加入と策士
翌日パーティメンバーを集めて簡単な会議を行うことになった。
議題は言うまでもなく新メンバー加入についてだ。
「アンゴラ・ラビットテイル」
三白眼を動かすこともなく、淡々と自己紹介を済ませる。
短いな!
「名前とかよりっ! なんで貴女はフミアキの腕にしがみついているの?」
まだ加入も決まっていない新参者が、先輩に対して無礼な態度を取っている状況にプリンはお怒りのようだ。
「居心地いいから」
「答えになってなぁい!」
端的に答えるアンゴラに対してプリンは地団駄を踏んで抗議している。
意外にも先輩後輩を重視するタイプだったのか。
「とにかく、彼女をパーティに加えるかどうか話し合いたいんだが」
昨日の段階でアドルフは賛成派、ローラレイもあまり深く考えずに「可愛いから」等という理由で賛成するだろう。
とはいえ、この調子だとプリンは反対。
俺も反対を上げて五分五分に持ち込める。
そうなれば、チームの半数が反対する状況での加入に
「じゃぁ、アドルフはどう思う?」
流れで司会進行を買って出た俺が促す。
「俺は賛成だ。回復は貴重なスキルだし、ローラが考えるべき事が一つ減れば、それだけ魔法に集中できる」
腕組みをしながら真面目に答えるアドルフ。
それは的を射ていて、なる程と思わせる説得力があった。
実際に緊急の場面で回復を選ぶか攻撃を選ぶか、選択をする場合迷いが生じてしまう。
ローラレイにとってはその上、焦りが加わってしまう最も避けたい状況に陥る可能性もある。
だからこそ彼女が低レベルでも、役割分担が可能であれば戦力の安定性はかなり増すだろうが。
「じゃぁローラはどう思う?」
これ以上彼に喋らせると、もっと建設的な利点をひねり出しそうだったので、ターゲットを変えた。
「私は良いと思う! アンゴラちゃん可愛いし」
まぁ予想の範囲内だ。
「ども」
アンゴラも誉められたのに対して少し頭を下げる。
「可愛いとかそういうのでパーティに入れるかどうか決めちゃうんですか!?」
そこにプリンが割って入る。
珍しく口調にトゲがあり、青色の瞳でジトっと俺を見る。
いや、何で俺?
「いや、俺は見た目を選考基準にしてないぞ!」
プリンが人間だったときゴリラみたいだからという理由で
「プリンちゃんも可愛いから入って欲しいと思ったのに……」
「わ、私が、可愛……可愛い?」
ローラレイが残念そうな表情で言った言葉に、プリンが顔を真っ赤にして戸惑っている。
本家から5倍重くなったドラゴンスレイヤーを使うために、お洒落もかなぐり捨てて鍛練に励んだぽめらにあんのプリンも、可愛いという言葉には慣れていないのだろう。
反撃できずに固まってしまった。
仕方ない、俺の番か。
さて。ここでなぜ俺が
俺の数少ない経験からいって、この手の女性は「サークルクラッシャー」であると睨んでいるからだ。
知らない人のために説明すると。
一つのサークルの中で奔放にふるまい、裏切りや嫉妬を誘発し、サークルを維持できなくなるまで追い込む人間の事である。
現に俺に気がある振りをすることで、
その態度でもってプリンの怒りを買っている状況はまさにそのサークルクラッシャーそのものである。
と、俺が答える前に先に口を開いたのはアンゴラだった。
「プリンさんはどうして私の加入を認めてくれない?」
バカめ、その上目使いは男には効果的だが、女性には火に油を注ぐ行為だぜ!
案の定、無敵奔放なローラレイによって戦意喪失していたはずのプリンに火がついた。
「大事な話し合いの最中に、フミアキの腕に絡み付いているってのが気にくわないわ」
そーだそーだ。言ってやれ。
「フミアキさん好き、離れたくない」
っぅおおぃ! 何言ってんの!?
みんなも口を開けて固まってんじゃん!
アドルフだけニヤニヤしてやがるクソめ!
「ななな、何言い出すのよ!」
プリンが俺の突っ込みを代弁してくれるが、どこかしどろもどろで勢いがない。
そこに今日最大の攻撃が畳み掛けられる。
それはアンゴラから単なる好奇心といった風の口調で放たれた。
「貴女もフミアキさんの事好きなの?」
その言葉に一瞬ガチンと固まったプリンだったが、徐々に顔が真っ赤に染まっていく。
笛付きヤカンだったらピーーーっと騒がしい音を立てそうになった所で、立ち上がって腕組みをしてからそっぽを向いた。
「べ、べつにフミアキの事なんか何とも思ってないんだからね!」
「だったら私が居ても問題ない?」
「勝手にしなさい!」
そういうと、天幕から先に外に出ていってしまった。
俺の最大の味方を退けるとは、このサークルクラッシャー、やりおる!
「で、プリンも加入に賛成らしいが、お前はどうするんだフミアキよぉ」
ニヤニヤすんなこのアドルフ野郎!
といってもここで俺だけが反対するのも、不和に繋がるかもしれない。
難しい選択になってしまったが、ここは流れに任せる他はないだろう。
「仕方ない、皆が良いって言うなら俺も折れるよ」
肯定はしないでおく。
こいつは危ないヤツだ。
「やった」
アンゴラは表情は変えずにピースサインをアドルフとローラに向けている。
表情筋は死んでいるようだが、喜んでいるのは何となく伝わってくる不思議。
「フミアキ、頑張れよ」
一足先に立ち上がったアドルフが俺の肩に手を乗せた。
「ああ、このパーティの結束は俺が守る!」
きっとこいつもアンゴラがサークルクラッシャーの素質があるのを見抜いているのだろう。
さすが切れる男だ。
しかし、彼はやれやれといった表情をしながら天幕をでてゆく。
何か違ったか?
「ってかアドルフ、お前はどこに行くんだよ。参加承諾したんだったらこいつの相手しろよ、チームリーダーだろ、新人に規則とか教えろよぉ」
プリンに引き続き天幕を出ていこうとするアドルフを呼び止めるために駄々を
「ちょっと野暮用があってな。まぁ夕方には分かるさ」
意味深なことを言って出て行く。
なんだよ面倒なこと押し付けやがって。
ローラレイは誰もいなくなったのを良いことに、こっちによってきて腕にしがみついてきた。
といっても、俺の腕にしがみついているアンゴラの腕にしがみついたわけだが。
「アンゴラちゃん可愛い」
「ローラさんも美人です」
「これからよろしくね」
言いながら腕にスリスリしている。
ローラレイはだいぶ気に入ったようだ。
確かにこの二人の息が合えば、戦いはもっと楽になるだろうから、スキンシップをとってお互いを知ることは大事だろうが。
「腕が重い……」
二人して体重をかけてくるから俺の左手はもう限界なんだが。
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