拷問と情報
「そう言えば会話できる魔物と出会うの初めてじゃないか?」
俺の問いに対して、大きな剣を背中に
「そう言えば確かに。スケルトンレベルでは言葉を話したりしないですしね」
「まぁ魔物と話せて嬉しいことなんてねぇからな」
父親の形見に刃こぼれがないか確認しながら、こちらも
「そんなこと言わないでくださいよぉ」
遺影とか遺骨を持つイメージで、俺に持たれたスケルトンロードの頭骨がしゃべる。
先程ふたりにボコボコにされて、最後はプリンの横薙ぎにより殆ど頭だけになって転がった頭骨を俺が拾い上げた。
「ところでさ、なんでお前はこんなところで仲間増やしてたんだ?」
折角喋るのなら何かしら情報を得ておきたいわけで。
「そんなぁ、人間ごときに喋れませんよぉ勘弁してくだせぇ」
「お前、卑屈なんか舐めてんのかわからんな」
俺は少しいらっとしたので、近くの固そうな岩で頭骨をゴリゴリ削り始めた。
「うわわわ! ダメ! やめてくだせぇ、わかりました話しますよぉ」
「こんな状況なんだから諦めて最初から話しとけよ、ったく」
いったんゴリゴリを止める。
「ちょっと軍勢そろえて近場の人間を皆殺しにしようかなって」
「そんな気軽に思い付かれても困るなぁ」
俺はまたゴリゴリ削りはじめる、地面にパラパラと白い粉が舞う。
「気軽とかじゃないっすよ! 生活かかってんですから!」
「あっ、そなの?」
スケルトンロードの言うことには、魔物にも社会や権力争いがあって、かなりの実績重視社会らしい。
人間側がスタンピートだなんだと騒いでるのは、実績を挙げたい魔物のアピールの場でしかない。
「ここで名を挙げておけば、上への印象が良くてですねぇ」
「お前も苦労してんだな」
「そうなんでさぁ、じゃなきゃこんな辺境までやってきて戦ったりしねぇですわ」
こいつに出会うまでに何体のスケルトンを倒したかは数えてないが、約300体は居たかもしれない。
ただの村が急にこの数の魔物に襲われたらひとたまりもないだろう。
今回俺達がこの巣を叩けたのは、それだけで
「お前もここで朽ちるのは本望ではないだろ、少し情報を売ってくれ」
「人間ごときには仲間売れないんでさぁ勘弁してくだせぇ」
よくこの状況で下に見れるよなこいつ。
「よしプリン、ゴリゴリ行け」
「わかったわ」
ゴリゴリゴリゴリ!
「うわぁ、怪力嬢ちゃん! ピシッて言った、今ピシッて言った!」
ものすごい早さで減ってゆく頭骨。
どこまで行ったら喋らなくなるんだろ。
「仲間とは言わない、お前が気にくわないライバルの情報でもいい」
「あっ、それなら言う、言いますぜ!」
手が止まると、ホッとした顔をするスケルトンロードも、頭蓋骨の左上は目の穴ギリギリくらいまで削れている。
「ドラゴニュートが、上位のドラゴンと手を組んでカルボナーラ山の出口辺りに巣を作るって聞いてますぜ」
ぺらぺらと情報を話し始める、これは命惜しさというよりは、恨みを晴らしたいようなニュアンスを感じた。
「ほう、それを叩き潰せば嬉しいか?」
「そりゃあもう、あいつら俺達の事を【食い残し】って呼んでいつもバカにしやがるんでさぁ」
きっとドラゴニュートという魔物は肉食なんだろう、彼らにとってはスケルトンなんて、居酒屋の手羽先の骨を入れる容器の中身くらいにしか見えないのかもしれない。
思い出したのか、嫌そうな顔をする。
骨なのになんか分かるんだよなぁ。
「魔物にも派閥とかいじめとかあるんだな……いじめダメ絶対」
「この頭削れてんのはいじめちゃうんですか?」
「こりゃ拷問だ」
「魔族には違いがわからんですわ」
「よし、プリン削ってしまえ」
再びゴリゴリが再開される。
「ええっ! 助けてくれるんじゃ」
「誰が助けると言った?」
「おっ、鬼! 悪魔!」
「そりゃお前達の部類だろうが」
ゴリッ。
鼻のあたりまで削るとさすがに静かになった。
「ふぅ。良い情報を手に入れたぜ」
一仕事を終えた感じで、出てない汗を袖で拭う仕草をしながら、俺は仲間の方を振り向く。
しかしアドルフとローラレイは少し遠巻きに、楳図○ずおの漫画みたいな顔でガタガタ震えている。
「えっ?」
「えっじゃねぇよお前、酷くねぇか?」
「あれが先月まで盗賊を殺すのを
あれ、なんかアウェイ?
「でもさ、魔物じゃん?」
おれはあたふたしながら反論する。
「魔物でも野生動物でも、あんな酷い死に方はしたくありませんよ」
ローラレイちゃんまで今回は距離を置かれているのがショックなんですけど!
「でもプリンも手伝ってくれたし!」
助けを求めるようにプリンを見ると、目線を合わせないようにしながら指を指してくる。
「この人にやらされました」
「んなーー!?」
「酷い、女の子に拷問をやらせるなんて」
「最低だぞフミアキ!」
まじで?
「魔物にも人間をいたぶるのが好きな連中もいるが、魔物の中でも非難の的らしい。それを人間がやっちゃいかんだろ」
そういやわりと社会性あるっぽかったですね。
「ごめんなさい二度としません」
「そうしてくれ」
「でも情報は引き出せただろ? これは有益だよな!?」
みんなは少し渋ったが、頭は縦に振った。
「ドラゴニュートのスタンピートなんて考えたくもないですね」
顔を青くしながらローラレイが言うところを見るとかなりヤバイらしい。
「もしなんの対策もなく溢れ出たら、町どころか国が滅びかねないな」
被害に合うのが一番近い国だとすると、最近まで自分達がいたデッケーナもそのターゲットになりかねない。
「そんなにヤバイのか?」
無知すぎる俺の言動にプリンが教えてくれる。
「私達が10なら、スケルトンロードは15、ドラゴニュートは一体でスケルトンロードの2倍は強いわ、それが沢山居るっていうんだから、その危険度はわかるでしょ?」
「これは一度デッケーナへ戻って知らせなきゃ……」
「魔物から聞いた情報を信じて貰えるかよ、動くとなるとかなりの兵力になるぞ」
「でも急がないと、国民が巻き込まれてしまいます」
アドルフとローラレイがああだこうだと言い合っているが。
俺はある名案を思い付いていた。
「よし、俺達で倒そう」
その一声を聞いたパーティーメンバーは、一様にキチガイを見る目で俺から離れていった。
おーい、ちゃんと説明するから戻ってきてー。
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