出陣と昔話
「準備はできたな」
アドルフの掛け声と共に、俺たちは揃って頭を縦に振る。
プリンはゴルドナイト製のドラゴンバスターを抱え、ピンクの沼ルーパーで作った鎧を着ている。
俺たちパーティの筆頭火力だ。
ローラレイはかの大魔術師ラーミカが残したローブ。
これは銀蜘蛛の糸を縦横斜めに織り上げた特注品で、魔力への干渉を防ぐ。
有り
杖は市販のものではあったが、耐久力さえ足りていれば、あとは補助無しでも魔力にものを言わせる戦法で戦えるだろう。
新入りのアンゴラ。
元々いた「スリーナイツ」でも、彼女は姫プレイをしていたわけではない。
ゆったりとしたローブはその柔軟性から、敵の矢を絡めとり体まで到達させない。
こちらも全体にではないが縦糸に銀蜘蛛が使用してあり、魔法防御力もそこそこある。
ただ杖が少し変わっていた。
「この先に付いているふわふわって何?」
何となく分かってはいたが、興味本位で答え合わせをする。
「これはウサギのしっぽ」
「やっぱり」
俺の世界でもそういったおまじないがある。
ローラレイが補足説明をしてくれた。
「うさぎは、子供を多く生むことから生命力のシンボルになることが多いので、回復術師はこぞって身に付けます。実際に回復効果の底上げがあるそうですよ」
「へぇ、実際に効果もあるのか」
アンゴラもその説明に納得がいったのか、うんうんと頭を振ってからこう続ける。
「子孫繁栄のお守りでもある」
「なぜ俺の方を向いて、親指を立てながらそれを言う?」
「子孫繁栄のお守りでもある」
「なぜ二回?」
そんなわけで新生勇者パーティは、戦力強化された状態で死地へと挑むわけだが。
「お前未だにひのきの棒なのな」
「アドルフ笑うな。ひのきの棒が炸裂すんぞ」
とりあえず、持ち手に穴を空けて紐を通してみたくらいしか代わり映えがしない。
ゴブリン相手でも殴る場所を選ばないと打ち負けてしまいそうだ。
ただし防具だけは少し変わった。
ゴルドナイト製の肩パットに肘当てに、胸当て。
要所だけを守る
「すまんローラ、運搬の魔法をこんなことで使わせてしまって」
そのままじゃ重すぎるので、
「戦う前から足引っ張ってんじゃねぇよフミアキ」
「アドルフうっさいわ!」
こいつがこれだけ絡んできているということは、それなりにこの戦いに緊張しているってことなんだろうな。
そう思えば腹も立たない。こともない。
改めて、天幕を離れる。
今回はこれは持っていかない。
いざというときに身軽でいるためだ。
洞窟の深度にあわせて、地上の舞台も移動する手筈になっている。
また、鑑定士のミルドリップさんにもそのまま常駐してもらい、運ばれた素材は鑑定ののち、彼の商隊が町まで運んでくれるそうだ。
急に呼び出した割に、仕事をたくさん押し付けたが。
「アークデーモンの首なんて鑑定できる日が来るとは!」
と、喜んでいたので問題はないのだろう。
俺たちは各々で山肌を上って行く。
アークデーモンを倒して出てきた洞窟の入り口に到着すると、いくつかのパーティが待っていた。
「おおっ、なんだ? 集まりが悪いな」
アドルフが笑って言うと、中の一人が鼻で笑って返してきた。
「ばか野郎、すでに入ってんだよ」
どうやら戦果を上げようと、朝から潜っているパーティが沢山いるようだ。
「俺たちは律儀にお前さんを待ってたから出遅れちまったぜ」
彼はため息をつきながら、重そうな鎧を
「あ、鉄壁の……」
「ああ、ウィンガルだ」
パーティ鉄壁要塞は、ウィンガルに引き続いて洞窟へと入る準備をする。
「まぁ焦ってもしゃぁない。どうせ後列は小物ばかりだろ」
そう言いながら、アドルフはそのまま洞窟の方へと足を運ぶ。
この戦いは長丁場になる。
焦るよりもマイペースで進むことの方が大切だ。
先行したパーティが露払いをしてくれるのなら、自分達は戦わずに進むことが出来る。
いざ大物となったときに少しでも余力を残しておくに越したことはないのだから。
「ボチボチ行こうぜ野郎共」
アドルフの声に、返事をするものはいなかったが、揃って洞窟へと足を踏み入れて行くのだった。
俺たちが崩落させた場所にはまだもう一匹のデーモンが埋まっているのだろう、発掘作業が続いていた。
「あ、この辺だと思いますよ弟さんの体」
すれ違いざまにローラレイが指示したことで、明後日の方向を掘っていた作業員達は「早く言ってくれ」と言わんばかりにため息をついてそこを掘りはじめた。
これもいずれ見つかるだろう。
先へ進むと、大きな洞窟への合流地点。
アンゴラと初めて会った場所でもあり、俺がサイクロプスを倒した場所でもある。
入り口ということもあって、すでに素材として運び出されてしまっているのか、滲んだ血の跡以外はほとんど残っていなかった。
「進軍は右から左に流れていたからな、やはり右……デッケーナの下を通るルートが本命だろうな」
その言葉になんの
実際に先行メンバーもここを右に行ったらしい、沢山の足跡が見て取れる。
とにかくそこからは平和な行軍だった。
時おりすれ違うのは、地上へと素材を運ぶ回収部隊くらいで、怪我人や死人などを運んでいる感じではない。
先行部隊も好調に歩を進めているのだろう事が伝わってくる。
「このままデスバレーまで行ってしまうのではないでしょうか」
そう言葉を溢したのは、金髪ショートカットのうら若き女性魔法使い。
その服装からフロントル魔法学校の生徒だと思われる。
ビキニに守られた胸は小さめだ。
その言葉にピクリと反応したのはアドルフだった。
それもそのはず。
デスバレーとは、アドルフの父が死の間際に放った攻撃で出来た、恐ろしく深い大地の裂け目の事だからだ。
────グリンチ・フォン=ハルデバルド。
紫煙の剣団長にして、王の右腕とも言われる剣士。
最も魔物を倒し、最も魔王に近づいた男。
彼が守っていたのは、王都からあまり遠くない場所。そこにはアルカホールに並ぶ大きな洞窟が口を開けていた。
度々起こる魔物の進軍を、防衛するための基地に彼らはいた。
魔王軍にとっても、行軍だけで数日かかるアルカホールなどより、補給線も短く、手下の消耗も少ないこの洞窟は地上侵略の最大の足掛かりだった。
グリンチ最期の日。
それは魔王軍が業を煮やして、四天王全てを投入した総力戦だった。
グリンチがいかに素晴らしい剣士であれど、4人を同時に止めることは出来ない。
沢山の仲間が散っていくその状況に、命を捨てる覚悟で放った技があった。
【
それは彼の妻、ラーミカにより強化され。
一撃で大地を切り裂いた。
巻き込まれた当時の四天王も3人までが消し飛び、一人は逃げ帰った。
そして残されたのが、深さを計りようもない大地の裂け目。
それは魔王軍の侵略拠点ごと
かくして前線基地はいまや形を失い小さな村に置き換わってしまった。
そのビギナーという村に、一人の赤子を残して。
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