10秒と非人道
「軽い!」
軽量のスクロールシューターをかけられたドラゴンスレイヤーは、プリンにとっては小枝を振るうように感じられることだろう。
「10秒で効果は切れる。そこが狙い目だ」
その意味に気づいたのだろう、プリンは何も言わずに頷く。
「俺たちが隙を作る」
「行ってきます」
ガルドがアドルフに向かって金棒を振り下ろすタイミングでプリンは飛び出した。
ドラゴンスレイヤーを横に構えたまま、ガルドの右横をすり抜ける。
その刃を金棒で受け止めるガルドだったが、既に背後に回ったプリンは、軽くなったドラゴンスレイヤーを右手に持ち変えると、振り向き様に横に振り抜く。
背中側からの攻撃であることもそうだが、今までのあの重い剣では無し得ない早い切り返しにガルドの防御が間に合わない。
金色の刃は、彼の腰の上の辺りを真一文字に切り裂いた。
「ぐわあっ!」
背中からの衝撃と痛みに前のめりになるガルド。
その隙を見逃さないのがアドルフだ。
腕を脇の下から切り上げ、筋を経つ。
青鬼が切られた部位を回復するまでの一瞬ではあったが、金棒が手から外れて地面へと落ちる。
「ファイアーボール 威力10で!」
俺が指で金棒を指し示すと、すぐに魔法が詠唱された。
拾おうとしていた金棒が魔法に弾かれたことで、青鬼は一瞬こちらに睨みを効かせたが、プリンの突進からの横薙ぎが襲ってくる。
さっきまでは金棒で受け止めていた。
それがなければ避けていた。
しかし、青鬼はどちらも選ばず腕で受け止めたのだった。
「こんな軽い攻撃なら、武器がなくても簡単に止めれるぜ」
二度の攻撃から違和感を感じ取ったのだろう、だからといって腕で受け止める事が出来るのは、彼の無敵の再生能力あっての
そのままドラゴンスレイヤーの先端を掴んで、プリンごと放り投げる。
空中で猫のように体制を変えたプリンは着地と同時に走り出した。
「そうだプリン……飛べ!!」
俺の叫びに飛び上がるプリン。
「ローラ、バインドバインを!」
プリンが飛び上がる頂点に達するタイミングで、ガルドの足に蔦が絡まった。
「こんなもん!」
だが即席で打った魔法ごときで束縛出来るわけでもなく、片足を踏み出すとブチブチと千切れる。
同時に横合いからアキレス腱を狙うアドルフの剣。
「邪魔だ!」
片ひざをつきながら拳を振り回すが、アドルフは既に下がっていた。
ガルドが上を向いたときには飛び上がったプリンはもう目の前まで来ている。
瞬時、彼は考えただろう。
避けるか、受けるか。
アキレス腱はもう治した。
しかし、片膝をついた状態で、反対の足は蔦に絡まれている。
「残念だな、さっきまでのバカ重い剣だったら殺せただろうによぉ!」
ガルドは顔の前で腕をクロスに構えた。
「おあいにくさまね」
振り下されたドラゴンスレイヤーは、ガルドの思惑を外れ、恐ろしい程の加速と重力に後押しされて、腕ごと彼を真っ二つにした。
「ジャスト10秒だ!」
敢えて弱い魔法で拘束したことで、いつでも抜けれるという油断を誘いながら、一旦足への注意を逸らした。
そこにアドルフが切り込んでくるのは想定外だったけれど、そのお陰で受ける以外の選択肢を除外できたのは僥倖だった。
だが戦いは終わっていない。
「ローラ、切れ味ウィンドカッター」
さすがに真っ二つになってしまった体を再生するのには時間がかかるだろうが。
ガルドは分裂する訳じゃない。
頭か心臓か……核になる部分を中心に、傷や部位欠損が戻るだけだ。
地面に倒れた半身が、みるみるうちに回復して行く。
そこに大きく振りかぶったプリンの振り下ろしが決まり、今度は横向きに分けられる。
その間にも復活した頭部から
「クソがぁ!」
だが下半身を修復させている間に完成したウィンドカッターに今度はまた縦に切り裂かれる。
「連続で切れ味ウインドカッターを」
ローラレイは頷くと、さらに詠唱し始める。
その合間にはプリンがドラゴンスレイヤーを落として行く。
こうして短い時間で餅つきのように、縦横縦横縦横縦
と、何度も何度も切り裂かれては回復を繰り返す。
俺はそれを凝視していた。
「かなり弱ってきてるぞ」
先程のバアル戦の時から、俺にはエコーロケーションの魔法がかかっているので、相手のマナの総量が見える。
回復する度にそのマナを広げて体を作り、それが切り落とされると、またマナが広がって……みるみるうちにその濃さが薄くなっていくのがわかる。
そこにアドルフが戻ってきた。
この餅つきに参加していないと思ったら、死んだ仲間の剣を集めてきていたようだ。
「欠損部位を回復するときに、これが中に紛れ込んだらどうなるだろうな」
「いや、お前考えることエグっ」
「女性陣に地獄の餅つきをさせてるお前よりはマシだろ」
確かにこのまま餅つきを続けていくわけにも行かないので、アドルフの案に乗る事に。
完全に真っ二つにせずに、部位と部位を繋がせるように切り分けた間に、受け取った剣を放り込むと、異物を取り込みながら再生してゆく。
「あーあ」
アドルフが俺をジト目でみる。
いや、これお前の案だったよね?
餅つきをやめて様子を見ていると、みるみる青鬼はもとの形に戻って行った。
最後に頭が生成されると、とたんにもがき苦しみ始めた。
体の中に何本もの剣が入り込み、再生しては切り裂かれ、再生しては切り裂かれる痛み。
マナの総量を見ても、彼が今まで通り戦えるとは思えないが、無限に続く痛みにそれどころではなさそうだ。
「あーあ」
プリンが俺をジト目で見る。
「えっ俺?」
「実際に考え付いても、なかなかやる勇気はないですよね」
ローラレイまでもが俺にジト目?
「はいはい、全部俺のせいですー」
ちょっと拗ねた。
「あと一人ですね」
子供のようにいじけて見せた俺の背中をプリンが撫でながら言った事で、みんなの目線が空へと向いた。
透明な体を持つ四天王の一人、ミラージュ。
その足元では銀色の甲冑が一塊にまっており、中から生えている杖から、魔法が間を置かずに放たれ続けている。
だが、その魔法を掻い潜りミラージュは急降下。
今まさに魔法を放とうとしている杖や、その腕に尖った鉤爪を立てる。
または一瞬で構えた盾に引っ掻け、持ち上げようとする。
焦ったようにローラレイが歩きだす。
「早く助けに行かないと!」
「ああ、すぐに助けに──」
言葉を止めた瞬間、俺は振り返るとホルダーから抜き放った武器の引き金を引いた。
パアン!!
聞いたことのある乾いた音が耳に響き。
俺の視線の先では、バアルが肩を押さえながらこちらを睨んでいた。
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