第9話 動画の反響と感想


 私はひたすら編集作業を行っている。

 編集作業の中で特に大変なのは、周りの風景をモザイクで消す作業だろう。

 みさきさんにやり方は教えてもらったが、本当に大変でかなりの時間がかかってしまっている。


「おつかれ〜はいコーヒー!」


 編集でパソコンに向かい合っている私に、みさきさんがコーヒーの入ったコップを持ってくる。


「ありがとうございます。みさきさん」


 コーヒーと呼ばれる飲み物は、この世界に来て初めて飲んだ。

 その感想はものすごくおいしい。

 特に作業で眠たいときに飲むと、苦みと酸味で、目がすっきりするのだ。


「本当に頑張るねぇ……」


 ちらっと私はみさきさんの方を見る。

 みさきさんは、腕を組みながら目を丸くしている。


「そうですね、ここで頑張らないと行けませんから……」


 王女の使用人として、最低のものは許されない。

 ここにこそ! 私の存在意義があるといっても過言ではない!


「まぁ無理したらだめよー」

「はい」


 みさきさんは、そのまま配信部屋に戻っていった。

 ちなみに配信部屋が、普段みさきさんが使っている部屋なのだという。

 しばらくの時が流れる。


「これで……終わりです!」


 私は、最後保存のボタンをマウスでクリックした。

 これでようやく作業編集が終わり、自由な時間になる。

 時間を見るともう午前5時になっていた。

 作業時間的には、約6時間だ。

 私ながらよく頑張ったと思う。


「フィナリア! 終わった!? 見せなさい!」


ドアを開け、ディア王女が私の膝の上に乗ってきた。

 余程楽しみだったのか、早起きしたらしい。

 ディア王女にしては、かなり珍しいことである。


「はい、少し待ってくださいね。今動画を載せますから」



 私はKOTORIMアプリを開き【投稿】ボタンを押した。

 すると動画の真ん中に、グルグル回るもの、そして下には白色の線ががでてきた。

 みさきによるとこれは今動画を、アプリに読み込んでいる途中だそう。

 下の白い線が全て青色になれば、動画投稿完了らしい。


「そうですね……この調子だと……今日の昼過ぎには見られると思います」


 読み込まれる速度がかなり遅い。


「えー! 今見たいわ! って痛い! ちょっとスメラ! 何するのよ!」


 スメラ嬢がディア王女の右頬をつねったのだ。


「やっぱりここにいた。フィナリアが困ってるわ。さっさとどきなさい!」


 スメラ嬢は、そのままディア王女の頬をつまみながら引っ張って行った。

 仲の改善は、どうやらまだまだかかりそうだと思う。


 さて私も寝ましょうかね……


 本来の使用人立場である私ならば、朝で寝ることは断じて無い。

 しかし、ここにはみさきさんがいるので、ゆっくり休もうと思う。

 

 今日も……頑張り……ました……


「フィナリアさん、フィナリアさん! 起きてください。ご飯が出来ましたよ」

「……?にゃ」


 みさきさんの声が聞こえ、ついつい変な声を出してしまった。

 というか、どれだけ寝たのだろうか。

 私はゆっくり目を開けると、目の前にはみさきの顔が見える。

 外を見るとすっかり夜になっていた。


「ん……今何時でしょうか?」


 恐る恐るみさきさんに質問する。


「えっとね、19時だよ〜」


 私は、一瞬思考停止したかと思えば今度は全力で回転させる。


19時!? 寝たのが朝の6時頃だから!?


 私は慌てて飛び起きる。

 まさか13時間も寝るとは思わなかった。


「フィナリアさん、気持ちよさそうに寝てるから、起こすか迷ったんだよね〜」


 みさきさんが笑顔で私を見ている。

 この世界はなんて素晴らしいのだろうか。

 というか寝すぎると逆になんか……しんどい。


「全然、起こしてくれて構いませんよ」


 私はゆっくり体を起こし、1階に歩いていく。

 既にディア王女とスメラ嬢は、席についてご飯が来るのを待っていた。


「あっ!フィナリア!遅いわよ!」


 ディア王女が体を上下に動かしている。

 前に別の人の動画で見た。

 オウムが嬉しい時にする上下運動みたいだ。


「おはようございます、フィナリア」


 スメラ嬢はいつも通りの挨拶である。


「ディア王女、スメラ嬢おはようございます。すみません、思ってた以上に寝てしまいました」


 私は2人に軽く謝ると、対面するように座る。

 早速、私はパソコンを持ってくる。

 この世界では食べながら見るのはマナー違反だということで、食べる前に見ることにした。

 

「楽しみだわ! 早く始めなさい! フィナリア!」


 ディア王女、すっかり動画配信というか、KOTORIMにはまってしまっている。


「私は別にだけど」


 こんなことを言っているが、スメラ嬢も相当動画を見たりしているので、はまっているのは間違いないだろう。


「それでは行きます」


私はゆっくりと再生ボタンを押した。




『それではまた次回の動画でお会いしましょう』

『良いわね!?私の活躍をこれからもどんどんと見なさい!』

『王女が出てると誰も見たくないと思うけど、一応よろしく』


 約20分ほどの動画が終わった。

 2人は真剣に動画を見ていて何やらボソボソと呟いていた。

 ここからコメント読みの時間が始まる。


ーーコメントーー


:めっちゃおもろいやんけ!スラム国俺好きだわwww


:あれ?前と服違うけど変えた?


:↑前の服装だとスーパーで目立つだろwww


:とりあえず無事帰宅おめでとう! 1つ思ったのは、スメラ嬢? はもっとディア王女? に優しくしてもいいと思う?


:↑あんなわがままの王女がいてたまるか、もっと厳しくしてもいいくらいだぞ。


「ちょっと!何よこの人!わがまま王女ですって!!」


 ディア王女が慌てて返信しようとするため、私は慌てて止める。

 ここで返信してしまうと、恐らく負けてしまう気がするから。


「無視で大丈夫だと思いますよ、ディア王女様」

「ふん!」


 王女は私に止められ不貞腐れた顔をする。


「わがまま王女は間違ってないでしょ」

「なんですって!?」


 


「2人共まだまだ返信来てますから見ますよ」


ーーコメントーー


:この動画見て、自己紹介動画見たけど、2人の癖強いなwww 王女と嬢様ってなんだよwww


:↑国として言ってるならば合ってるんじゃない?なお撮影者が一番まともって言うね……


:↑俺も自己紹介動画の時から見てるが、フィナリアの頭良すぎだよな。

1日で日本語完璧に話せるようになってるってことだろ?


:@1↑マジ?と思って自己紹介動画と比較したら、別人で草www


:ほんまやん。


:@1←草に草をはやアスナ


:↑はやアスナってなんやねん。てか誰やねん。


:なんか上のコメントの返信コントになってるけど、というか普通に生配信とかしてくれないのかな?割と広がると思うけど。


:↑生配信めっちゃわかるわ!3人でゲーム配信とか絶対おもろいやろwwwあとコラボ配信とかもなwww


:↑ゲーム生配信だと、2人が足の引っ張り合いして揉める未来しか見えんwww


:↑それがええんやろ。てかゲーム生配信とかコラボとかのそういう系は、フィナリアが主に司会しそうだな。


:↑あれ?フィナリアいないと終わってたくね?


:↑間違いない



 これでコメントが終わっていた。

 割とコメントが多いような気がしたのだが、どうやら1人に対する返信が多かったらしい。

 それにしても生配信……

 みさき曰く、視聴者とコメントで直接会話する配信方式らしい。

 やってみてもいいかもしれない。

 隣を見ると2人は気持ちよさそうに、机にひれ伏して眠ってしまっていた。

 私は2人を起こさないよう、それぞれ背中に毛布を掛けたのだった。

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