魔王と正体
────遠い昔。
人の文明は今よりもっと発達していた。
しかし既に人間はこの星の資源を使いきり、新たなる力を探し続けていた。
人間は生き物である以上、体の組織が古くなり、いずれは死に至る。
しかし、生物の中には分裂して同じ個体を増やすものや、バラバラに裂けても再生するものが居る。
それを研究するにあたって、ある一つの奇跡を産み落とした。
体の欠損を修復できる生き物に傷を追わせ、そこに他の生物のDNAを混入させる。
DNAというのは設計図とよく言われるが、その設計図通り再生すると、傷の修復の代わりに他の生き物が生まれてきた。
それは食用もでき、無限の可能性を人間に与えた。
それ以外でも、外皮の固い生き物を作れば、その革を加工して製品にできた。
こうしてある生き物を
「その生物を、お前達現代人は魔王と呼んでいる」
魔王は人間に作られた、
まさかの展開に俺でもついていくのがいっぱいだ。
DNAだとか、新しい言葉を聞かされた現代人には全く理解の及ばない言葉だろう。
だが、疑問はまだ
「何故地上の文明は衰退し、魔物が人間に恨みを持ったのかが語られてない」
俺の言葉に、バアルは顎に手を当てて少し思案した。
「少しはそこを自分で考えて欲しいと思ったのですが」
その言い方にカチンときたが、言い得て妙だ。
それを考えなかったからこそ、魔族と人間は長いいがみ合いを続けてきたのだから。
「そうだな……家畜化された者の中に知性のある者が産まれた?」
「それはその通りですね」
バアルは全てではないが認めた。
だったらこの先に答えがあるはず。
物語を作れ。
今あるピースから、作家なら物語を作れ。
「人間の悪い癖で、豚や牛などの家畜だけじゃなくて、色々な生き物を作ってみたやつが居たんだな?」
何でも作って良いと言われたら、何を作るか。
例えばDNAをいじって、頭が2本ある犬を作れないか?
ドラゴンや
そう考えてしまった人間が居てもおかしくない。
「そしてその設計図が、今の魔王軍そのものだと」
「まったく、その通りです。見世物や研究に使われたそういった生き物がクーデターを起こしました。……なぁに、人間なんて特に強い生き物では無いんですから簡単なことでしたよ」
まるで見てきたかのように言うバアルではあったが、彼の分裂の能力を持ってすれば、一つの個体として死なずに生き続ける事もできただろう。
「地下の施設の供給が絶たれた人間は、次第に衰退していった……」
「はい、私たちは基本的には争いを好みませんでしたので、地下で魔王様を使って生きる糧を得ながら幸せに暮らしていました」
資源を取りつくしたことで、ガスや電気も無い世界では、田畑を耕し、生き物を育てるだけで一日が終わる時代に突入した事だろう。
人間の困窮期だったのは間違いない。
「そんな中、やはり地上に憧れる魔族もおり、また地下に興味を持つ人間も居ました。──あるときその中の一人が、魔物を倒すと体が強くなることに気づいたのです」
「経験値……マナですか?」
「ハイ」
もはや俺とバアル二人だけの討論になりつつあったが、他のメンバーも一生懸命その言葉を理解しようとしているようだ。
この魔王四天王バアルという男の真剣さが伝わってきていたからだろう。
「マナは本来、生き物の中にある一つのエネルギー要素でした。ただし、科学の知見からでは発見できないジャンルのエネルギーです。感情の浮き沈みによって、元気がでたり、力が入ったりというような、とてもファジィなものですから」
火事場のバカ
「それが実体化する程までに高まったのは、私たちが長く生きすぎたからかもしれませんがね」
バアルが苦笑混じりにそう言う。
結果論そこに観測の方法はない。
ただこの世界の事実として有るのは確かだが。
「で、その中の一人が神話の勇者か?」
「はは、あなたという人は。まるで真実を知っているかのように言い当てられますね」
いいや知らない。
だけどこれは俺の作った話だ。
俺の思考の先にしか答えはない筈だ。
だからこそ深く思考すればきっと答えはでてくる。
「実際は勇者ご一行様でしたけどね」
バアルの補足に俺は頷き、話の続きを催促する。
「魔物の真実を聞いて、その勇者はどうしたんだ?」
「殺し合いましたね、勇者パーティ同士で」
衝撃的な展開だ。
何故勇者同士で殺し合わなければならない。
「何故、とお思いでしょう?」
あちらも俺の心を読んだかのように言い当ててくる。
「私も人間の感情というものは理解不能ですが、要するに、このままそっとしておこうという派閥と、人間のために再度養殖しようと考える派閥に分かれたんでしょうな」
人間は醜い。
そういった事も起こり得る。
「それで勝ったのはどっちだ」
「せっかちですね貴方は……勝ったのは勇者と魔法使いでした。彼らは魔族の存在を黙認してくださいましたね」
何故か俺はほっと胸を撫で下ろした。
人間が家畜化して、人間の気分で産み出されたこの生き物が、何処か
きっとその勇者もそうだったのだろう。
「そして数百年が経ちましたね。そちらでは神話になるほどの時間が過ぎたのですね」
さらっと言葉にする彼に長い時間の流れに対する思いは感じられない。
不死の生き物からすると、その数百年というのは、単なる物差しでしかないのだ。
俺たちが数センチと数メートルに何の感情も湧かないような、ごく当たり前の事なのだろう。
「あの時に
「人間にとっては十分長いですよ」
「はは、これは失敬」
「私としては住み分けが出来ればと考えているのですが、いや、若い者の考え方は短絡的でどうも」
どうやら魔王軍も一枚岩というわけでもないのか。
「それで、平和的解決を望む四天王……いや知恵を司るバアル本人がわざわざ招いてくれたって事ですか」
「はい、話が分かる方が居て私もホッとしております」
そこまで聞いて俺は後ろを振り返った。
皆困惑に満ちた顔をして居る。
そこには様々な色があり、魔王を倒すという一つの目標に向かっていた時とはまた違うものだった。
願わくば、神話のパーティのようにならないことを祈るばかりだ。
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