酸性雨と回復速度
大きな金色の塊を中心に、今や100匹を越えたバアルがひしめいている。
口汚い感じの言葉を叫びながら、その塊を蹴ったり叩いたりしているようだ、びくともしないとはいえあれは精神的に嫌な図だ。
「うぉおお!! 早くしろロップ!」
雄叫びともとれるその声に冷静に反応するのは、彼と同じパーティーの魔法使い。
「分かってるよ──アシッドレイン!」
詠唱を終え、杖をバアルたちの上空へと差し出すと、その場所に黒い雲が発生し始める。
「まだ戦士さんが中に!」
詠唱からこの魔法がどういう性質の物かをいち早く理解したローラレイが、真っ青な顔になってロップへと抗議しようとするが、それをホーランドに制止される。
俺としてはさっきもファイアーボールで仲間ごとバアルを焼いているのを見ているので、その余裕からいつもの事なのだろうと安心して見ていたが、普通に考えると異常ではあるよな。
ロップは暗雲が彼らを飲み込む大きさになるまで待ってから、杖を下に向けて勢いよく振った。
それに呼応するかのように、雲から雨が降り始める。
既に金色の鎧は赤い小鬼によって見えなくなっていたが、その小鬼がそれぞれに叫び始める。
彼らの皮膚が焼けただれてゆき、筋肉が、骨が露出しているものもいる。
「酸性の雨か……」
俺は合点がいったが、ローラレイはますます顔をひきつらせてゆく。
その雨は地面の素材すら侵食させながら、地面を一面の赤い絨毯にしたところで止まった。
臭気を吸い込むだけで
一ヶ所だけ金色の塊がのそりと動く。
「終わったか」
平気そうなその声にほっとする間もなく俺は叫ぶ。
「彼らの再生が始まる前に急いでこっちへ来てください!」
その声に、重い鎧をガシャガシャと鳴らしながらこっちへ戻ってくるレッキス。
「考えましたね、金は腐食に強い。王水でもなければこの鎧は溶けない」
慣れた連携だったところを見ると、彼らの十八番の一つなのだろう。
「そしてこの後はどうするんだい? フミアキ君」
作戦がうまく行ったことに安心している俺に、今後の展開を催促するのはホーランド。
確かに、バアルはまた再生するだろう。
「このまま放っておいて大丈夫です」
「は?」
俺の言葉に、スリーナイツの面々は驚いている。
「彼らは本能のままに動いています。いま彼らの記憶は新しい生き物としてリセットされてるので、俺たちが彼らと敵対しない限り襲っては来ないでしょう」
目覚めた途端に切りかかられ、それに反応して野性的に反撃してきていた彼らは、このまま静かにしておけば問題ない筈だ。
むしろ、彼らが動き出すとき──それはバアルの本体が入れ知恵をしたときだろう……まぁこれも何代目かはわからないが。
そのときこそ【バアル】という生き物を
今は時を待つ。
「俺を信じてください、近寄らなければしばらくは時間を稼げる筈です。今のうちに他のメンバーの援護に行きましょう」
俺の言葉にスリーナイツは同時にアンゴラの方を向いた。
いやもう、どんだけ好きなの君たちは。
「スリーナイツはアンゴラと合流して、あの透明な魔物をお願いします!」
彼らにとっては言われるまでもないだろうが、それでも許可されたことで踏ん切りが付く。
一様に頷き、すぐに駆け出した。
「俺たちも行こう」
ローラレイの手を握り、アドルフとプリンの方へ駆け出した。
当初、ガルドと呼ばれた大男との戦いはかなり押しているように見えたが、俺たちが到着した時には逆転しているように感じた。
「どうしたお前ら、スタミナ切れか?」
青い肌の大きな鬼は笑いながら金棒を振り回す。
普段であれば避けていたであろうアドルフは、それを破邪の剣で受け止め10m程吹き飛ばされた。
着地はすれども、息が上がっているのが一目でわかる。
その大振りの隙を見逃さず、プリンがドラゴンスレイヤーを突き出すが、体格に見合わぬ素早さで避けて見せる。
良く見ると、プリンの腕や足はあちこち青あざが出来ている。
かくいうガルドは傷一つない。
「再生しているのか」
一瞬歯噛みする。
ここにアンゴラがいれば疲労を回復させる魔法を使用してくれるのだろうが……。
だがこちらにはローラレイがいる。
「もう少し頑張ってくれアドルフ!」
俺はガルドの隙を突いて、的確な魔法を指示する。
それと同時にもう一つやらなければならないことがあった。
目線の端で再生を開始し始めたバアル達。
その動きを見逃すわけにはいかない。
彼らがこちらに敵意を向けるとき。
必ずリーダーになる……四天王のバアルが現れる筈だ。
「増援に来たのが魔法使いとモヤシかよぉ、これは美味しいところ全部俺にきたな」
げびた笑い声を上げながら、金棒を横に振り回してきた。
体格の大きなガルムが大きな金棒を振るうと、その半径はすさまじい事になる。
しかし、レベル1の俺や魔法使いのローラレイにとって間合いは命。
少し下がるだけでその攻撃は当たらない。
「こいつ、何回も目を抉ってやったっていうのにすぐに回復しやがるぜ」
その隙だらけの攻撃の合間に、破邪の剣が彼の耳を削ぎ落とす。
きっと痛いだろうが、死にはしない。再生する。
だからこそこういった隙だらけの戦い方を続けれる。
「くそが、ちょこまかと!」
今度は縦に振り抜いた金棒が、今しがたまでアドルフがいた地面を砕く。
そこにプリンの横薙ぎが襲うが、それを左手で受け止める。
剣は一気に肘の近くまでを切り裂いたが、後ろに飛び退いたガルムがこちらに視線を合わせた時には、握ったり開いたりしながら感触を確認していた。
もちろん耳も生えてきている。
「修復が早すぎるわ」
俺たちの隣まで下がったプリンが肩で息をしながら弱音を吐く。
いくらぽめらにあんでも、あのゴルドノイドの剣を振り回すのは体力的には難しい筈だ。
それに、横薙ぎは避けにくい攻撃だが、ゴルドナイトの重さを生かすなら縦だ。それは間違いない。
「プリン、あれをやろう」
「実戦ですよ!?」
驚いてはいるが敵から視線を外さないのは良い戦士だ。
「実戦だからこそ、不意を突ける!」
俺はスクロールシューターを抜くと、引き金を引いた。
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