3章・成長編

三章と出発

「じゃぁ出発しましょう!」


 冒険を再開する日の朝、音頭を取ったのはローラレイ。

 俺たちは脱兎の穴蔵の扉をくぐった。


 振り返って手を振ると、受付の女性とロバートさんがほぼ同時に同じ角度でお辞儀をした。

 もし時間が許すならまたここに来たいと思う。


 それは各々で同じように感じているのだろう。


 街の修練場へと通っていたアドルフも、先輩達の技を盗み、最後には負かす程に成長したと聞く。

 プリンも採石場で好んで働く男達に求愛されまくったらしいが、全部断って来たそうだ。

「むさ苦しい男性は好みじゃないのよね」

 とはいえそれを語るプリンはまんざらでもない顔をしていた。


 そしてローラレイは、母に魔方陣を施したことで、彼女無しでも生活が出来るくらいまで回復したということだ。

 寝たきりの間の筋力の低下も、魔法の粉(プロテイン)と運動で回復傾向にあるようだ。

 そして彼女はその両親と兄妹達にお別れを言って出てきていた。


「寂しくはないか?」

 それは誰が誰に言ったわけではないが、その問いに答える者は誰も居なかった。


 ただ。

「私、この旅が終わったら城に戻ります、何年、何十年かかるか分からないけど必ず」

 ローレライがそう言った本当の理由が。


「お母様の魔力回路、50年分マナを貯めてきたんだけど……もしマナがつきる前にお母様が死んじゃった場合って、ゾンビになるんじゃないかなって気が気じゃなくって」


 という事だったのは、ガンダルフ王や兄弟達には秘密にしておこうと思った。

 なったときに考えて貰えば良い。



 そんなこんなで街を出た俺たちではあったが、当初の目的を忘れたわけではなかった。

 俺がスクロールで稼いだお金や、プリンが採石場で稼いだお金を合わせて、アドルフの装備を購入した。


 この街に入ったときにプリンには鎧を新調したが、アドルフの体を護るものといえば、未だに布の服と額のサークレットくらいのものだったから、前衛職にはあまりに貧相だということで、考えていたものだ。

 スクロールシューターを作って貰った鍛冶師に、出来るだけ軽くて強度のある鎧をお願いしたらすごいのが出てきた。

 それに使われている鋼は薄いが弾力性が高く、多少の凹みであれば戻るらしい。

 形状記憶合金か、魔法の産物なのかは良く分からないが、製法は秘密なのだとか。


 ちなみに、セカンドの街で杖を買ったのでローラレイには追加の予定はなかったが、王様から魔術師のローブを貰っていた。

 これはかの大魔法使いであり、ローラレイの育ての親であるラーミカが冒険者時代に使っていたもので、友人であるカラミティ王妃が大事に仕舞っていたものらしい。

 繊維が螺旋状に編まれており、矢を受けると絡めとるようにして中まで通しにくい素材なのだとか。

 しかもそれが魔法に強い蜘蛛の糸であることから高い対魔法耐性もあると言うのだから至れり尽くせりだ。


「で、なんで俺は未だにひのきのぼうなんだ?」

「なに言ってる、フミアキがレベルアップしてないから高いランクの装備が使えないんだろうが」


 アドルフの言う通りではあるが、解せぬ。

 これでも朝の修練の際にであった低級モンスター等はボチボチ狩っていたのだが、全く強くなった気がしない。


「お前呪われてるんじゃね?」

「呪われてねぇよ」

「えっと、解呪……なにも変わりませんね」

「しれっと試してみないでくれよローラ」

「筋肉を鍛えれば重い剣も振れるわよ」

「脳筋! それ脳筋発言だからっ」


 あれやこれやと話しながら進むが、特にこれといって解決策はなく。

 ビギナーの街を出たときのままの強さで進み続ける事に。

 だというのにそこにぶちこむのはいつもこいつだ。


「──でさ、結局街道歩いててもモンスターには遭遇しないわけよ」

 半日歩いてもスライム一匹居ない。

 修練場で鍛えた実力を早く試したいアドルフとしては、モンスターの居るところに行きたいのだ。


「私も、もっと素早くドラゴンスレイヤーを振れるようになりましたよ」

 もちろんこっちもだ。


「私もレベルを上げたいです」


 ローラレイまでがそう言った事で、みんながこっちを向く。

 多数決なら完全に負けるだなこりゃ。


「仕方ねぇ、俺も足を引っ張りたくないしな」

 俺は降参して彼らに主導権を渡すことにした。



「やっぱりモンスターを倒すならダンジョンだろう」


 軽く補足すると、ダンジョンと言っても中に宝箱があるわけではない。

 モンスターは地中を住みかにしていて、それは蟻の巣のように張り巡らされている。

 その出口に当たる部分をダンジョンと呼んでいるわけだ。

 だから、そのどこから入っても、最終的には魔物の産まれる場所に到達できるわけだが、その端になればなる程モンスターの出現頻度は少なくなるようだ。


 ただ希に大群を率いて地下を移動し、地上に総攻撃を仕掛けてくるタイミングがある。

 これをスタンピートと言い、それを率いるのは大抵魔王軍幹部クラスであることが多い。



 ただ、ダンジョンに潜るのはそれなりに意味はある。

 穴から出る前に叩くことで、民間人や農作物に被害が出る事を抑える効果もあって、ダンジョンへ潜るのは推奨されていたりする。



「そっかぁ三章に入るんだよな」

「なにかぶつぶつ言ってるな、気持ち悪いヤツ」


 アドルフの毎度の突っ込みにも慣れたもの。

 俺の書いている小説は、ここから三章へと突入するわけだ。

 まぁ有り体に言えば、強化回というか、修行回というか……戦ってばっかりの章だった筈だ。


 なんか倒す度にスキル覚えてみたりとか、そのレベルではあり得ない敵に遭遇して、辛くも勝利しつつ、一気に強者になってみたりするあれ。


 でもなんだろう、この世界に入ってみて思うんだけど。

 作者の求める【ご都合主義】と、世界が求める【必然】って相反している気がする。

 その点この三章は【ご都合主義】で話が進む。

 それにどれだけ【必然】が関わるかで、路線は随分と傾くのではないかと懸念するのだ。


 単純に、彼らが怪我をしたり、最悪死んだりする可能性だって無いとは言えない。


 それが引っ掛かっているからこそ、戦いに明け暮れる三章には不安が残るのだった。



◇◆◇作者からの一言◇◆◇

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