断片的有機記憶情報


 麻酔面談記録により、被験者から、断片的にではあるが、暗号化された有機情報を聞き出すことに成功した。


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 何も恐れる必要はない。我々は立ち会ったのだ。我々がより偉大な存在へと登るその瞬間に。そのうえで、後を去るものがいるのなら、好きにさせたらいい。我々の専心は、もっと別の場所に向けられるべきだ。それが徒労であってはならない。私がきみであり、きみが私であるということ。私が私であるというこの孤独から、この不幸の宿命から、我々は竟に救い出される。いや、救い出されるのではない、我々自らが克服するのだ。この孤独から。死からさえも。



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 相互的精神感応の実現を支えているのはインターフェースの技術だけではありません。「と、言うと?」。私たちが五人を接続することに成功したときに、私たちは人間の能力が多項式的にすら拡張されないという事実に当面したんです。これはちょうど、複数のCPUを構成に持つコンピュータの例に似ています。単に脳を並列に繋げるだけではあまり大きな効果は見込めなかったわけです。「それでは、あなた方はどうしたのですか?」。Peer to Peer の分散コンピューティングのモデルをヒントに、相互的精神感応用の新しいプロトコルを設計しました。効果はありましたが、サムヤの技術者の掲げた神如き人間なんていう誇大な思い上がりも、やはり歴史に凡庸な、極めて人間的な思い上がりのひとつでしかなかったということを、私は思い知りました。「我々が思うほど、サムヤは脅威ではないと?」。さあ、どうでしょうか。でも、人間は所詮は人間ですよ。



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 サムヤの設計したプロトコルには意図的に混入されたバグがあります。極めて限定的な状況下でしか再現しないバグで、巧妙に隠されておりますが、致命的です。我々の唯一の希望です。



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 あそこの人たちはもう救うことができないよ。仕方がないじゃないか。彼らが選んだことだ。孤独を代償に、仮初の不死を得たんだ。最早彼らの心情を汲み取る術は無いんだ。無意味なことさ。大きな空っぽだ。

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