魔法と過去
ここで少し話は変わるが。
この世界の魔法理論について、俺が知っている事とローラレイから聞いたこととを総合して記載しておく。
まぁ俺的にも
この世界の魔法は素質に依存するところが多い。
ローラレイが暴走させるほどの魔力をもって生まれたのも、アドルフやプリンが魔法を使えないのもそこが原因だ。
なので魔法使いはそれだけで立派なステータスでもある。
ただし、特殊な方法を使えば一般人にも魔法を使う事ができる。
それが罠の呪文で使った【魔方陣】。
そして【スクロール】だ。
魔方陣は、魔力を
例えばだが、電池部分に魔力600を注ぐ場合。
ローラレイならば一瞬だが、一秒間に60魔力を生成できる人間であれば10秒間充電に時間がかかり。一秒間に1しか魔力を発生できない場合は10分間かかるといったものだ。
平均的に通常の魔法使いであれば100~400程度の魔力を毎秒生産できるのだが。
ローラレイはそれを遥かに上回るため、魔方陣でもほぼ一瞬で起動準備にできるというわけだ。
逆に、戦闘中の十秒が、どれだけ危険なものかは言うまでもないし、学のあるものなら見ただけでどういう性質の物か判ってしまうため戦いには向かないのが現状だ。
さて、もう一つは【スクロール】だ。
魔方陣を地面にではなく紙や木の板に書き込んで置いて、それを利用するという道具だ。
ただしこの道具は携帯に不向きである。
充電した魔方陣に触れてしまうと勝手に発動してしまうため、初期はポケットでファイヤーボールを発動させたり、拾おうとして罠の魔法で倒れたりと事件が絶えなかったそうだ。
最近ではマジックショップで専門の道具が売っているらしく、暴発防止、向きの調整ができるようになったとか。
ただし、かなりお高いのが玉に
さて。説明ばかりで飽きてきたところで、俺はマジックショップに来ていた。
「オーナー、この白紙のスクロールをあるだけ譲ってくれ」
珍しい注文に口が半開きになったオーナーは、
「良いけどよ、結構高くつくぜ?」
「いっこうに構わん!」
強気な俺に、商売の匂いを感じたのだろうか。
マジックショップオーナーはそれ以上は何も
「ありがとう……それと完成したスクロールの一部を買い取って貰えたりするかな?」
「そう来ると思ったよ」
やはり商売人だ、ニヤリと笑いながら一緒に差し出してきたのは。
「この店での完成品スクロールの売値表だ、これの30%で買い取るよ」
「ぼったくりすぎだろう、70%だ」
「バカ言え、白紙スクロールなら応用が効くが、書き込まれたものは客の用途が合わないと棚の肥やしだ! 40!」
オーナーはその指を3から4に増やした。
それでも俺は納得できない。
「逆に、売れ筋を作ってきてやると言ったらどうだ、60!」
スクロールにも売れ筋がある。
簡単に発動出来て、用途が多いもの。
例えばだが、発動すると大きな音が暫く鳴り響く、貴族の護身用の防犯ブザー的な扱いのスクロールは電池になる魔力が低いため、比較的安価に取り扱っている。
寒い地方で遭難した際に使う焚き火のスクロールであれば、電池の量で維持される時間が長くなるので、これも鞄に一つ入れておくとお守り代わりになるという寸法だ。
「うぐぐ。参った。じゃぁ50で手を打とうじゃないか」
熟考の末、ついにオーナーが折れたので、何をいくつ納品するかを決めて、俺はホクホク顔で宿屋【
もちろん今度は表から堂々とだ。
「お帰りなさいませ」
入り口を入るとすぐに受付があり、そこにはベストに胸のリボンをつけた受付嬢が立っていて。
俺の姿を見ると手をへその辺りで重ねて、頭をペコリと下げた。
「ただいま戻りました」
俺もついそれに釣られて頭を下げてしまう。
ロバートさんの社員教育の
それに、冒険者の宿というからには、一階はワンフロアで酒と食事を提供し、他の荒くれ者が騒いでいるイメージだったが。
ここはなんというか、ビジネスホテルのような雰囲気で。カウンターの横には待合室の様な革張りソファーがいくつか並べてあるだけだった。
俺はそれを横目に、買ってきたスクロールを持ったまま階段を上がる。
3階の一番最初の部屋のドアを、爪先でノックする。
「はーい、開けますね」
中に居るローラレイの明るい声がして、すぐにドアが開けられた。
「まぁこんなに沢山!」
弾む声に
「マジックショップのオーナーが、古いものや破れているもので商品になりにくいものも一緒に譲ってくれたんだ」
「まぁ、それは素晴らしい交渉術ですね」
満面の笑みで誉めてくれるので。
俺は完全に有頂天だ。
しかしいま思えば、商品の白紙スクロールは購入している訳だから、原材料はこっち持ちという形だ。
50%は相手にとっても悪くない数字だったんじゃないだろうか?
くそう、相手の方が一枚上手だったか。
とはいえ、資金面では大分楽になるはずだ。
ローラレイの魔力は膨大だから、魔力の注入にはさほど時間はかからないだろうし。
「じゃぁ早速取りかかりますか!」
俺はローラレイの横に机を並べて、白紙のスクロールを何枚か重ねる。
「じゃぁ、この魔方陣を書いてくださいね」
そうやって渡された魔方陣を見ながら、同じように書き写して行く。
「これ、難しいな」
「あ、そこ字が小さすぎます、そのままだと一周回らないから、切れ目から魔力抜けていっちゃいますよ?」
「えっ、そんな感じなの?」
「あ、その字違います。それだと魔力100倍ぐらい溜まっちゃうので、発動すると民家ぐらいなら一瞬で灰になっちゃいますよ」
「怖っ! 停電時用のランプの魔法で家焼いてどうするんだよ」
これがなかなか難しい。
手取り足取り教わりながら、少しづつ覚えていかなきゃならないようだ。
何事も一朝一夕にはいかないんだな。
ある程度基本が判ってくると、指摘されることも減って無言の時間が増えてきた。
これはこれで少し気まずい。
無言って少し苦手なんだよな。
「この魔方陣は、アドルフの母さんから教わったの?」
俺は書く手を止めることなく、聞いてみた。
「うん、直接魔法を使うのが苦手なら、まずはこれを覚えなさいって言われて」
ローラレイは少し目を細めて、懐かしむようにそう答える。
確かに、魔力の制御が効かなくても、必要量だけ充電すれば使える魔方陣は、彼女にとって有利なんだろう。
「私の特性を一目で見抜いてくれて、自信の無かった私に自信をくれたの」
ローラレイは静かに立ち上がると、ベッドサイドに置いてあった水差しから、コップに水を移すと一口飲んだ。
俺はアドルフの母親の事をちゃんと書いていない。
ローラレイが今のローラレイたり得る基礎を作った人物の事を俺も知りたいと思ったのだ。
「自分から学びたいと思うように、いつも私の気持ちを気にしてくれて、タイミングよく新しいことを提案してくれる人だった」
もう一つのコップにも水をいれて、ローラレイは戻ってきた。
「ありがとう」
コップを受けとると俺も一口流し込む。
魔方陣作りに集中しすぎて、喉がからからだったことに、今さら気づく。
「師匠が亡くなっても、私のやることは変わらない。あの人の残した大切なアドルフの手助けをするために、私は一生を費やしても良い」
その言葉にチクりと胸が痛む。
ローラレイの目に映っているのは、アドルフただ一人。
彼のために生きて、彼のために死ぬ。
恋ではない、もはや愛に近い感情。
俺がいかに彼女を素敵だと思っても、入り込めないということでもあり。
アドルフ本人にとっても、彼女と母親の繋がりを越えることが出来ないということだ。
そんな不思議な関係を作り出してしまったのも。
俺が不十分に彼女を作り上げてしまったからかもしれない。
そして、その
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