~30Fまではその名前に関わらず比較的通路が狭い洞窟が続く。
狭いと言ってもここに入るのは大抵デビューしたてで(探索者内比で見て)そこまで身体能力が高くない人だ。だから大抵の人には問題無いのだが……。
(なんとか慣れてきたな)
踏み込みで一気に距離を縮めて振るった大剣でゴブリンの首から上を吹き飛ばし、死亡した証である量子化と魔石のドロップを確認して一息つく。
理由はわからないがやたらと高くなっている身体能力を多少は制御できるようになった。今の自分にとってはちょっと狭すぎる。階層が上がるにつれて1フロアの通路の広さというのは大きくなっていく傾向にあるそうなのでどんどん上へ登っていきたいのだが。
(高校卒業するまでは30Fまでしか潜れないからなぁ……)
この狭苦しい岩の通路が見納めになるには31Fに到達しなければならないが、学生ライセンスでは非致死性ダンジョンは30Fまでしか侵入が許されていない(正確には、31Fに到達したことが確認されると罰則がある)。このペースなら楽勝で行けそうだし、さっさと30Fをクリアする実績を残したらあとは他のダンジョンに向かう方が良さそうだ。
まだステータスを詳しくは見れないが、この周辺の敵は相手にならない。もしかしたら何かSPスキルが変な風に作用されている可能性もあるし、自身のステータスは早めに確認したいが……。
端末を開いて時間を確認する。潜り始めてから1時間……休憩にはちょっと早いか?
(いや、油断は禁物だ。慎重なくらいでちょうどいいだろ)
次の6階にはセーフエリアがある。一旦そこで休憩することに決め、足元に設置されていた吹き矢の罠のスイッチを叩き壊して足を進めた。
「あ」
「ん? ああ、お疲れ様ー」
「お疲れ様です」
6Fのセーフルームには先客がいた。水を飲みつつ端末を弄る短髪の女性。ここにいるってことは同じく新人の探索者かと聞いてみると。
「ああいやいや、全然そんなこと無いよ。私は潜り始めて3年目」
「えっ? じゃあなんでこのフロアに?」
「極小魔石って需要が多い割に意外と供給が少ないから、難易度の割に意外と馬鹿にならない稼ぎになるんだよね。私はあんまり探索者の才能無いから副業感覚で小銭を稼いでるの」
うちはホワイト企業で週2で休みあるからね、と笑う女性。差し出された端末の画面を見てみると、確かに新宿支部の極小魔石の買取は112%と相場より高くなっていて、それより上のサイズは軒並み70~80%台となっていた。単価は当然上のサイズの方が高いが、ある程度慣れれば適当に戦っても楽勝なここで大量に稼ぐというのもありなのか。
「まあ地味でつまんないし達成感も無いから、大抵の人はレベルが上がったらさっさと上の階層に挑むんだけどね。魔石の単価も高いし」
「なるほど……」
「そういう君はさっき受け付けでちょっと揉めてた学生さんでしょ? もうここまで来るのはかなり早いね。体調大丈夫? 初ダンジョンでしょ?」
「大丈夫ですけど……目立ってましたか?」
「あんまり珍しい光景では無いけど、まあちょっとはね」
苦笑されて思わず頭を抱えた。俺だって人並みには有名になりたいって欲はあるけど、そういう目立ち方は変な噂になりそうでよくない。あ、でも……。
「珍しくはないんですか?」
「まあそりゃ、皆お金稼いでるのに俺はできないのずるい! って騒ぐバカ学生は春夏の風物詩だからね。あ、チョコ食べる?」
不意に差し出されたチョコレート。……そういえば時間的には3時のおやつにちょうどいいか。断るのも失礼だしな。
「いただきます」
「はいどーぞ。まあでも君はなんか受付の態度とか真剣だったし、あんま馬鹿学生って感じはしないね。なんか事情あるの?」
「それは……」
恐らくあちらからは単純に話題を振っただけだと思うが、言いよどむ。あまり明るくない個人の事情を会ったばかりの人に話すのは憚られる。不幸自慢みたいになってしまうかなというのもあるが。
「あ……えーと、思ったより事情重そう? ならいいよ話さなくて、興味本位で聞いちゃってごめんね」
「いえ、大丈夫です……」
「……」
「……」
うーん、会話が途切れてしまった……。受け取ったチョコレートを口に放り込む。あ、いい感じに甘くて美味しい。脳に染み渡る感覚だ。
暗い洞窟を一人で進んでいたからか気分が沈んでいたような気がしてたが、甘いものを食べるだけで結構変わるな。本格的に潜る日なら、下手に我慢するよりはきちんと用意していく方がいいな。
気分も持ち上がったし、そろそろ行くか。
「……そろそろ行こうと思います。チョコレート、ありがとうございました」
「……ごめん、ちょっと待ってもらっていい?……君のその、お金を稼ぎたい状況って、結構深刻なものなの? 詳しくは言わなくていいから」
何かを悩んでいた女性が深刻な顔をして声をかけてくる。なんだか、やけに必死な……そうまでして見ず知らずの俺に伝えたいことがあるのか?
「まあ……自分の目線からすると、かなり……」
「うーん、そっか……いや本当はよくないんだけど……かなりグレーな方法だけど……学生でも魔石によってお金を稼ぐ手段があるっていったら、興味はある?」
「え!?」
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