休憩と承認欲求
キマイラの死体が解体され、それを回収部隊が地上へ少しずつ運んでいくのを見ながら、俺達は休憩をしていた。
右の洞窟の探索グループが帰ってきた時点で、左に進んでも構わなかったのだが、予定では一度戻ることになっていたし、フロントル魔法学園の生徒達も、立て続けに2本の極大魔法を放ったことで少なからず疲弊していたからだ。
「ほぉほぉ、そうなんですね!」
休憩している学生達を、ローラレイが質問責めにしていた。
ショート髪の勝ち気な女生徒が得意気に答えているところを見ると、迷惑がっている雰囲気ではないが。
「ローラ、少し休ませてあげなよ」
興奮して鼻息の荒いローラに声をかけると、目をキラキラさせながら振り向いた。
「フミアキ凄いんですよ魔法学園の人たちは! 私と全然魔法の使い方が違うんです!」
具体的に話を聞いたわけではないが、どうやら地域や組合等によって若干の認識が違うらしい。
「私たちにとっても驚きの連続です」
ローラレイは打ち解けたのだろうか、この強気な少女の笑顔を見るのはこれが始めてかもしれない。
「君は……」
俺の思案に、すぐに理解が及んだのか。
女生徒は座ったまま、右手を伸ばして来た。
「フリォッシュ・カカオレートよ、よろしくね」
俺は握手に応じて、自分の名前を名乗った。
最初に出会った時には凄い剣幕で喧嘩を売られたので苦手にしていたのだが、個人的に話せばそう悪い人物でもないのかも知れない。
というより、宴会のときに両手を開いて通せんぼしたその肌色が頭に浮かんでくるので、いかんいかんと頭を振って消す。
ビキニにローブだけという格好でああいう動きしちゃいかんでしょ。
そんなことを考えている間にも、ローラレイとの魔法談義は白熱しているらしく。
声をかけたこちらにまで飛び火したようだ。
「魔法学校の生徒は、一人に付き一体の精霊と契約していて、その力を借りて魔法を使ってるんですが……」
そこまで言って女学生がチラリとローラレイの方を見たことで、次はローラレイが続きを語り始めた。
「私たちの魔法って、契約とかしないからどんな属性の魔法でも使えるんだけど、燃費がすごく悪いらしの」
魔法の話をするとき、魔法のアイテムを見ているときのローラレイはとても楽しそうにしている。
もちろん俺も設定として考えた部分はあるので、それについて深い話が出来るかもしれないが。
彼女にとって同年代の女の子と言うのはまた違って楽しいのかもしれない。
「それより聞いて聞いて! 経験値と魔力の関係が凄くって、目から鱗だったの。あのね魔力って、マナの粒同士が擦れて発生するエネルギーの事だったんだって!」
「我が校の実験施設で証明された内容だから信憑性は高いわよ」
フリオッシュが鼻を高くして語る。
まぁ俺は知ってるんだけどな。
作者だし。
魔力は経験値として取り込んだマナ同士が擦れて発生する静電気のようなもので、それを体に溜め込んでおいて魔法に変換してゆく。
精霊はその魔力を糧に魔法を行使してくれる。
フロントルで使われている魔法は、契約精霊のもので。
ローラレイが使うものはその辺の
そしてどんな精霊にどれだけの魔力をあげるから、こんな魔法を使ってください。
という、その説明そのものが呪文なのだ。
でもさ、これって俺が次回作で使おうと思っていた設定じゃん!
ここで二つとも消費しちゃったら次回作また新しい設定考えなきゃいけないんですけど?
心の声は二人には聞こえないのだろう。
作者である俺に魔法講座をしてくれている。
まぁ楽しそうだからいいか。
しばらく思い思いに過ごしていたものの。
だんだんと焦燥感や不安が蔓延してきたのが目に見えてわかる。
「遅い!」
鉄壁のウィンガルの叩いた、金属の膝当てとガントレットが高い金属音を響かせる。
「そうですよね……予定の時間にはまだですが、通路の先で
プリンがその不満に明確な答えを出している。
鉄壁と呼ばれた最強の盾と。
恐らく一撃に置いてはこの世界最強のアタッカーであるプリンが並んでいるのは、お似合いでもありシュールな光景でもある。
「そうだな、魔法使いの回復も出来たみたいだし、そろそろ左の洞窟へ進んでみるか」
アドルフが緊張感の無い雰囲気でそう結論付ける。
「ここには誰を残すのです?」
エンタルトが横から口を挟む。
ここにはまだ回収部隊が作業をしている。
護衛しながら、迷子になったものや戻ってきたものを手助けする役割を誰かが担わなくてはいけない。
「右に行ったメンバーの生き残りが居るだろ」
ウィンガルが事も無げに言った。
確かにそれもひとつの考え方だけど、仲間が死んでる人もいるんだし、もうダンジョンを抜け出したいと考えている人も居るだろう。
と、そこまで思って考え直す。
ここは戦場だ。
彼らも死を覚悟してここに来ている。
いい加減な仕事をして、回収部隊や他の仲間が死んでしまうことをよしとはしない筈だ。
自分の仲間が死んでいるなら、そうなる他人の悲しみもきっとわかる筈だから。
辛いとは思うが、それが彼らに任せる任務になるだろう。
「決まりだな」
アドルフは細かいことを詰めるタイプではない。
実際には殆ど決まり事はないまま、皆が立ち上がる。
一人どこか不安そうな生徒会長がその場から動かずに立ちすくんでいた。
「エンタルトさん?」
俺の声かけにハッと我に返って、悲しそうな笑顔を返してくる。
その表情をみて放っておけるわけがなかった。
「心配、なんでしょ?」
誰がと言うまでもない、彼女の大切なクラスメイト達だ。
エンタルトもその問いに頷きで返す。
「私たち学生は実際の現場に立つことが殆どありませんわ。的を練習台にいくら魔法を打ち込んでも、モンスター相手にどこまで戦えるかは想像出来ませんの」
今回は魔法の雷や炎をメインとするモンスターだっただけに、殆ど動くことはなかったが、俺達が出会ったアークデーモン等の敵であれば、初手で後衛を攻撃しにくるだろうし、そのとき彼女達全員を守りきることは殆ど不可能だ。
それを彼女も危惧している。
「敵が一体とも限りませんし、背後からの不意打ちだって魔法使いには致命傷ですわよね」
ただただ不安を吐き出してゆく。
「私達は前に進んではいけない……」
「じゃぁ会長だけ帰れば良いじゃないですか」
エンタルトの言葉を遮ったのはフリオッシュだった。
俺が始めてであったときのように、つり目勝ちな目をさらに尖らせて生徒会長を睨んでいる。
「私はここにローラレイちゃんや、勇者様を置き去りにして帰るなんて出来ませんよ」
彼女のもっともな発言に、生徒会長がたじろぐ。
しかし俺にはその背景に、自分の力をもっと試してみたいという承認欲求のようなものが見えかくれしているように思えた。
生徒会長の後ろにずっと居たその欲求がようやく吐き出せる場所を見つけたのだろうが……。
危なっかしいとしか言いようがない。
フリオッシュは今までエンタルトに付いていたお付きのものを従えて、颯爽とアドルフ達を追いかけて歩いてゆく。
俺は取り残されたエンタルトに向き直った。
「どうしますか?」
「行く……行きますわ」
か細い声でそう答えた生徒会長だったが、その声にはなにか力強い信念のようなものを感じた。
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