別れの言葉と真実
俺の不可思議な言葉に、誰もが面食らっているのは知っている。
だけど、俺は本当にここまでなんだ。
さっき一瞬だが、彼らは太陽に目が眩んだ。
皆が一斉に目を閉じたのだ。
そこで、手帳が最後の文字をこの世界に反映した。
「大丈夫ですよ、私と一緒なら王城に入れます」
そんなことに気付くはずもないローラレイは、困った顔で俺を誘う。
相変わらず美しい。
この瞬間でも俺の事を心配してくれる心も美しい。
「やりたい事あるんなら、報告したあとだったらなんでも出来るんじゃないの?」
プリンは俺が何かまだやり残したことがあると思ったのだろうか。
しかしその逆で、俺は全ての事をもうやり終わった。
もっとも、プリンには今まで出来なかったおしゃれや恋愛のような楽しいことを経験して欲しい。
「グダグダ言ってないで早く来いよ」
アドルフ。
お前の事は心配してない。
短くも濃い時間を共にした仲間を目の前に俺は口を開いた。
「俺がこれからやらなきゃいけない事は、この世界にはもう無いんだ」
ワクワクとドキドキに満ちた世界を離れ。
俺以外には誰も居ない、閉め切った部屋に戻らなければならない。
あの場所でしか出来ない事があるんだ。
「フミアキ、居なくなるワケ? 冗談……よね?」
詰め寄ろうとしたプリンだったが、踏み出す度に声が
「元々ここに居ること自体が奇跡みたいなものだから」
自分より頭ひとつ分低いプリンの茶色い髪を撫でる。
ホコリにまみれてかさついていて、お世辞にも指通りが良いとは言えない。
しかし、女の子であることを投げうって、俺達と共に戦ってくれた証のような気がして、その
「あわわ」
棒読みで慌てるという器用なことをするアンゴラが、ぶら下がっていた俺の手から離れてゆく。
「どうした?」
「……指」
そう言った目線の先にある俺の手を見ると、指先がうっすら透けてきていた。
「ああ、時間切れの合図だな」
「お前は、こんな終わりかたをするのも知ってたのか?」
急すぎると怒っているのだろうか。
しかし俺自身にタイミングを任せられると、いつまで立っても帰ろうとしないだろうと考えて、手帳に書き込んだわけで。
俺は頭を横に振った。
「最初から何一つとして、俺の予想通りなんて行ってないよ」
だけどそれが良い。
彼らが彼ららしくあること。
そのために作者は居るのだから。
俺はまず後ろを振り向く。
その視線に少したじろいだアンゴラがごくりと生唾を飲む。
「アンゴラちゃん。君はスリーナイツに戻るんだ」
俺はきっぱりとそう伝えた。
反論のひとつもあるかと思えば、アンゴラはモジモジしながらも小さく頷いた。
バフォメットとの戦いで、アンゴラはスリーナイツのメンバーが自分を大切にしすぎる事が、彼らの命を危険に
だから彼らを遠ざけたかった。
しかし彼らは追ってきた。
それこそ死を恐れもせずに。
ロップが死んだことで、逆に心が固まったのではないかと思ったのだ。
そして、スリーナイツに戻るのを承諾した途端に、顔が
大切にして欲しい。
俺は今度はローラレイに目線を移す。
心配、不安、喪失。
色々な感情が混ざった顔をしている
「ローラ、最後は笑顔でお別れしたいんだけどな」
そんな言葉にも表情は晴れない。
でもその理由は、俺が居なくなるという事だけではないだろう。
「ローラ、これから君は自分で選択肢を選べる。王城に戻って姫として生活するも良し、アドルフと世界を見て回っても良いだろう。そして──好きな人と結ばれることすら選べるんだ」
俺の口上を暗い顔で聞いていたローラレイだったが、最後の言葉でより一層顔を曇らせてしまった。
「……じゃぁ、少し昔話をしてあげよう」
俺は指の消えかけた両手を広げて、注目を集めると、あるひとつの【お話】を語り始めた。
「王都と魔王の密約が忘れられ、その戦いが
「それってアドルフの両親の話でしょ?」
「ローラ、お話の途中で
「あっ、ごめんなさい」
慌ててしおらしくするローラレイはかわいいから許す!
「──しかし戦火は凄まじく、魔物に前線基地を襲われて、子供は帰らぬ人となりました」
「俺を勝手に殺すな!」
「まだ途中だ黙ってなさい!」
プリプリ怒るアドルフうざい。
許さん。
「で! ──その場所には亡くなった子供も居たし、親を亡くした子供も居た。その子供をもらい受けて育てたのが、アドルフ……お前だぁ!」
突然の憶測話に目を白黒させていたが、だんだんと怒りが沸いてきたらしい。
「お前、俺の親をバカにしてたら、フミアキでも許さねぇぞ?」
完全に顔3センチくらいのところまで近づけてメンチ切ってくるんですけど。
誰? この人勇者だとか言った人!
ヤンキーじゃん、
「根拠がないなんて誰が言った?」
「あ?」
「顔怖いし近いんで、離れてくれたら話す」
その言葉に渋々了承するアドルフだが、まだ顔は怖い。
「お前の父、グリンチさんな。破邪の剣の使い手だったワケで。その剣の力を引き出して、ビギナーの村の向こう側にあるデスバレーだっけ? 魔物さえ這い上がれない高さの谷を作り出したんだよな」
「ああ、一振で大地が割れたらしいな、俺は小さくて覚えてないけどな」
「あれ、お前やれる?」
「無理に決まってんだろ」
「何で?」
矢継ぎ早に質問を投げつける俺に、イライラの中に少しの不安を嗅ぎ取れるようになってきた。
「なんでって……」
「破邪の剣、使いこなせてないだろ?」
俺のその言葉に、返事を詰まらせるアドルフ。
「本来、ローンウルフとの戦闘で目覚める筈だった、真の力ってのは、破邪の剣の力を引き出させるという意味だった──そう解釈したら繋がってこないか?」
「破邪の剣を使うための【血】を受け継いでいないって言いたいのか?」
流石切れる男アドルフはその答えにすぐにたどり着く。
「つまり、お前は勇者でも、騎士団長の子供でも、破邪の剣の使い手でもない、ただの一般市民ってことだ」
俺の非道な攻めに、流石のアドルフも怖い顔が崩れて、苦笑に変わってきた。
「ってことは、魔力を濃く受け継いでいる王族の血筋でもないワケだ」
「流石にもう言いすぎだろフミアキ、本当は俺の事嫌いだったのか?」
そんなわけはない。
俺はその言葉の真意を理解して欲しい人間の方を向く。
そしてこっそり耳打ちした。
「血縁関係の無い人間なら結婚も考えていいんじゃないか?」
そこには驚きの中、付き物が落ちたような表情をしているローラレイが居た。
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