共感と白い粉
ここでお財布事情を少し話しておこう。
セカンドの町ではほとんどすかんぴんだった我らパーティは、商隊の護衛というお仕事をこなしたわけだが。
これが一人250Gだった。
4人で5日なので5000G程の資金が手元にあったわけだが……。
プリンの鎧に4000Gを使い、白紙のスクロールに1000Gで殆ど無一文になった。
しかし運良く……というかうまく話の本筋に乗せたお陰で、宿泊費は免除となったわけだ。
ゴクゴクと新しいコップで水を飲み干したプリンは、溜め息と共に体を椅子に預けた。
「そういえばどんな仕事をしてきたのか、でしたね」
天井を
「ギルドに行って、体力仕事をお願いしたんですけど、石切場の荷降ろしというものしか無かったんです」
聞くだけで過酷そうな職場だな。
同じ女性であるローラレイも驚きの声をあげてしまう。
「男性でも大変なお仕事なのでは?」
「ええ、フミアキならものの五分でぺっちゃんこになること受け合いだわ」
「俺にはあまり向かなさそうだ」
「まぁ半分トレーニングだと思って行ってみたんだけどね。考えてみれば修行もトレーニングも止めたい時に止めれるけど、仕事ってそうは行かないでしょ? 思いがけず限界を越えちゃったわ……」
良く見ると、鎧を脱いだ肌着は汗でびっしょりと濡れていて、体のラインがはっきり浮き出ているじゃないか。
「うん、良い体だ。筋肉的に」
「なにか言った?」
「そうだ、そういうことだろうと思って、プリンに飲み物を買ってきてたんだよ」
「ムリよ、キツすぎて何も喉を通らないわ」
「そうか? これなんだが……」
俺はマジックショップで購入した、瓶に入った白い粉を取り出した。
それをチラッと確認したプリンは、無反動でガバッと起き上がると、そのまま俺の手から白い粉をひったくった。
「な……なによ、フミアキにしては気が利くじゃない?」
プリンはお礼も早々、さっきのコップに粉を入れると、水で溶かして飲み干した。
「ゴクッゴクッ……くぅうっ! これよこれ! 体が求めてるのはこれよぉ!」
両手を大きく開き、天井を仰いだまま
「良かった気に入ってくれて。その粉ってさ、純度の高いものがなかなか無いらしくて、今回特別に譲って貰ったんだよ」
「ええ、私最近切らしてたから、どうにかなりそうだったわ! 生き返るぅ~」
よだれが出そうな程
「なんだよみんな、ここに集まってるのかよ」
突然ドアを開けて入ってきたのはアドルフだ。
こいつはいつも部屋のドアを確認もせずに開けやがる。
だがその主人公が見たのはスケベではなく。
目がイッちゃってるプリン。
そしてその手には白い粉の入った瓶。
「おい、説明しろ」
何を勘違いしたのか、俺の胸ぐらを掴んで抱えあげた。
片手なのになんていう力だ。
「うぐっ、苦し……喋れね……」
もちろん会話などできるはずがない。
その状況を見て慌てたローラレイちゃんが止めに入る。
「マジックショップで特別に譲って貰った粉なの。最近プリンちゃんが切らしててイライラしてたから……それにすごい喜んでるじゃない」
「……筋肉は……裏切らない」
プリンのうわ言も、ローラレイの弁明も完全に逆効果だ。俺の首はさらに絞まる。
俺は必死で瓶の入っていた袋を指差す。
「仲間を薬漬けにしてるやつが、往生際が悪い……」
その袋に目をやるアドルフ。
「プロテイン、用法用量を守ってお飲みください」
首が楽になった俺は咳き込みながらアドルフの頭をチョップする。
アドルフも勘違いだと理解したのだろう。普通に謝ってきた。
「すまん」
「俺が仲間に変なもの飲ませるわけ無いだろうが」
「それは判らんが今回は勘違いだった」
「お前こそもっと仲間を信用しろよ……」
まぁ、プリンのこのやばそうな雰囲気を見れば、ちょっと勘違いしてしまうのも仕方ないかもしれないが。
「仲間も筋肉もウラギラナイ」
「いや、プリンもそろそろ正気に戻れ!」
「……はっ、私は何を!?」
「やっぱヤバイ薬を混ぜたプロテインだろそれ」
「混ぜてねぇ、ヤバイのはプリンの脳みそだ!」
「ええっ、いきなりの
もう一度掴みかかろうとしたアドルフに、今度はプリンまでもが加わって俺は振り回される。
もうね、こんな筋肉お化けに普通の人間が敵うわけがないんですよ。
「ええっと。ブリザード?」
「疑問系で魔法!?」
誰が叫んだかは判らないが、部屋の中が急激に冷えてゆく。
「頭を冷やしましょう? あと、私お腹減ったのでご飯を食べたいのですが」
ローラレイのお腹がくぅーっと鳴って、えへへっと照れ笑いする。
寒いけど可愛い!
というわけで外に出れないローラレイのために、彼女が好きそうなものを3人で仲良く買いに行きましたとさ。
スクロールの仕事場になっていた女子部屋を出て、アドルフと部屋に戻ったのは、かなり遅い時間になっていた。
テント等の旅の道具はこのむさ苦しい部屋に全て詰め込んである。
「早く寝ろよなフミアキ」
早速布団に潜り込むアドルフ。
背中を向けて毛布を頭から被った。
「お前は何も聞かないんだな」
俺の言葉に毛布がピクリと動いた気がするが、それに返答はない。
俺は続けて言葉を紡ぐ。
「ローラとエリアスの関係だってお前はとっくに気づいてるんだろ?」
「……」
暫く沈黙が続いたが、ようやくアドルフが返事をしてきた。
「お前はローラの事をどう思ってるんだ」
まるで学生の修学旅行の話題だが。
語気が強すぎて、そんなほほえましいものではない。
「お前と同じだよ。家族のような存在として想ってる」
「同じにすんなよ」
それは俺を否定したのか、家族のように想う気持ちを否定したのかは判らなかったが。
彼の
「でも、お前がローラを大切にしてくれてるのは感謝してる、俺にはしてあげれねぇ事もあるからな」
「アドルフ……」
「俺に詳細を伝えないのも、ローラが望んでないからなんだろ?」
彼が一番大切にしている人に、一番に頼られたいという気持ちを圧し殺していることくらい俺には判る。
同じ男であり、同じ女の子を好きでいる俺だから判る。
「ローラはまだ自分の過去を受け入れるかどうか悩んでいるんだよ」
「おっと、言いすぎるなよ? 感付いちまうぜ」
「ばか野郎、ほとんど判ってるくせに」
「……どうだろうな」
その言葉を最後に会話は途切れた。
だが彼は俺の、俺は彼の思うところを共有したような気がする。
アドルフのためにも、ローラレイを泣かせるようなことはしない。
俺は人知れず、固く心に誓いを立てた。
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