草の国のポストマスター
「ギルドマスター、少しよろしいですか?」
「あぁん?誰だアンタ???」
「ポストマスター、と言えば分かるかと。」
「……郵便配りのお偉さんが、随分と血生臭い所に居るもんだな…………」
「求人を出そうと思い、たまたま。」
「で、アタシに何か用か?」
「用は用なんですが、あなたではなく……」
大里とギルドマスターの間に割って入ってきた、ポストマスターを名乗る小さな眼鏡をかけた糸目の男。長い髪からチラリと、尖った耳が見えた。
「転移者かコソ泥か分からんガキに、なんで?」
「まぁ、そこら辺に関しても、ウチで引き取らせてもらっても?」
「………………」
「よろしいですか?」
「チッ……こっちは大事な得物を折られてんだ。さっさと行きな!」
「ではでは……」
ポストマスターは大里に顔を向けると、笑顔で話しかけてきた。
「急な事ばかりで、混乱しているのでしょう。落ち着いて話せる様に、場所を変えましょう。付いて来てください。」
「……はぁ…………」
恐ろしい場所の恐ろしい強者から逃げられるならと、大里は困惑しながらポストマスターの後を歩く。少し歩くと、先程のギルドよりも大きくて立派な、綺麗な建物に到着した。中には沢山の人、というよりも多種多様な種族の者たちがいた。なにやら受け渡したり、手続きをしている様だった。大里の前を歩くポストマスターに、若い女性が立ちはだかる。人と変わらぬ様に見えて、獣の耳と尻尾が伸び、手足の一部に毛が生えていた。
「マスター!どこ行ってたんですか!!!」
「申し訳ない。」
「仕事が有るのに、急に居なくなると困ります!」
「皆さん忙しそうだったので、声をかけるのが忍びなくて。」
「なら、書き置きぐらいして下さい!」
「面目ない。」
「で、どこに行ってたんですか?」
「近くのギルドに。また求人の募集です。」
「あんな野蛮な連中に、ウチの仕事が出来るんですか???」
「まぁまぁ……適材適所と言いますし。それに、一人。将来有望な者を連れて来ましたよ。」
ポストマスターは、目の前の半獣少女に大里を指し示した。大里は軽くお辞儀をして頭を上げると、いつの間にか目の前に尻尾が立っていた。半獣少女が、音も無く近寄っていたのだ。スンスンと鼻を鳴らすと、大里の額に手を当てた。
「マスター……この子…………」
「はい。」
「臭い!」
「えっ……」
「生乾きの嫌な匂いが……」
「分かりました。すぐに着替えて貰いましょう。」
「お゛ね゛か゛い゛し゛ま゛す゛!゛」
「いやはや、気が付かず申し訳ない。」
ポストマスターは急いで大里を連れて、三階の自室に入った。広い部屋の片隅の個室に入れられると、扉越しに声をかけられた。
「そこに水桶が有るので、一旦、体を綺麗にして下さい。その近くの戸棚に布と服が入っているので、拭いたら合いそうな物を召して下さい。あと脱いだ服は、使った手桶の中に入れて置いて下さい。」
「あっ、ありがとうございます!」
大里はせっせと言われた通りに、身綺麗にして服を借りた。元いた世界の服とは違う、ゲームの世界の普通の服の様に感じた。部屋を出ると、ポストマスターは大きな机に両手をつけて座っていた。大里は机を挟んで立つと、礼を言った。
「あの……本当に色々とありがとうございました!!!」
「いえ、コレも運命なのでしょう。さ、座って下さい。」
「失礼します!」
「どこから、話したら良いものか……」
大里はポストマスターに、質問をした。いや、せざるを得なかった。が、聞きたい事が多すぎて、とりとめの無い話になってしまった。
「えと、ココって何処なんですか?というか、なんでここに居るのか分からない上に。さっきの人たちも!ギルドマスターとかポストマスターとかも、よく分からないし。何がなんだか…………」
「まずは、落ち着いて下さい。最初からお話しますので。」
「はぁ……」
「ここは、ローゾ。あなたが元いた世界で言う所の日本になります。」
「え!?異世界!?!?というか、今『日本』て!?!?!?」
「まぁまぁ、落ち着いて。あなたは、この世界に転移して来たのです。」
「い、異世界転移!本物の!!!」
「えぇ。この世界には数十年前、魔王が現れました。その魔王はあらゆる種族の悪を集めて、ローゾの支配を企みました。それに対抗すべく、あらゆる種族の善が集結して戦いました。」
「魔王!!」
「最初は拮抗していましたが、徐々に魔王軍に押されることになりました。そこで、異世界から勇者を呼ぶ事となりました。」
「もしかして!!!!!!」
「異世界から来た者は強大なスキルを持つという伝説が有ったので、それに希望を託しました。
「よ、四人???」
大里は喜びから困惑の表情になったが、ポストマスターは話を続けた。
「転移の魔法陣は成功し、呼び出す事に成功しました。ですが、人数は三人でした。それぞれが、攻撃・回復・強化のスキルを持っていました。」
「はぁ……」
「勇者の三人とローゾの最高守護者が協力し、魔王の討伐に行きました。四人は困難を乗り越えて、とうとう魔王を討ち滅ぼしました。」
「え!倒しちゃったの!!!」
「そして、勇者の三人は役目を終えたので、女神の力で元の世界に帰還したと言われています。」
「帰っちゃったの!?!?!?」
「はい。」
「オレは?????」
その言葉に、ポストマスターは無言になってしまった。
「…………………………」
「ええぇぇ!!!」
「………………」
「ど、どうしよ……」
「おそらく、何かしらの原因でこちらに来るのが遅れたのでしょう。何か心当たりは?」
「心当たりって…………あ。」
「もしかして、敵襲やら妨害が有ったのですか!」
「いや、魔法陣に吸い込まれない様に、泳ぎまくってたせい……とか………………」
「可能性は……無くは無いかと…………」
「なんてこった〜抵抗したせいで時差が生じたのか……」
大里は自身の行いを思い返して、肩を落とした。
「用が無いなら、帰らせてくれ〜」
「そうは言っても、女神の力が無ければ……」
「どこに行けば、会えます!?」
「分かりません。」
「そんな〜」
「しかし、可能性が有ります。」
「どんな!」
「この国ローゾは、六つの地域に分かれています。それぞれの地域には統治者が居るので、その方たちなら何か知っているかも知れません。」
「マジ!会いに行かなきゃ!!!」
「それは無理です。」
その場で大里はズッコけた。
「ええー!転移者の勇者なのに???」
「そこに関しては、分かりません。たまたま流れ着いて来た可能性も有りますし。」
「なるほど。」
「転移者と言い張っても、証拠も有りませんし。」
「確かに。」
「あと、今更やって来て遅いと怒られる可能性も……」
「勝手に呼んどいてソレは……」
「とにかく、統治者に会うのは並大抵の努力では無理です。」
「ガーン!」
ショックを受ける大里に、ポストマスターはパチンと手を叩いてある提案をした。
「そこで、私から一つ仕事を頼みたいのですが〜」
「仕事???」
「えぇ。郵便の配達です。」
「配達……ですか…………」
「そうです。」
「それが、統治者に会える程の仕事なんですか?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました。」
「へ?」
「ローゾは六つの地域です。それぞれに統治者が居るように、私たちポストマスターもいます。郵便の配達は地域内なら大丈夫なんですが、地域外、地域をまたぐと話は別です。」
「それは、どうして?」
「各地域には特色の属性が有るんです。【火・氷・草・岩・雷・水】の六個です。属性の相性によっては、郵便や配達員に多大な影響が出ます。」
「確かに、氷の地域の配達員が炎の地域に行ったら、溶けちゃうな……」
「そうなんです!」
ポストマスターは、机から身を乗り出して大里に説明を続けた。
「地域を股にかけた配達員が生まれたら、どうでしょう?」
「確かに便利だと思います。」
「届ける手紙の材質や耐性が有っても、届けられない。届けるにしても沢山の配達員が中継して行くと、時間もお金も労力も掛かります。そういった問題を、一気に解決できます。」
「ふむふむ、確かに……」
「六つの地域を飛び回る、7番目の配達員。それをあなたにお願いしたいのです!」
「ええぇぇ!!!」
まさかの発言に、大里は驚いた。
「そんな、大事な仕事……」
「大丈夫です。いきなりやる訳では無いですし。練習もしますし、現地でそれぞれの配達員とも協力してもらいますから。」
「はぁ……」
「お持ちのスキルも、問題は無いでしょうし。」
「そういえば、スキルって???」
「はい、この世界の者は誰もが持っています。得意な物を伸ばしたり、多くの種類を持つ者など、使い方は人次第ですね。あなたが元々いた世界の『ゲーム』に、近いと考えて貰えれば……」
「なるほど。マジで異世界転移やん……」
「先程のギルドで発動したように貴方は、防御や耐性に関するスキルなのでしょう。」
「確かに。先に帰った勇者たちのスキルとかの話からも、そんな気がします。」
「防御・耐性のスキルを使い、是非とも我々と共に働いて下さい。その成果次第では、統治者に会えますし、帰還する事も出来ましょう。」
「はい!頑張ります!!!」
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