第3話:経過
翌朝早い時間、おばさんに言われた通り俺と恵里の学校に電話をかけた。
『なに?! お母さんはだいじょ……いや大丈夫なわけないか、大丈夫だったら入院しとらん。とにかくわかった、お前の妹さんは中等部の2-Bだったか?』
「は、はい」
『わかった、俺から伝えておく。お前は母子家庭だったな、頼れる大人はいるのか?』
「えっと、小さい頃から近所に仲のいい人がいて……」
『ならとりあえずは安心だな? お母さんが連絡取れるようになるとか、なんか手続き? とか必要なのがあるんだったらそれが終わって落ち着いた後とか、あー……それかそうだな、日曜日になったら改めて一本電話を寄越せ、いいな? それまでは休んで構わんからな! 学校から出さないといけない書類とかがあるならそれもすぐ連絡寄越すんだぞ! お大事に!』
受話器を置く音と共に電話が切れた。相変わらず話が早いというか迷いがないというか、声がでかいというか……。
母さんのバイト先には、朝の日用品の買い出しついでにおばさんが行って、何かあったらこっちに連絡するって言ってたから……。
「……そうだ、朝ごはん準備しないと」
平日は母さんが作ってくれるから、失念していた。どれくらいになるかはわからないが、とにかくしばらくいない。恵里の分も合わせて、俺が作らないといけないんだ。
「おはよ……恵太がご飯作って……今日日曜……? あ、そうか……」
「おはよう。恵里の担任からは、俺もそうだけど、日曜になるか母さんが起きるまでは来なくていい、ってさ」
「そっ、か……」
トーストとハムエッグに、適当に野菜を切っただけのサラダ。日曜の朝食を作るのは自分の役目だが、これからは毎日。レパートリーを少し増やすべきか。
「手続きとかで必要なことがあったら俺がやるし、行きたいなら行ってもいいんだぞ? 恵里はまだ中学生なんだし」
「恵太も高校生じゃん……やめとく、勉強に集中出来そうにないから」
「そうか」
なんとなくテレビを付ける。朝のニュース番組では、相変わらず政治がどうのダンジョンがどうのという話題が主流のようだ。
ダンジョン……フリーの探索者でも上手くすれば一攫千金も狙えるが、俺はまだ学生の身分だからな。魔石の買い取りは規制されている。
「休みって言っても、何かすることあるの?」
「とりあえずは母さんが起きたら、一緒に色々医者から話聞くことになるからそれ待ち。具体的に入院期間がどれくらいになるか、そのために必要な手続きとか用意する書類とか、色々あるだろうから」
「……とりあえず、部屋にいるから何かあったら呼んで。ご馳走さま」
恵里は食べるのが早い。自分の食器を洗ってそそくさと自分の部屋に戻っていった。最近は部屋で一人でなにかしてることが多いけど……新しい趣味でも見つけたのだろうか? それならいいんだが。
母の勤め先に言われた資料を届けたり途中で警察の人に話を聞かれたりと色々あって時間が経った昼過ぎに、病院から電話があった。
母さんが目を覚ましたということで、言っていた通り色々な話をするために妹を連れて再び病院を訪れることとなったのだ。
「お母さん!」
「恵理! 惠太も、心配かけてごめんね……」
「いいんだよ母さん! よかった……!」
毎日見ているはずの母さんの顔にこんなにも安心感を覚えた。母さんの胸に飛び込んで泣く恵理を見てたら、俺もまた目頭が熱くなってしまう。俺、こんなに涙もろかったっけか……。
「再会をお喜び申し上げます。それでは、正子さんの容態や今後のことについて、説明させていただきますね」
「は、はい」
気恥ずかしくなったのか恵理が母さんから離れ、俺と恵理は椅子の上で、母さんはベッドの上でそれぞれ話を聞くことになった。
といっても症状については概ね昨日の診断の通りで、体内の至る部位が魔力汚染されており、長期間の入院により徐々に体内の魔力を濃度を減らしていく他無いという。
「正子さんの容態は日常生活の中で魔力が蓄積されていった結果のものとなりますので、通常の治療である投薬や週に一度通院しての治療というのはあまり効果を成さないものとなると思います。ですので進行を遅らせるだけならばともかく、完治を目指すというのならば入院は避けられないでしょう」
「あの……もし投薬や通院での治療をした場合はどうなりますか?」
「当然ながら毎週費用もかかりますし、それでも半年後か来年……遅くても3年経つ頃には今回のように日常の中で意識を失うケースも再発すると見込んでいます。治療の効果の面でも資金面でも、おすすめは出来かねます」
「そうですか……」
母さんの顔色が曇る。うちは貧乏で、爺ちゃん達もそうだし頼ることもできない。入院ってなると、当然入院費がいる。うちに払えるのか……?
「あ、あの、お母さんの入院って、どれくらい……」
「経過を観察しながら治療計画を適宜変更していく形にはなりますが、順調に治癒していけば18ヶ月、前後2ヶ月ほどでの完治を想定しています」
「1年半も……」
言葉を失う。確かにここ最近は具合が悪そうにしていたことも多かったとはいえ、改めて聞くとそんなに悪かったなんて。
「……まあ、仕方ないわよ。こんなこともあるわ。お金は借りて、退院したらちょっとずつ返していけばいいから、大丈夫。恵太も恵里も心配しないで」
「でも……」
「俺、学校辞めて働いたほうが……」
「それは駄目。覚えておいてね、自分の為に子供が学校に行くことを諦めさせるなんて、嬉しく思う親はいないの。きちんと遊んで勉強して卒業することが私への恩返し。ね?」
笑ってそう言われてしまえば、俺には何も言えない。なるべく節約すべきだし……あと、休日にも働けるバイトを探して、少しでも負担にならないようにしなくちゃ。
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