第12話 はじめての飲食店(2)


 動画を公開する1日前のこと。

 ようやく調べ終えた私は、いつも通り下見に向かう事にした。

 まぁ、今回は3人で行くので下見はほぼ必要無いのだけど。


「それでは行ってきますね!」

「はーい気をつけてねー!」


 ということで私は手を振りながら、外に出た。

 季節的には冬で、風も少し冷たく感じる。

 私達が来た時は、まだそこまで寒くはなかった。


「うーむ……あっちに帰る手段も無いですし……どうしましょう……」


 そんなことを考えていると、信号にひっかかる。

 前には1人女の子が立っていた。

 身長的には私と同じくらいだろうか。

 女同士なので、別に距離を開ける必要は無い。

 何やらソワソワしているようで、青になった瞬間歩いていった。


「! 危ないです!」

「え? キャッ!」


 私が慌てて手を掴み引き戻す。

 その瞬間女の人が、今まで歩いていた所を、ちょうど車が猛烈な速度で走っていった。


「ありがとうございます……助かりました」


 その女の人は、頭を下げてくる。


「いえいえ、こういう仕事してますから。周りの気配りは慣れています。なので感謝なんて必要ありません。私が助けたいから、助けただけですからね」

「かっこいい……」


 女の人は目を輝かせながら、私の顔を見てきた。


「ありがとうございます。それでは私は用事があるので失礼します」

「はい!ありがとうございました!またいつか!」


 その女の子は右手を左右に振っていたので、私も右手を振る。

 これがさようならの挨拶らしい。


「またいつか、会えたらいいですね」


 そうして私はその女性とお別れしたのだった。



 そして今。

 夜亜きらりの配信にて。


「……って言うことがあったんだー!! 凄いかっこいいよねー!! 私好き!!」


:完全に堕ちてて草


:その助けた人イケメンすぎやろ!


:助けた人がVライバー世界1位の夜亜きらりって知ったら……


:↑KOTORIMの中での世界1位な?


:カッコかわいい系かぁ……


:そういえば、最近デビューした新人もそんな感じだったな1人


:あ~あの使用人か……Vではなかったけどな


「ちょっと~? 他ライバーの名前だすのはマナー違反だよ~? だけど気になる!!」


:気になるんかよwww


:今ちょうど配信……生配信してるやんけ!!


:マッ!? だけど俺はここを見る!


「うーむ、どうせならみんなで見に行こうか! 早く教えて頂戴!」


:ノリノリで草


:まぁ、いいかな【スラム国】ってグループ名なんだけど


「【スラム国】っと……あったわ。これね」


『えー皆様ごきげんよう。』


「ぎゃわああああ!! この人だわあああ!!」


:なんだなんだ!!?


:耳いてぇええ!


:反応が猛列なファンで草


:キャラ崩壊しまくっているのですがそれは……


 というわけでキャラが完全崩壊した夜亜きらりだった。



 一方そんなことになっているとは、何も知らない私は、普通に自分の流している動画を視聴者さんと見ている。

 ちょうど、店に入って注文をしている場面。

 カウンターと呼ばれる席らしく、調理する場面を、見られるらしい。

 おすしとは……ここまでのサービスを受けられるとは……


「これいただけるかしら?」

「では私はこれを……」


 2人は前を向いているが、お店の人は良くわかっていないらしい。

 まぁ、当たり前だろう。

 前を向いてただ、これが欲しい、といわれてわかる人はどれだけいるのだろうか?

 一応、メニューは事前に調べたので名前はわかる。


「すみません、ディア王女にはマグロを、スメラ嬢にはサーモンをお願いできますか?私もマグロでお願いします」

「あいよ!」


 私が代わりに注文した。

 すると前に立っている人が料理を始める。

 どうやら魚をさばいているようだ。

 私も魚を捌く経験はあったが、ここまで上手には出来ない自信がある。


チャット


:マグロ!いいねぇ!


:サーモンも格別だぞ!


:ウニもいいんだけどなあ……


:分かるウニも最高


:なんでもうまいだろう!


:確かに!


【夜亜きらり✔】:今日知った! ここのお寿司私も好き! 今度一緒に行こうね!


:!!!???


:は????


:きらりーー!!!


:バケモン来てて草


:猛烈にやってきて、お誘いして帰っていくの台風やんけwww


:てかきらりも配信してるやん


【猫鎌ヒカリ✔】:きらりじゃーん。だが甘かったな! 私は最初の動画から見ているのだ!


:!!!!!?????


:一人語彙力飛んでて草


:カラミア学園出身Vライバー2人来てて草


:しかもヒカリは初期からかよwww


 私は何が何だか分からないが、何やら2人がやばいということだけ分かった。とりあえず調べることにしよう……


チャット


スラム国:使用人フィナリアで、す。お2人、のチャンネル、調べても、いいですか?



【夜亜きらり✔】:全然いいよー!


【猫鎌ヒカリ✔】:いいにゃーん!



 私は2人のチャンネルを軽く開いた。

 するとそこには……


「と……登録者1500万人超……夜亜きらりさん……登録者1200万人超……猫鎌ヒカリさん……」


 あきらか別次元だと思う。

 私たちですら、まだ100人も登録者がいないのだ。


チャット


スラム国:す、すごいです!!


:これは本心だろうな


:てか動画の王女も美味しそうに食べてるなあ



 その動画は、2人の衝撃で、あまり見れなかったが、結果的には、ディア王女がマグロ10貫、スメラ嬢がサーモン12貫、私はマグロとサーモンを5貫ずつ食べたのだった。

 このお寿司という食べ物は私たちにとって最高のひと時をくれたに違いない。

 そう思う。

 そのくらい美味しくて、ディア王女は発狂、スメラ嬢は無言、私は目を丸くするという反応になった。



「めちゃくちゃ美味しかったわ!皆今すぐにでも食べに来なさい!この私が保証するわ!」


 ディア王女が胸に手を当てて話している。


「ごちそうさまでした」

「ディア王女様普段褒めないのに珍しいですね」

 

 そう、ディア王女は前からそうなのだが、褒めることがないというレベルで褒めないのだ。


「だっておいしかったのよ!」

「そうですか、それは良かったですね。それではこの動画はこれで終わらせていただきます。私たちの反応が良ければ、ぜひとも登録、高評価よろしくお願いします」


 ここで動画が終わった。


 最後にはもうコメントが見えないくらいの速度で、コメントが流れていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る