第4話:配信

『平気か?』

『お母さん大丈夫?』 



 病院で様々な資料と説明を受けてから帰宅して端末を覗くと、メッセージアプリに彰吾や瑞希から連絡が入っていた。……いや、何してるんだ皆。ありがたいけど時間を見るにこのメッセージ送ったの昼休みだろ。



『平気じゃないけど、とりあえず学校は明日から行く。ありがとう。先生に見つかるなよ』



 とりあえず全員にコピペで返信して一息付く。……実際、大丈夫かどうかは微妙なところだ。医者からの説明によると、



「ただ、正子さんの容態については不可解な点があります」

「不可解?」

「はい。確かに弱っている身体に過剰な魔力が有毒なのは確かなのですが、人間の身体の仕組みとして呼吸と共に体内の魔力を排出しますので、体が弱っていることを加味してもここまで大きく衰弱する例はなかなか見られません。一例としては魔力の濃いダンジョン下層に潜り続けた人が大きな怪我などを負った、という前例があるのですが……」

「母さんは日常生活を送っていただけで、ダンジョンに潜ったことは無い……よね?」



 こくりと頷く母さん。死んだ父さんや祖父母も含めて、ダンジョンに潜ったことのある人間はうちの家族にはいない。



「そうですよね。そうなると他に原因があるのかもしれませんが……。体質的なものなのか外的要因があるのか、これからの検査及び経過観察でわかっていくと思います」



 ということで、何か原因があるかもしれないから、それ次第で容態が変化することも考えられるという意味では大丈夫とは言えない。


 とはいえ俺に出来ることは日々をきちんと過ごすことくらいだ。



(昼ごはん作って、洗濯と掃除して……そういえば、ダンジョンで金を稼ぐ手段について調べてみようかな)



 未成年者による魔石の取引は禁じられていることは知っているが、もしかしたらそれ以外にお金を稼げる、例えば雑用のバイトとかはあるかもしれない。普通の土日だけできるバイトや日雇いを探すのもいいけど、せっかく学生用ライセンスを取ったんだから活かせるなら活かしたいところだ。






(色々あるんだな)


 昼食と家事を済ませて杉の子屋でバイトさせてもらう前に時間が空いたので、ネットや動画サイトなどでフリーの探索者が稼ぐための方法を探すことにした。探せば出てくるもので、魔石納品での稼ぎ以外にも複数の稼ぎ方が紹介されていた。


 中でも手軽そうでおすすめされているのは荷物持ちだ。荷物を持ちながらパーティの後ろを付いていって、役割は主に戦闘になったら隠れ、戦闘が終わったら落ちている魔石やドロップ品を回収、消耗品や武器防具をパーティの指示に従ってメンバーに渡すこと。


 パーティにもよるがダンジョンで使用するアイテムは多岐に渡るから戦闘中に各自が使う手荷物としてだけでは足りず、また回収した魔石を詰めた袋は戦闘中に邪魔になるし戦闘の余波で袋が破損して持ち帰れなくなったりでもしたら大損。それを避けるために運ぶための人員は基本的に必須らしい。


 つまりは雇い主は多い、ってことか。ならば自分でも雇ってもらえるかもしれないな。とはいえ、この情報サイトだけを鵜呑みにするのは避けたい……。何か他に情報源は……。



(現役の探索者に話を聞ければいいんだけど……ああそうか、配信)


 動画サイトに探索の様子を動画や生配信でアップロードする探索者は「Novice Seeker」から転じてノービシーカー、日本の動画サイトである「ノビノビ動画」と合わせてノビシーカーと呼ばれており、現在ではそれ専門の会社すら存在する一大コンテンツの一つだ。


 平日昼間から配信している人も多い。探してみようか。



(おお、いっぱいいる……)


 軽く配信中の人を検索しただけでたくさん出てきた。あまり多いと迷ってしまうが……。



(こういう時は条件を絞ればいいんだ)



 まず、自分は直接質問をしたいんだ。そうなると、探索者といっても見ている人が多い人だと色んな人が色んなコメントをしているってことだから、自分のコメントは見られない可能性がかなり高いだろう。見ている人の数は〇〇人が視聴中って書いてあるからわかりやすい、これが少ない人を探せばいいんだ。それにしてもすごいな、こっちの井門 風土……いもん、ふうど?ってノビシーカーの配信はこの時間に1万人も見ているのか。


 あとは、自分はまだダンジョンに潜ったことすらない素人だから、なんというか、こちらを馬鹿にしてきそうな人は避けた方がいいよな。優しい人がいい。そんな人は……。



(あ、この人いいんじゃないかな)



 「【初心者応援中!質問もお気軽にどうぞ!】ダン索お兄さん 新高山 登/Niitakayama noboru」さん。視聴中の人数は10人。多分本名じゃなくて芸名?だよな。親切にも質問もお気軽にって書いてくれているし、迷惑にはならない……はずだ。ちょっと覗いてみるか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る