半獣少女のキャコ

 その日は結局、施設の案内と住み込み用の部屋へと通された。郵便の流れは、元いた世界と変わらなかった。違うとすれば、機械が無いこと。手作業で行われている部分が多かった。

「三階のこちらが、あなたの部屋になります。」

「おぉ〜」

「簡易的な物しか有りませんが、困る事は無いかと。他に必要な物が有れば申してください。あまりにも個人的な物は、給与で購入して下さい。」

「分かりました!今日は、ありがとうございました!」

「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いしますね。」

ポストマスターは笑顔で、扉を閉めた。大里は簡易的な寝床に横になると、すぐに寝てしまった。肉体的にも身体的にも、疲れ切ってしまっていたのだ。


 「ちょっと〜、起きなさいよー!」

「………………」

「起きろー!」

「あと5分……」

「もう……」

「………………痛っ!」

「起きろ起きろ起きろ〜」

大里は顔をペシペシと叩かれて、ようやく目を開けた。頬を引っ叩くのは、尻尾だった。それも昨日、見たのと同じ物だった。

「起きるよー!」

「居候の癖に、遅いなー」

「もう……」

「早く早く!」

大里は体を起こして、寝床から立ち上がる。そして、目の前の半獣少女の顔を見つめた。

「………………」

「なによ?」

「…………………………」

「???」

「可愛い。」

「はっ!?」

面と向かって言われたのがよっぽど効いたのか、顔を真っ赤にしながら大里の胸をポカポカ殴る。しかし尻尾は、ブンブンと振っていた。

「なっ、なに言ってんの!」

「いや、ホントだし。」

「もう!おだてても、何も出ないわよ!」

「はいはい、ヨシヨシ〜」

大里は頭を軽く撫でる。撫でられて、満更でも無い様子が、表情から見て取れた。しかし、二人には認識の違いが有った。人として褒められていると思う側と、猫として褒めている側で、しっかりと分かれていた。当人たちは、その違いを分かっていなかった。

「ニャ〜♪……って、コラ!」

「急に怒るなよ〜」

「とっ、とにかく、食堂に行くわよ!」

「はいはい……」

「もう……大丈夫なのかしら、この後輩。」

「えっ、先輩なの!?コレは失礼しました。」

「フフンっ!全く、何も知らないのね?というか、マスターは何も説明しなかったの???」

「まぁ、特には……」

廊下に出ると、良い匂いが漂っていた。そちらの方に向かいながら、半獣少女は説明を始めた。

「私は、キャコ。このポストオフィスの速配係、よろしくね!」

「どうも。僕は、大里だいりです。」

「変わった名前ね、本当に転移者なの?」

「そうだとは思うんですが…………」

「ふーん。まぁいいわ、大事なのは使えるかどうかだし。」

「ハハ、これは手厳しい……」

「で、今日の流れは聞いてる?」

「何も……キャコさんは???」

「なーんにも。コレだからウチのマスターは……」

ブツブツと文句を言いながら歩いていると、食堂らしき所に着いた。中には沢山の種族が集まっていた。人間と見た目は似ていても、違う様な印象の人たちもいた。

「ホラホラ、並んだ並んだ!」

「えっ!ハイ!」

「この板に、好きな物を載せるのよ!」

「分かんないので、同じので良いですか?」

「しょうがないわね。コレとコレと……あとコレね!」

「どうも。」

見た目的には、日本の伝統的な朝食に似ていた。キャコが猫っぽい獣な上に半分は人間らしいので、食べても大丈夫だと大里は考えた。二人は空いてる席に着くと、キャコはすぐに食べ始めた。

「うーん、美味しい!」

「いただきます。……美味しい♪」

「でしょー?」

「はい、初めてなのに、凄い美味しいです。」


 大里とキャコが朝食を楽しんでいると、横に座る者が現れた。

「朝ごはん、いかがですか?」

「マスター!」

「キャコさん、おはようございます。」

「ちょっと〜、コイツにいろいろ説明してないでしょ!」

「一度に説明すると混乱すると思い、必要以上にはお話ししてないもので。」

「なるほどね!」

「それに、キャコさんが話して下さると思ってたので。」

「なら私に一言、言ってよね。」

「すいません……」

ポストマスターは大里の横に座り、食事を始めた。品物は違えど、美味しそうな物ばかりだった。

「大里さん、食事はどうですか?」

「えぇ!凄く美味しいです!どれも見た事が無い物ばかりなので、キャコさんに教えて貰いました。」

「そうですか。いろいろ試してみて下さい。どの種族でも食べられるように、炊事係にお願いしてるので。」

「おかわりついでに、そうします!」

「生きとし生けるもの、衣・食・住が基本です。特に食事は、生き死にに直結しています。数年前までは、食べる物に苦労しました。だからこそ、ウチでは朝昼晩の食事は無料で提供しています。」

「助かります。」

「まぁ、その分だけ働いてはいただきますが……」

「がっ、頑張ります!」

大里の言葉にポストマスターは笑顔を見せ、別の机に向かっていた。そこでも同じように、談笑し始めた。

「マスターは、ああやって色んなヤツと話すのよ。」

「大変ですね……」

「私としては、仕事して欲しいけど。」

「ハァ……」


 キャコと大里は食事を終えると、二階に向かった。そこには既に幾つかの郵便が置かれていた。

「コレは?」

「今日の速配の分ね。この郵便を、今日中に届けなきゃいけないの。出されたのは、昨日かしら。」

「へ〜」

「普通の郵便なら、すこし遅いのよ。ある程度の時間が掛かるし。まぁ。速配は割増料金が掛かるのよね〜」

「別枠なんですね。」

「そ。ちなみにアンタがやるのは速配に似てるから私が教育係ってこと。」

「属性の有る地域をまたいで郵便を配るって、仕事ですね。」

「らしいわね。詳しい事は私も知らないし、あとでポストマスターに聞いて。」

「分かりました!」

大里は一通の郵便を管理する部門から受け取り、カバンにしまった。そしてキャコと二人で配達先へと向かう事になった。

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