名案と母娘
ガンダルフ王は、ため息を付きながら言葉を落とす。
「カラミティを治す。簡単に言うが、この十年間わしも何もしなかったわけではないのだぞ?」
きっと腕利きの医者や、魔法使いを呼び寄せ、沢山の方法を試した筈だ。
しかし、その時に居なかった人物が、今ここに居る。
「元々ローラレイを救うために、大魔法使いラーミカ様が施術をしたと
その言葉に王は小さく
「それは本当なのか!? 街でいくら探してもその者は見つけられなかったのだ!」
ひょんな事からエリアスが家出していた理由が発覚したが、その探し人が自分の双子の姉だとは知らなかったのだろう。
エリアス自身も王と俺の視線の先を
「ローラレイは大魔法使いラーミカ様から、大事な事を一番最初に教わっていたんですよ」
俺は立ち上がり熱弁を振るう。
それは劇がかっていたかもしれないが、ローラレイに道を残す最後の切り札になると思ったからだ。
「ローラ……母上の魔力の流れはどうなっているか、みんなに教えてくれないか?」
俺は努めて優しくそう問いかける。
「えっと、体内で作られたマナが、体を巡らずに外に出ていっている状態、かな」
「つまり、体の中に魔力を留めておけない状態ってことだね」
俺が確認すると、ローラレイが頷く。
「じゃぁ、こうやって魔力を閉じ込めたらどうだろう?」
俺はポケットから布切れを一枚取り出した。
「スクロール!」
ローラレイの目が輝いた。
スクロールの中心には、マナを貯める魔方陣が描かれている。その回りには、貯めたマナをどの程度消費するのかが書いてある。
つまり、電池だ。
「王妃の体をそのままスクロールにして、魔力を一定量供給し続ければ、彼女はローラレイ無しでも生活が出来るようになるんじゃないかと、俺は考えているのです」
「そんなことが出来るものか!」
王が食いつく。
「出来ないと決めつけて、試さないおつもりですか?」
俺は強気の姿勢を崩さない。
自分より大切なもののためにここは引く訳にはいかない。
俺の剣幕に押されたのか、王は黙ってしまった。
それに覆い被せるかのようにはつらつとした声が響く。
「私は試してみたいわ」
それはカラミティ王妃の言葉。
今まで床に
「あのラーミカが何の考えも無しにローラレイに魔方陣の描き方を教えたとは思えないわ、きっとこの瞬間に必要になると思ったから、一番最初に教えたのよ」
その言葉が王の気持ちを大きく揺らがせたようだ。
深く椅子に座り直し、ウムとひとつ頷いた。
それほどまでに大魔法使いラーミカは伝説的で、彼ら夫婦にとっても大事な人物だったのだろうということが伝わってくる。
「ローラ、出来そうかい?」
俺は立ったまま彼女に聞いたが、答えはもう分かっていた。
その顔が希望に満ちていたからだ────。
話し合いのあと、俺たちはローラレイを城に残して脱兎の穴蔵へと戻ってきていた。
「あれから一週間が経つが、ローラは戻ってくるのか?」
「アドルフそれ毎日言ってるぞ」
「戻ってくるに決まってるじゃない」
割と意気消沈ぎみなアドルフを毎日励ましながらも、プリンは相変わらず採石場へ。
俺は魔力を注ぐ前のスクロールを書き上げていった。
と言っても俺には細かな計算はできないので、ローラレイが書いた見本通りのものを何枚も複製しているだけだが。
その日城からの使いが手紙を持ってきてくれた。
魔方陣の公式が完成して、あとは王妃への施術だけになっているという内容だった。
ようやく進捗を知ることが出来て、アドルフも元気になり、翌日からは修練場へ向かっていった。
バラバラに見えても、結局はみんなのために何かをしたいという気持ちで動いている。
これは家族とはまた違って、大事な関係性だと俺は思う。
もしあの時、ローラレイが離れると王妃が死んでしまうという状況だったら、きっとローラレイは城に残る選択をした筈だ。
むしろそれ以外の選択は無かっただろう。
しかし、それに目処がついたとすれば、ローラレイの道はまだ二本ともに残されている。
その先には家族と仲間という、彼女にとってどちらも大事な物があって、どちらかひとつしか選べない。
だが、それを決めるのは彼女自身であり、それに異を唱える事が出来るものも居ない。
「施術終了」の一報が届くのはそれから5日後の事だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔方陣は完成した。
あとは設計図通りに入れ墨にして母に刻印するだけだ。
やはり私がお腹にいる時に結ばれた魔力回路だけに、漏れ出てるのは母のおヘソの辺りからだった。
そこを中心に
私が机にかじりついている間も、母は私のそばを離れることはなかった。
それは魔力を供給するためではなく、私のこれから決断するであろう答えを知っての事だろうと私は思っていた。
「ローラは今楽しい?」
頭を撫でながら
「はい、お母様」
【今】というのが旅をしている事なのか、両親と触れ合えている事なのか、魔方陣を作っている事なのか分からなかったが。
どれも楽しく思えたから、返事には困らなかった。
「そう」
微笑んでそう返す母にはどう伝わったか分からないが、どれが伝わっても彼女は笑顔を浮かべただろう。
魔力回路で繋がっているからなのか、これが【本当の親子】だからなのか、ただお互いに心が通じている事を理解していた。
それは触れ合うほど近くだからそう感じるのだろうか?
もし私が旅に出て、ここより遠く離れた場所に行ってしまうと、分からなくなる気持ちなんだろうか?
それを今知る
まだこの手を離してしまうと、この儚い命はまた自分を削って生き長らえるしかなくなるのだから。
だから今はそれを問う事はできない。
「離れていても、ずっと貴女の事を想っているわ」
唐突に答えを投げ掛けられ、私は涙を押さえることが出来なかった。
この母の
それを止めるのもまたこの人からの愛情なんだと私は理解している。
私のために流した
◇◆◇ご挨拶◇◆◇
二章までお読みいただきありがとうございます。
魔王を倒すと息巻いている割に、殆ど戦わなかった彼らも、次章よりようやくレベルアップに取りかかるようです。
ここで、もし良ければ「作者フォロー」してみませんか?
作風が固まりつつあるので、今作に関わらず同じテイストの作品を毎日更新できるのではないかと考えております。
良ければご一考ください。
読者の方々と、近くて長い付き合いが出来ればと思っています☆
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