帰還と反撃
背中に迫り来る悪魔の爪。
それは容易に俺の身体を引き裂き、修復不可能な傷をもたらす脅威。
それはまさに俺の最後の瞬間だった。
しかし俺は全く恐れはしない。
ガツンと固い物同士がぶつかる音を背中に聞いたとき、俺は確信し立ち上がり、
「よぉしお前らここから反撃だ! アークデーモンだろうがなんだろうが、俺達にか敵わねぇよ!」
「おい、フミアキ! 戦いもしねぇのに大口叩いてんじゃねぇ!」
急に叫び出す俺に、場の空気が一瞬凍りついたが、脊髄反射でアドルフが突っ込みを入れてくる
先ほどと同じ場所に転がる彼も、すぐに立ち上がり破邪の剣を構える。
その姿を確認しながら、さらに視線を後方に移すと。
そこには──。
身の丈を越える黄金の大剣を構える、小さな15歳の女の子が立っていた。
茶色の髪を
爪と大剣のぶつかる火花に照らされ、一瞬だが耳にピンク珊瑚の耳飾りが揺れた。
「帰ってきた……!」
俺は視界が潤んでいくのを、袖で
「今じゃない、後でいくらでも流れろ!」
そして戦況を見極める。
こちらはアドルフとプリン。
向こうはアクークデーモンの兄弟。
前衛の役割で言うと、アドルフはスピードタイプだ。
この悪魔の早さにもついていけているようだが、アークデーモンの防御力に対して攻撃が軽く、当たってもダメージが少ないようだ。
いっぽうパワータイプのプリンは。
相手が二人であること、そして早いことは、この前衛にとって不利な条件であると言わざるおえない。
「だったら、魔法で補助するまでだ」
俺はローラレイの隣に立った。
「補助って、動きを早くする呪文でしょうか」
アタフタと落ち着きなく呪文を選んでいるローラレイの肩にポンっと手を置くと、その焦りが治まり、次に発する言葉を聞き逃さないようにと集中するのが分かる。
「接触型ファイアーボール、大きさ0.1距離10威力1000だ。個数は多ければ多い方がいい」
「ええっ、それって……」
「大丈夫、きっとアドルフ達にも伝わってる」
俺の指示通りの魔法であれば、小さな10cmのファイアーボールを10m先に飛ばして、爆発力は1000という高火力の魔法の玉だ。
たっぷり20秒かけて、呪文を詠唱するローラレイ。
戦場では致命的とも言えるその時間ではあるが、前衛が持ちこたえてくれるという信頼の元紡がれる魔法。
実際、2匹のアークデーモンの素早さは俺の目に止まる物ではなかったが、辛うじて前衛二人は反応し、こちらへ通すことはなかった。
「ファイアーボール!」
完成した魔法がゆっくりと飛び始める。
「これで良いの?」
「ああ、大丈夫だ。もう一回今度はもっと小さく!」
そして次の詠唱が始まるタイミングで俺はアドルフとプリンに指示を出す。
「二人とも、戦いの舞台は整ったぞ!」
俺の言葉に二人が下がると、その周囲に小さな魔法の玉が浮遊しているのに気づいたようだ。
「さぁここから反撃開始だ!」
俺は叫び、懐から照明弾用のファイアーボールのスクロールシューターを取り出すと、悪魔目掛けて放つ。
反対側の手ではウィンドカッター弱を構えて。
彼らにとってそんな無意味な魔法を向けられる事が不気味に思えたのか、一瞬で動いて
そのついでにプリンに切りかかるが、横合いからの破邪の剣とぶつかり合って弾かれる。
その間に二度目のローラレイの魔法が放たれる。
今度のファイアボールはさっきよりも小さく、視認しづらい。
辺りはフワフワとゆっくり進むファイアーボールに照らされ赤く染まっていた。
「よし、最後だ。エコーロケーションを!」
「ええっこんなに明るいのにですか?」
敵の前でいちいち作戦をベラベラしゃべる訳にはいかない。
俺が目を見て頷くと、信用してくれたのか魔法の詠唱をはじめるローラレイ。
すぐに視界が黄緑色の点描の世界へと移り変わった。
空間にアドルフとプリンの人型が浮かび上がり、アークデーモンもより濃い色で写し出されていた。
そして空間のあちこちにはふわふわ浮かぶファイアボール。
「ふはは、機雷のつもりか? そんなもの避ければ良いだけ、なんの意味もない」
まぁバレバレですよね。
実際ファイアーボール機雷を避けながらも、爪を伸ばしてプリンへと斬りかかる。
だがそれをバックステップで下がって避けるプリン。
追撃をしようとするが、目の前のファイアーボールが邪魔で、回り込むうちに体制を整えたプリンに反撃の一振を許してしまう。
アークデーモンは回り込むのを諦め距離を置くが、この機雷がずいぶん面倒くさいものだと認識したらしく、舌打ちをしている。
その間も、彼らより一回り小さいアドルフはファイアーボールを潜り抜けて、弟らしき悪魔に斬りかかっていた。
回りの魔法弾の把握をする一瞬に、足を切られてしまったアークデーモン。
ダメージは小さいがやはり上手く立ち回れないのをイライラと感じているようだ。
「まだまだ行くぜ!」
俺は照明弾用のファイアーボールを放つ。
点描世界ではほんの小さな固まりでしかないのだが、現実視点では同じファイアーボールに対して大袈裟に反応するデーモン達。
その間も、ごく小さいファイアーボールをちまちま打ち出しているローラレイ。
「くそ、厄介な。魔法で打ち落とす!」
兄がそう叫ぶと、弟が前にでて兄を庇う形で相対する。
「バカが、作戦通りだよ」
触れれないなら魔法で。
短絡的にそう考えるのは目に見えていた。
瞬間機雷を掻い潜り、アドルフとプリンが前に出る。
アドルフの一閃を爪で弾き返すと同時に、上からプリンの縦切りが襲いかかる。
持ち前のスピードでそれを
「させるかよ!」
左を抜けようとするアドルフの背中目掛けて、その背を追うように爪を振るう。
「ドラゴンライズ!」
縦に叩き込んだ反動を利用したプリンの必殺技で、向きを変えたドラゴンスレイヤーが、今度は振り上げられる。
ボキリと鈍い音と共に、アドルフの背中に迫っていた腕がへし折られる。
アドルフもその身を翻して、破邪の剣を脇腹へと突き刺した。
肋骨の回りは筋肉が少ない。
そして彼には今点描の世界が見えている。
つまりマナの薄い部分を目視できる状態にあるということ。
刃渡り50cm程度の剣を半分ほどめり込ませ、そのまま横に切り裂いた。
「ぎゃぁぁ!!」
一手で左腕と脇腹を
「退け、弟よ! ダークニードル!」
数十本の黒い短槍が中に浮かぶと、機雷に目掛けて放たれ、いっきに爆発して行く。
爆風に一瞬世界が歪んだようにすら感じる熱気。
「シールド!」
爆風からローラレイを守りながらそれを観察する。
閃光と熱風により、一瞬だが戦闘が止まる。
次に兄がその爪を振り抜いたときには、アドルフとプリンは元々機雷があった場所へと下がっていた。
「弟を囮にするなんてひでぇ兄貴だな」
アドルフの口からはどうしてこう人をいらっとさせる言葉が平気で出てくるのか。
弟の傷をチラッと見やった兄は、額に血管を浮き上がらせると、今はもう四散した機雷源へと一気にとびだす。
「許さんぞ貴様ら!」
その叫びに気圧されるものはこのパーティには一人もいない。
俺とアドルフの口許に至っては、不適な笑みすら浮かべているのだった。
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