貧乳とビンタ

 脱兎だっとの穴蔵に潜伏せんぷくしてから一週間。

 俺はマジックアイテムの店からホクホク顔で出てきた。


 当初スクロールを作ってくると言った俺たちに対して店主は信用をしていなかったようで。

 実際の品物を見ると、俺への態度を一変させた。


 スクロールは実際、ちゃんとした魔法使いが責任を持って製作するものだ。

 例えば一文字間違っていたり、魔力量の計算を間違っていたりすると、大惨事になりかねない。

 特に商品化してしまえば素人でも扱えるから尚更だろう。


 三日前に納品したものを鑑定した結果、問題なく使用できる高品質なものだとお墨付きが出たことで株が上がったわけだ。

 そして50%であった分け前はそのままだが、今度は依頼という形で白紙スクロール代を店が持ってくれる事になったのもありがたい。


 ついでに俺のわがままも聞いて貰うことにした。

「金属細工を生業にしている工房につてがありませんか?」

「どんなものがほしいんだ?」


 俺はあらかじめ用意していた設計図を店主に見せた。


 熱に強い金属製であることが条件。

 ハンドガンのような形だが、機構はすごく単純なもので、人差し指で引き金を引くと、親指に当たる部分の金属窓が開く。

 その部分からスクロールの魔方陣を触ることで、魔法を発動するという道具だ。


「見たこと無いが上手く行くのか?」

「どうだろう。それにこんなにポンポンスクロールを使えるのは貴族くらいのものだろうしね」

「まぁ店で売っても買い手は付かんだろうな」


 すぐ真似して売れるか考えやがる。

 商魂逞しょうこんたくましいということは、良いことだけども。


「まぁこの程度の細工だったら俺の知ってる細工師でできると思うぜ、向こうで俺の名前を出せば紹介状もいらねぇよ」

 ささっと地図を描いてくれたのでお礼を言って、店を出てきたのが冒頭だ。



 この一週間、手帳には書きたいこともなく、これといってイベントも起きなかったので、自分が戦闘時に使える道具を考えていた。

 それがこの【スクロールシューター】だ。


 もちろん銃の形にする意味はない!

 そこはロマンだ。


 それも何とか形になりそうなのでホクホクなのである。

 実際細工師のところにこの設計図を持っていった際も、どうやら彼のロマン魂に火が付いたらしく話が盛り上がって、他の仕事をほったらかしてでも作ってくれると言ってくれた。


「分る人には分かるんだって」


 と。完成を楽しみにしながら店を出たところで、誰かにぶつかった。

「いったぁ、すいませ……エリアスかよ、何やってんだ?」

「助けて! 見つかっちゃった!」

「馬っ鹿、何やってんだよ」


 俺はエリアスの腕を引いて、人混みを走り出す。


「あれか! 追え!」

 後方から怒声が聞こえるが、完全に無視して走る。

 こういうとき振り向きながら逃げるからスピードが落ちるんだ。


 俺は走りながら商品のスクロールを選別する。

 その一枚を指で触って起動させると地面に投げ捨てた。


 スクロールは無音のまま煙を吐き出しはじめ、数秒の間に5m四方を白い煙に覆ってゆく。


「何だ火事か!」

「ママー」

「ああ、どこにいるの?」

 一瞬で視界を奪われた人たちが慌てはじめ四方に逃げ出すと、もう俺たちどころじゃない。

 煙が消える頃には俺たちは追手を巻いていた。



「馬鹿だなぁ。見つかるなよ」

 俺としてもエリアスがローラレイに身代わりを頼むイベントを起こすまで城に戻られると困るのだ。


「ここのところ警備が増えてしまってな、どこの道にもウチの兵隊が彷徨うろついているのだ」


 確かそんなことをプリンも言っていた。

 女性一人で出歩いていると、職務質問をされると。

 明らかにシルエットが違うと思うが、念のためということだろうか。


「結局お前はこんな街まで降りてきて何がしたいんだよ」

 今度は俺がため息を落とす番だ。

 彼女にはもう少し静かにしていてほしい。

 だが、エリアスはその眼差しでキッと強く見つめ返して来た。


「それはお主に教える義理はないのだ」

「へいへい」


 何かしら理由はあるってことね。

 脱兎の穴蔵にいる間のエリアスの事はストーリーに書いてなかったので、好きにしてくださいよ。


「ではな、我は用事があるのでまたな、先ほどは助かったぞ!」

 飛び出そうとするエリアスを俺は引き留める。

 彼女の視線には入っていないが、明らかにこの国の紋章の入った制服を来た男が歩いている道へ飛び出そうとしたからだ。


「まてまて、せめてアレをやり過ごしてからだ!」

「うぬう、焦って見逃すところじゃった」

「その調子だと今日中に捕まっちまうぜ……」


 呆れて顔を覗き込むと、腕の中にエリアスが居た。

「それは困るのじゃ、まだやることが……」


 俺は忘れていた。

 エリアスはローラレイと瓜二つなのだということを。

 その俺の性癖そのものが今まさに腕の中にいるのだ。

 しかも、免疫がないのか気にならないのか、もがいたりしせず抱かれるがままになっている。


「どうした、鼻の下が延びておるぞ、くしゃみか?」

「ふぁっ、い、いいや。何でもない」


 この近さでは、表情の変化まではつくろえない。

 仕方なくエリアスを解放した。


「いいか、俺は予言者だ。君が探しているものを教えてくれたら、力になれるかもしれないんだ」

「予言者とな? うさんくさいのう」

「お前はアドルフか」


 俺は天を仰ぐと、目線をエリアスに戻す。

「貴女はイスタンボルト王の5番目の王女、エリアス・イスタンボルトその人だな」

「ぬわ、なぜわかっ……人違いなのだ!」

「いやバレバレだ。俺には何でも分かるのだ、ぬはは」


 作者だからな。


「それなら我に聞かぬとも、理由を言い当てればよかろうが」

「ぐっ!」

 それはもっともな意見なんだが……


「運命は見えても、思考までは見えなんだぁ」

「うさんくさいのう」

「他は何でも知っとるぞ、5歳までおもらしをしていたことも、身長162cm、バスト95cm、ウエスト5……」


「うわわ、待つのだ待つのだ! 何を人前で言っておる!」

「信じて貰えたかな?」


「でたらめじゃ、我のバストはそんなに大きくな……何を言わすんじゃぁ!」

 見えない早さのビンタが飛んで俺の顔は180度後ろを向きそうになった。危険だ!


 顔をもとの位置に戻すと、改めてその胸を見る。

 あれ、双子の設定のハズなんだけど、こちらはずいぶんつつましやかな……


「どこをまじまじ見とるのかっ!」


 今度は反対方向に180度首が回った。危険だ!

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