竜巻と狂戦士
先ずは素早いアドルフが一気に踏み込み、父親から譲り受けた破邪の剣で一閃した。
凶刃は黒い
しかしスケルトンロードもプリンの武器と
一瞬アドルフの動きが止まったかと思わせた瞬間、スケルトンロードの横なぎがそこを通過する。
しかし手応えはない。
跳躍するための溜めだったのか、次の瞬間には空中に居た。
跳躍したアドルフは体をひねって勢いをつけると、必殺の一撃を繰り出す。
かのように思えた。
スケルトンロードは頭上のアドルフを無視して、剣を立てて何かを防いだ。
骨だけの軽い体は、その勢いで3mほど吹っ飛び、地面を滑るように着地した。
飛び上がるアドルフに意識を持っていかれてる間に、その後ろから迫っていたプリンが渾身の一撃を叩き込んだのだった。
実際、見ているだけの俺でもついアドルフを追ってしまい、プリンの接近には気づいていなかった。
それをガードしたスケルトンロードも大したものだ。
「あら、骨だけだから良く飛ぶわね」
皮肉を混ぜてプリンが言う。
こと戦闘に置いては、力試しをするように戦いに身を置く彼女は、少しだけ口が悪くなる傾向にある。
「バカ、ああいう時は剣先を狙うんだよ」
「何よ、どうせ防がれてたじゃない」
「剣にも重心があってだな、振り回してねぇ剣なら先が一番軽いんだよ」
剣術指南というほどではないだろうが、スケルトンロード相手に余裕の二人だ。
「オンライト」
そこに先程の光球よりさらに大きなミニ太陽が生成されたことで、アンデット系の魔物の動きをさらに阻害できたようだ。
「すげえ、勝てるわこれ」
俺はいざとなればローラレイを助ける事が出来る間合いでそれを見ているだけだが、割と圧倒的で負ける気がしない。
「ほんじゃ、行かせてもらうか」
と余裕で笑うアドルフだったが。
不適な笑みを浮かべたのは彼だけではなかった。
「出よ
剣を地面に突き刺した瞬間、ダンジョンの中に地鳴りのようなものが響き始める。
「何よこんな……」
プリンが何か言おうとしたのだろうが、急に顔を青ざめさせた。
彼女の足首を、地面から生えた白い骨が掴んでいたからだ。
アドルフは一瞬でその腕だけを切り飛ばし、プリンもその場を飛び退いた。
そこにスケルトンロードの容赦無い振り下ろしが叩きつけられる。
地面が割れた石つぶてと共に、仲間である筈の骸骨が散乱するが、気にも止めていない様子だ。
「だよな」
アドルフが苦笑いをしながらも剣を構える。
応じるようにプリンも相手を睨んでいる。
そうこうしているうちに地面を掘り返して数十体のスケルトンが立ち上がっていた。
「さぁて、どうするかねぇ」
包囲を狭めてくるスケルトンに刀を向けながらも、押され気味に見える。
「ローラ、ちょっと」
そんなか俺はローラレイの耳元である秘策を伝えることにした。
「えっ。それで良いんですか? ……やってみます」
快く引き受けたローラは、すぐに魔法を詠唱しはじめる。
その状況に一番焦りはじめたのはアドルフだ。
過去に彼がどんな厄災を経験したか、語らずともこの反応でわかるというものだ。ざまぁ。
「まて、ちゃんと慌てずゆっくりだな!」
だがそんな制止も聞かずに魔法は発動するのだった。
「ハリケーン」
部屋の中心に木枯らしのような風が吹いたかと思ったら、それは突如凶暴化した。
「うおぉおお全体攻撃! フミアキ何やらしてんじゃコラァ!」
アドルフが俺に敵意を向けるが、吸い込まれないように抵抗するので精一杯だ。
「勇者さん私に捕まってください」
プリンはドラゴンスレイヤーを地面に深々と突き刺すと、片方の手をアドルフに伸ばした。
風の勢いはいっこうに収まらない。
重量の軽いスケルトンは踏ん張りが効かずに竜巻に呑まれて上へ下への大騒ぎをしている。
「よっしゃ、とどめだ」
俺は火炎瓶に火をつけると、その竜巻に数本投げ込んだ。
かくして竜巻は炎を巻き上げ、スケルトンを焼き尽くしてから消滅した。
あとに残ったのは、骸骨が這い出たぼこぼこの地面と、へたり込んでいるプリンとアドルフ。
俺は座っているふたりに笑顔で手を差し伸べた。
「こ……」
「こ?」
「殺す気かぁ!!」
アドルフの容赦無い一撃を、魔法で強化された逃げ足で回避。
いや、今のお前も殺す気じゃん!
「フミアキさんにはちゃんと勝算あったみたいですから、実際うまく行ってますし」
フォローしてくれるローラレイちゃん女神。
「それにしても、一言は欲しかったわ」
未だに立てないプリンからも不平不満が飛ぶ。
「プリンにはその剣があるだろ、軽く見積もっても簡単に風には飛ばされないさ」
「まぁそれはそうなんだけど」
「いや、だったら俺は飛ばされても仕方ないみたいじゃねぇかよ」
アドルフは未だにブチキレだ。
「そうならないように、ローラには状況を見てゆっくり魔力を上げていくように言ったんだよ」
きっと骸骨は飛ばされるが、彼らは飛ばされない境界線はある筈だ。
しかし瞬時にその計算をし、間違いなく出力するのは難しいだろう。
だったらいったん魔法を発動しておいて、魔力を増やしていった方が、その境目に気づきやすいと思ったのだ。
俺の考えを聞くと、利にかなっていると思ったのかアドルフはとりあえず剣を納めてくれた。
「上手く行って良かった」
ボソリと呟く俺の声は誰の耳にも入らなかった。
何故なら地を這うような恨みの台詞が、この空洞に
「貴様、よくも……よくもぉぉぉおお!」
それはあのスケルトンロードのものだと理解したが。
「竜巻に巻き込まれて死んだんじゃないのか!」
アドルフの言うとおり、全員が既に終わったと思っていたのだ。
だがその声の主は、地面の中から現れた。
「とっさに地面に隠れていたんだな」
俺が舌打ちをするのと相反して、笑顔のふたりが前に出てゆく。
「ちょうどムシャクシャしてたんだ」
「まさかフミアキに殺されかけるなんて思っても見なかったわよ」
なんか俺のせい?
「殺す」
「殺して差し上げます」
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