策と男気
「バアルを倒す糸口を見つけたというのかい?」
「ああ」
俺は表情から諸々悟られないように、ホーランドから視線を外して、観察対象であるバアル達を見つめる。
なにか解決策はないのか!
イキってみたけど、まだ何も考え付いていないぞ!
焦りながらも観察する。
そういえばなんで俺たちは攻撃されてないんだ?
少し離れているからか。
思えば分裂したバアル達の戦い方は野性的で、近くにいる自分以外の生き物を無差別に攻撃している雰囲気がある。
バアル自体は知恵の将、優雅な物腰で知的に会話をする
イメージであるのに対し、まったく逆とも言える戦い方だ。
そうか、俺はそこに引っ掛かったんだ。
「ローラ、俺にエコーロケーションを!」
暗い洞窟で使った、マナを関知して見る魔法。
首をかしげながらも、ローラレイは魔法を詠唱した。
俺の視界がサーモグラフィーのように切り替わる。
「ありがとう」
俺はわざわざローラレイの方を向いてお辞儀をした。
「今までわざわざお礼言ってましたっけ?」
マナの集合体が体の形をハッキリと浮き上がらせる。
俺はローラレイのボディラインを目に焼き付けて気合いをいれた。
「ありがとう」
もう一度お礼を言ってから、バアル達をさらに観察する。
マナの量はあまり差がない。
光り方からすると、一匹一匹はそう強い魔物ではないように感じる。
切って2人に増えても段々と弱くなっていくということはなく、むしろ同じ生き物が複製されているという事だろう。
「彼は分裂はできるが、知識の共有は出来ていないのか」
たとえクローン人間が作れたとしても、同じ環境、同じ生き方をしないと同じ思考回路にはならないだろう。
今分裂したばかりのバアルは、先程の四天王のバアルとは別の人格だ。
経験も知識もまだ仕入れていないから、明確な意思もなく、ただ危害を加えてくる人間を敵として認識しているだけの生き物だといえる。
「ホーランド! 今あそこにいる人間を全て引かせれるか?」
突然の俺の言葉に、少し驚くホーランド。
「策があるのだな?」
「一度全滅させたい。人間が引いたら、ローラレイの魔法で一気に焼き尽くす!」
「しかし、人間を引かせる際に彼らも追ってくるのではないでしょうか」
うむむ、それは考えてなかった。
誰かを囮にして、集めさせるというのも難しいか……
「それなら良い案が有りますよ」
メガネを持ち上げながらスリーナイツの魔法使いが声をあげる。
「ロップ……まさかおめぇ、またあれをやるつもりかよ」
レッキスは青い顔をして抗議するが、魔法使いは気にも留めていない。
「なに言ってるの、ゴルドノイドの鎧が大活躍する最高の舞台じゃないかぁ」
むしろ意気揚々と語っている。
あれ、というのが何を指すのかは分からないが、彼らは彼らなりに有名なパーティだったようだし、その役割はかなり尖っているが、どれも最高峰の能力を誇っているように感じる。
取り敢えずまとめ役であるホーランドの顔を見ると、視線を合わせて頷いている。
「じゃぁここはお任せして良いかな」
「ああ。……レッキス、やれるな?」
「ちぇっ、仕方ねぇな!」
ホーランドが視線を送ると、ゴルドノイドの重戦士は文字通り重い腰を上げた。
「私とレッキスで敵を引き付ける。フレミッシュも戦っている者を逃がすのを手伝ってくれ」
そうと決まればホーランドはその指揮力を遺憾なく発揮し、メンバーもまるで彼の手足の一つのように纏まって戦場に飛び込んでゆく。
レッキスがその巨体をもって壁となり、フレミッシュとホーランドがバアルを切り付けて、他の者からターゲットを剥がす。
手際よくやってはいるが、なんにせよ敵の数が多く苦戦している。
「逃げるだけなら俺にも手伝わせてくれ」
俺も居てもたっても居られない、彼らの動きの意味を理解した以上、何か役に立つ筈だ。
「これは、思ったよりも大変だな」
ホーランドが愚痴を溢す。
それを受けるフレミッシュはなにも返さないが、その表情と額の汗から、精一杯動いているのが分かる。
「しかしあと2つ! フレミッシュはあちらを」
ホーランドの指示どおり二手に分かれる。
俺は追い風の魔法で、ホーランドの横を追従したが、狂気じみたバアルの大群もそれを追って二つに割れた。
そのまま後方に気を付けながら、最後の塊へと近づくと、それは足を怪我した仲間を庇う2人組だった。
「君たち、一度下がってくれ!」
ホーランドは声をかけながら、今まさに飛びかかろうとしていたバアルを横に薙ぐ。
同時に自分を追いかけてきているバアルへと振り向き、足の筋を切ってゆく。
これで機動力を削ぐことが出来ただろう。
だとしてもその数は既に二桁で収まるかという大群になってきた。
「早く! ここを離れるんだ!」
ホーランドの一声に飛び上がるように驚いた男二人は、あろうことか足を怪我した女性を残して走り去ってゆく。
「あいつら……」
俺は下唇を噛んで言葉を止める。
この娘を庇えば、きっとあの二人も命が危うい。
こういった商売をしている以上、何処かでそういった決断をしなければならないのは事実だ。
もっとも、最初の奇襲で仲間を失ったパーティは即席でひと塊にしていった。
彼らにとっては一時の共闘相手にしか過ぎなかったのかもしれない。
とはいえ、怪我した女性を放置するなんて……
「女性を捨て置くなど、男児の恥だ!」
俺の思案など吹き飛ばすかのように声を荒らげると、ホーランドは素早くしゃがんで、女性をお姫様抱っこで抱え上げた。
それを狙ってバアルが腕を振り上げる。
「吹っ飛べ!」
俺は腰から荷運び用のスクロールシューターを取り出すと体当たりしながらバアルへと撃つ。
元々小柄だという事も相まって、勢いよくからだが弾かれ、奥でたくさんのバアルの相手をしているレッキスに迄飛んでいった。
「すまない、あとの誘導をお願いできるかな?」
ホーランドは申し訳なさそうな表情を作ってそう言ったが。
「君がこの女性を助けなかったら、俺が助けていたよ」
という俺の言葉にふと柔らかい表情をして、駆けていった。
「おし、仕上げだな」
俺は気合いを入れて、さらに迫り来るバアルを挑発しながら円を描くように移動する。
目線の端ではフレミッシュも同じように動き。
そのまま中心のレッキスのところまで誘導した。
向かい側から来たフレミッシュが、俺の顔を見て頷くと、一瞬でどこかへ消えた。
素早く動くのと同時に、フェイントを入れて意識をそらし、さらに気配遮断か認識阻害のスキルでも使ったんだろう。
気がつけば目の前から消えていた。
俺も負けじと10秒だけ軽くなるシューターを自分に打ち込んで真上に飛び上がる。
バアルは羽が生えていない。
上に逃げられると、追いようがないのだ。
そのまま天井を蹴ってローラレイが待っている場所へと進む。
下には、同じくバアルの輪を抜け出たフレミッシュがっ見える。
「今だ!」
同時にホーランドの命令が発せられ。
魔法使いのロップが魔法を発動させるのだった。
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