傘
綴。
第1話 傘
あたしは傘。
コンビニで安く手に入る傘。
急に雨が降ってきて、彼が私の事を選んで買ってくれたの。
もう何年も前の雨の日だったな。
そして、あたしは少しずつ錆びてきてしまったの。
傘の骨が、濡れた雨のせいで錆びてきて、ビニールの所が茶色になってしまったの。
「錆びとるやん、その傘!」
「何の問題もない!」
彼は、雨の日はあたしを連れて行ってくれる。
そして、台風の日も。
でも、あたしは弱くて骨の所が少し曲がってしまったの。
「曲がっとるやん、その傘!」
「何の問題もない!」
彼は、雨の日はやっぱりあたしを連れていってくれる。
また台風がきてしまった日。
あたしは耐えきれなくて、傘の骨にくっついてる所が剥がれてしまったの。
それも2箇所も。
「二ヶ所もはずれとるやん、その傘!」
「まあ、少し濡れるだけだ、問題ない!」
やっぱり彼は、雨の日はあたしを連れていってくれる。
しばらくは雨が降らなくて、久しぶりに雨が降ったの。
彼はあたしを連れて外に出たの。
「あれ、開きにくいな」
「だから壊れとるやん、その傘!」
「あぁ、開いた開いた、問題ない!」
でも、あたしは無理やりに広げられて、穴が開いてしまったの。
「2個も穴が開いとるやん、その傘!」
「ちょっと濡れるだけだ、問題ない!」
そして、彼の仕事場で傘立ての中で待ってたの。
「誰だ!ここにゴミを置いた奴!」
「あ、それ僕の傘です!」
「どう見てもゴミだろこれ!」
「いや、ちゃんとした傘です!」
そして、雨の中をあたしをさして歩いてくれるの。
「アハハ、ホントにあの傘さしてる!」
会社の人が笑っていた。
でも、あたしは精一杯、彼が濡れないように頑張るの。
雨の日に咲いた桜の花を見るときも、彼はあたしを連れていくの。
美しい桜の花を見つけると、あたしの破れた穴から花を覗くの。
「うーん、いいねぇ。穴から覗くとまた別の美しさがあるなぁ」
すれ違う人が笑うの。
「あの人の傘、壊れてるね!」
って。
すると、彼は大きな声で笑って言うの。
「ちゃんとした傘ですよ!ちょっと雨に濡れるくらいで、あと十年は使えますよ!」
十年後のあたしはどんな風になっているかはわからないけど。
あたしは彼が濡れないように、頑張るの。
こんなあたしの事を
『ちゃんとした傘です!』って言ってくるから。
―― 了 ――
一話完結です。
傘 綴。 @HOO-MII
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