シューターと一つ目
心が決まった。
そうなるともう目に入るのは敵の姿だけだ。
「こいよ雑魚ども!」
アドルフよろしく口汚く
王都でローラレイが王妃に魔方陣を作っていた10日程の間に、さらに試作を重ねたスクロールシューターを開発していた。
その試作品が8本ほどあり、それぞれに色々な魔法を閉じ込めてあるのだ。
「まずは挨拶がてら、この魔法だ」
ゴブリンが3体まとめて走ってくる。
手にはこん棒、鉈など、そう強い武器を持ってはいないが、
「ファイアーボール!」
引き金を引いて露出したスクロールに指が触れ、それを切っ掛けに銃口の部分から大きな火の玉が飛び出した。
火球は2mにも及ぶ巨大なもので、近づいたゴブリン三体を巻き込んで進み、その先で爆発した。
しかし、基本のファイアーボールはわりとゆっくり進むため、遠距離であれば避けやすい部類。
またこの薄暗い空間では、火球というのは目立つために、認識されやすい弱点がある。
しかし、始めにこれを使ったのには訳があった。
目立つ攻撃をすることで、驚異を知らしめる事。
そして闇に隠れて、見えにくい敵の数を把握するためだった。
実際明るくしてみると、大小様々なモンスターが大きな火の玉を発生させた俺に向かって睨みを効かせてきた。
その数100体は越えるだろう。
「はは、見なきゃ良かった」
苦笑するも誰もそれを見ているものはいない。
それに、洞窟のこの場所の全体像もあらかた分かった。
この場所は大昔に天井が落ちたのだろう、現在の天井はかなり高いところまで開けていた。
横幅もこれも雄大なもので、岩に仕切られたりはしているものの、空間的には400m程度幅があるだろうか。
きっとこの大岩の向こうではアドルフ達が戦っているのだろう。
信じてくれた彼に、恥ずかしくない戦いをしなくては。
だが、今は目前の敵!
俺の目が四足歩行の生き物が走り込んでくるのを確認した。
急いでホルスターにファイアーボールのシューターをしまうと、となりのシューターを手に取る。
それを魔物が待ってくれるはずもなく。
大口を開けて飛びかかってきた。
「アイスニードル!」
後ろに転がるようにしながら狙いを定めると、
飛び出しはしないが、その大きさは1m以上。
敵の口目掛けて氷が突き刺さり、
すぐさまシューターを取り替え、2発目のファイアーボール。
魔法と違って詠唱がない分、敵も反応が遅れるのか数体の敵が炎に呑まれる。
しかしその隙間を縫って、またもや四足歩行の獣。
相も変わらず大口を開けて飛びかかってきた。
俺は慌ててひのきのぼうを横にして獣に噛みつかせると、そのまま巴投げの要領で勢いを殺さず地面に叩きつけた。
立ち上がると同時に、別のシューターからウインドカッターを発生させて、前足二本を折る。
すぐさま振り返ると、コボルトが5体こちらへ飛びかかってきていた。
ゴブリンと同程度の力だが、彼らの狩猟はチームワークだ。
あまり同時に相手はしない方がいい。
俺は今だ体に残っていた風の精霊の手を借り、走って距離を置いた。
そこでまたファイアーボール。
だが見切られていたらしく、簡単に左右に避ける。
「だと思ったよ」
予想済みだとばかりに、追いかけてウィンドカッターをファイアーボールに当てたことでその場で爆発。
爆風と燃え上がる火炎にコボルトが火だるまになって転げ回る。
火だるま状態というのは、火傷だけが致命傷ではない。
炎を吸い込んでしまうと気管支が焼け息ができなくなるし、煙を吸い込むことで脳にダメージが出る。
のたうち回るコボルトにとどめなど刺さない。
目の前にはまだわんさかと敵がいるのだ。
魔法で距離を稼ぎながら、誘爆や感電などあらゆる手を尽くす。
時には肉薄し、ひのきのぼうが炸裂する。
日頃から訓練と称して振り回していたのが良かったのか、戦いの際にこんなにしっくりくるとは思っていなかった。
それに幸い大きな敵の殆どはアドルフ達を脅威と見なしてそちらに向いているようで、雑魚との戦いにも少しづつ慣れてきていた。
とはいえ、スクロールにも限りはあるし、俺の体力だって限界が近づいてきている。
「経験値が入っていれば、このくらいへっちゃらなんだろうけどな」
愚痴っても叶わないこともある。
そして希望さえ打ち砕かれることもある。
こちらに掛かってくる雑魚が減り、取り巻きが薄くなったところでそれは現れた。
視界に入るひときわ大きな影。
「サイクロプス……さぁてどう片付けたもんか……」
またもや苦笑しか出ない。
身長は3m以上、右手に大きな刀を持っている。
それはもはやプリンのドラゴンスレイヤーよりも大きなものだ。
「あんなものどこの鍛冶屋が作ってんだよ」
サイクロプス自体、神話などで語られる際には色々な描かれ方をしている。
その中には、鍛冶を行うサイクロプスも居たと記憶しているが。
まさに鬼に金棒の様相を呈している。
先制攻撃。
俺は温存していたファイアーボールを撃った。
あの巨体では避けきれないだろうと踏んだのだ。
確かに避けはしなかったが、手に持っている剣で叩き潰し、爆発させた。
「おいおい、器用じゃないか」
ああいう大きい種族は頭が悪かったり、不器用で大雑把なのがセオリーだろ!
文句は言いたくはあるが、考えている間にサイクロプスは足を早める。
一歩一歩が大きい。
後ろに下がりながら距離を置く。
シューターからライトニングという電撃の魔法を放つが、何事もなかったかのように走り抜けてくる。
ダメージすら出ていないのかもしれない。
そして刀というにはでかすぎる鉄の塊が俺の頭を目掛けて振り下ろされた。
「さすがに単調な攻撃は避けれるぜ」
レベル1でなくても当たれば即死間違いなしだが、真っ直ぐに振り下ろされた鉄塊は、地面を
バックステップでそれを避けると、片ひざを付く形で着地する。
すぐにまた回避できるように、敵の動きは見逃さない。
「当然、次の攻撃も来るよな」
独り言を言う時は調子の良い時だ。
戦況が思い通り進んでいるということ。
俺に刀を振り下ろすために、サイクロプスが一歩踏み出した瞬間。
彼の体が硬直し、そのまま横に倒れてゆく。
膝から崩れ、顔から地面に激突した。
すぐさま俺は腰から短剣を抜き出して駆け寄り、一瞬でその首を
赤い血がドバドバと地面に広がるのを見て、恐怖よりも安堵を感じてしまう。
そして俺が目線を送ったのはサイクロプスの足元のスクロール。
それは先ほどバックステップした際に地面に仕込んだ罠のスクロールだった。
踏むかふまないかは賭けだったが、クレソンさん
狩りなんてそんなものだ。
ほっと一息を付く俺の背中に、一際大きな影が落ちる。
振り向いた俺を睨み付ける、もう一つの大きな目に。
もはや苦笑いしか出なかった。
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