第10話 次の動画について


 私は、先日の動画に引き続き、新しい動画のネタを考えている。

 まぁ、考えているというよりも、みさきさんの携帯を借りて、調べているだけなのだが。


「どう?次の動画決まりそう?」


 みさきさんが携帯をのぞき込んでくる。


「いえ……なかなか素材を見つけるのって大変なんですね、みさきさん」


 私は画面を手で動かしながら呟く。

 全然いい動画の素材? が思いつかないのだ。


「そうだねぇ……そこは見つけていくしかないかなぁ。自分達のチャンネルだからね」


 前回の自己紹介動画は簡単な編集とはいえ、みさきさんにすべてを任せていた。

 なので、今回は私が頑張らないといけない。


「分かりました。探します」


 私は引き続き、調べる。

 この世界に来てまだ間もないため、何にしても新鮮なので、悩んでしまう。


「……これは! これです!」


 私が見つけたのは、個人経営の飲食店だった。

 この世界の飲食店を回るのも全然いいと思うのだ。

 私は早速、みさきさんに見せに行く。


「良いんじゃない? なんかテレビ番組みたいだけどね」


 てれびばんぐみ? 


「テレビ番組って何ですか?」


 何にしても知らないことばっかりなので、理解に困ってしまう。


「まぁ、動画投稿者と似たような感じ? だけど、主に事件とか天気予報とかを教えてくれる場所? と言えばいいのかな。あとは子供とかも見るから規制が多いくらい。というか私の家にもあるよ。そこに」


 みさきさんが部屋の奥を指さす。

 しかし、そこには大きな窓、そして下には四角い道具? しかない。

 つまり、あの四角い道具がテレビ番組というものなのだろう。


「なるほど……」


 私はとりあえず理解できないことを納得した。

 つまりよくわからない。


「事前に連絡しといた方が良いかも、私が撮影OKかどうか聞いとくね」

「はい、よろしくお願いします」


 みさきさんに携帯を返すと、みさきさんはそのまま自分の部屋に戻っていく。

 さて、これで行き先は決まった。

 後は、みさきさんの返事待ちとなる。

 一応2人にも伝えておこうと思う。


ガチャ……


「ディア王女様、スメラ嬢様」

「「きゃあああ!!」」


 私が無言でドアを開けると、裸になっていた2人が顔を赤らめて服で前を隠す。

 いったいこれはどういう状況なのか。


「……ディア王女様……スメラ嬢様……何をしているのですか……?」


 理解が追い付かない。

 どうしてお互い裸になってディア王女はスメラ嬢の上に馬乗りになっているのだろうか?

 ズボンははいているのでそこは安心するのだが。


「何々!? 大丈夫!?」


 後ろからみさきさんも走ってきた。

 まぁ、2人の事なので、恐らくは何か張り合ってはいたのだろう。


「そうよ!聞きなさい!フィナリア!このスメラ嬢が私よりも胸が大きいって言いだしたのですのよ!?見なさい!」


 ディア王女が馬乗りになったまま振り返り、私に向かって両手を広げる。


「それはあんたが胸大きくなったかなーとか言ったからでしょう! 現実を言っただけ! 私まで裸にされる筋合いなんてないわよ!」


 スメラ嬢はディア王女に馬乗りにされたまま叫んでいる。

 とりあえずここが異世界でよかったと思う。

 お城ならば王女を裸にしたということで、スメラ嬢が処刑されていたところだ。


「ディア王女様、そこまでしなくても分かりますから大丈夫ですよ。それよりも新しい動画の場所決まりました。あ、スメラ嬢も大きいです」


 私の何気ない言葉にスメラ嬢の顔が赤く染まった。


「動画の場所決まったなら、それを早く言いなさい! フィナリア!」


 ディア王女はスメラ嬢の上から離れる。


「すみませんディア王女様」


 とりあえず2人には服を着てもらい、下の食堂に集まるように言った。

 しばらくして2人が降りてくる。


「来ましたね、2人共前の椅子に座ってください」


 私は2人を対面の椅子に座らせた。


「良い物が出来たんでしょうね! フィナリア!」


 ディア王女がワクワクした様子で座る。


「分かりました」


 スメラ嬢も席に着いたことを確認する。


「とりあえず次の動画のタイトルは【はじめての飲食店】に決めようと思います」


 私は2人の顔を交互に見る。

 しかし、2人はよくわかっていないようで首をかしげた。


「いんしょ? なんですの?」


 ディア王女はわかっていないらしい。

 まぁ、ずっと城の中で暮らしていたのだ。

 飲食店という言葉すら聞いたことないだろう。


「はい、飲食店とは、食べたり飲んだりする場所の事です」


 ディア王女でもわかりやすいように説明した。


「なるほど良いわね! 飲食店食べてみたいわ!」


 飲食店食べる?? ディア王女は店ごと食べるつもりなのだろうか?


「私も賛成だけど、飲食店で食べてみたいでしょ。それだと店ごと食べてるし」


 私の考えを代わりにスメラ嬢が話してくれた。

 ありがたい。


 まぁどうやら、ディア王女とスメラ嬢もこの世界の食事には興味あるようだ。

 もちろん私も興味ある。


「なので今回の主役は私達3人です」


 私は3本、指を立てる。


「でもいったい誰が動画撮るのよ」


 スメラ嬢から質問が来るが、この質問はすでに想定済みである。


「はい、この三脚? というものを動画用にみさきさんが買ってくれました。ここにカメラを取り付けることができるようです。なので、三脚に取り付けて撮影しようという風に考えています」


 私は、机の横に立てかけていた実物を見せながら説明する。


「この世界にはいろいろなものが売っているのね! 私の国にも欲しいわ!」


 ディア王女が初めてまともな国のことを言っている。

 いや、初めてではないか。


「ぜったいろくな使い方しないでしょ」

「なんですって!? スメラ! 王女の使い方をバカにする気!?」


 スメラ嬢が小言で呟き、ディア王女が応戦する。

 もはや恒例の流れである。


「だから正直に言っただけだってば」


 スメラ嬢がめんどくさそうに話している。


「正直に言わなくていいわよ!」


 この世界に来てから、笑いの動画も見たりしている。

 そのせいなのか、若干喧嘩にお笑い感が出始めているのは気のせいだろうか? 

 そういえばみさきさんに肝心なことを聞いていない。


「みさきさん、そういえばその飲食店から許可は出たのですか?」

「それが……」


 私の隣に座っているみさきさんに声をかける。

みさきさんは一瞬暗い顔をした。

 これは……大体ダメだったときにする表情だ。


「ぜんぜんOK だそうでーーす!」


 急に笑顔になったので一瞬焦る。

 やられた、見事に引っかかってしまった。


「やったわね! フィナリア!」


 ディア王女もどうやら騙されてしまったらしい。

 一旦悲しそうな表情をしたが、急に笑顔になった。


「ところで、いつなの? 明日じゃないでしょ?」


 スメラ嬢がみさきさんの方を向く。


「うん、さすがに明日は無理みたい。明後日あさっての開店前7時半くらいからならばいいよって!」


 私は再びみさきさんからスマホを借り、お店の開店時間と場所を調べる。


「開店は……9時ですね。ばしょはここからそう遠くないみたいです」


 私の言葉にスメラ嬢が頷いた。


「じゃあ7時くらいに家出たらいいんじゃない?」


 スメラ嬢の言うとおり。

 ここから約10分らしい。


「そうですねそうしましょう」


 私は再びスマホをみさきさんに返す。


「楽しみだわ!!」


 ディア王女も、ものすごく楽しみにしているようでよかったと思う。

 ということで、今日と明日はゆっくり休むことに決めた。

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