第8話 ディア王女とスメラ嬢! はじめてのお買い物に挑戦する!

「はじめてのお買い物に挑戦?ディア王女と?」

「なんですのよそれは」


 ディア王女とスメラ嬢が、私の方を振り返る。

 一応ルールを説明しないと……


「はい、今からお2人だけで買い物に行ってもらいます!」


私が言った瞬間2人はほぼ同時にお互いの顔を見た。


「んな!?」


 スメラ嬢が今まで見たこともないような顔で驚いている。


「はぁ!?嫌よ!」


 ディア王女も断固拒否の姿勢である。

 これは説得するの大変そうだ……


「いいですか?ディア王女、スメラ嬢。私たちはこの世界のことを知りません。なのでここで喧嘩をしている場合では無いのです! つまり……仲良くなるための企画には、ちょうどよいと私は考えます。」


 2人は、お互い睨み合っている。

 皆にこの様子を見せるのは、少々気が引けるが、挨拶の時点でこの2人の仲の悪さは、分かってるはずなのでここはこのままにする。

 つまり吹っ切れた。


「まぁ〜いいわよ!私は王女なのよ!買い物なんて簡単にできますわ!」


 どこからその自信が生まれるのかはわからないが、消極的になられるよりかは良いと思うので放置することにした。


「ねぇ、本当に私も一緒なの?嫌な予感しかしないんだけど」


 スメラ嬢は本気で嫌がってそうだが、この企画は2人の仲をよくするために必要なことだとわたしは思っている。


「私も後ろからこのカメラを持って着いていきます。しかし居ないものと思って2人で助け合い買い物をしてきてください。これが地図で、目的地は○で記しています。あと裏に買う物を書いているのですぐに分かるかと」


 地図をスメラ嬢に渡し、説明する。


「玉子1パックになんて読むのかしら?」


 スメラ嬢が読みながら目を細めている。

 そういえば、初配信から3日ほど経過していて、スメラ嬢とディア王女にも日本語の勉強を裏で教えているので、ひらがなとカタカナはすべて読めるようにはなっている。

 みさきさんからは3人とも覚えるの早すぎ! と引かれてしまったが……


「しょうゆですね」


 漢字はまだ少ししか教えていないので、私が翻訳する。


「玉子1パックに、しょうゆ1本……大きさはなんでもいい……ね。それに水1L1本……分かったわ」


 スメラ嬢は読み終えるとディア王女に地図を渡す。


「とりあえず、今から着替えてくださいね。着替えたらすぐ出発してもらいますから」


 私はいったんカメラを止める。

 そうして2人は私服に着替え、廊下に出てくる。

 ちなみになぜ着替えるのかというと、前回の挨拶時の服は、目立ちすぎるため、外に出る時は、みさきが準備した服を着るように言われた。

 まあ、当たり前だろう、私たちのいた世界と、この世界は違う。

 あの服で外を歩けば、ろくな事にならない。

 という事で私達は玄関の外に出る。


「準備出来ましたね、ではこのカメラをどちらかお持ちください」

「私が持つわよ!」


 ディア王女が私から小型のカメラを受け取り、撮影を再開した。

 王女様がカメラを持つのはなにか不自然……な気もするけど。


「それでは【ディア王女とスメラ嬢! はじめてのお買い物に挑戦する!】いってらっしゃいませ」


 私は両手を振る。

 私の後ろにはみさきさんもしっかり見守っている。

 もちろんカメラに写ってないので、画面で見る側からしたらいない人なのだが。

 ここからは私じゃなくて、ディア王女とスメラ嬢がメインになる。

 だから私は、黙って後ろを付いていこうと思う。


「ところで場所は?どこですのよ」


 歩いてまだ3分しかたっていないのだが……

 ディア王女が呟きながら走り出そうとしている。


「ちょっと待なさいよ! バカ王女! ここからまだまだ真っ直ぐですわよ!」


 スメラ嬢が地図を見ちながら必死に叫んでいる。

 うん、やはりスメラ嬢を同伴させて正解だったと思う。

 一応私も大きなカメラを持って2人を撮影しているので、困ったことがあれば手伝う予定ではある。


「また私の事……くっ!我慢ですわよ!私!」


 スメラの言葉に一瞬反論しかけるが、ディア王女はギリ堪える。

 ひたすら沈黙が続き……

 ついに我慢の限界が来たのか、ディア王女が話し出す。


「暇ですわ、フィナリア何か話しなさい」


 まさか暇だから呼ばれるとは思ってなかった。

 どうしようか悩む。


「今日はフィナリアは居ないものとしてって言ってたでしょ」


 こういう時のスメラ嬢は頼もしい。

 そうして歩いていると、1つ目の信号がやってくる。

 地図によると、あと5つ信号を超えないといけないらしい。


「バカ!」

「キャッ!」


ディア王女が、信号を確認もせず進もうとしたので、スメラ嬢が慌ててディア王女の腕を引っ張る。


「何するのよ!」


 いきなり引っ張られたのでディア王女はスメラ嬢に思わず叫んでいる。


「赤信号は、渡ったらダメってみさきさんから言われてたでしょ!もう忘れたの?バカじゃない?頭終わってるわよ」


 前を見たら、車がどんどん左右から走っている。

 ディア王女は下を向いて俯いてしまった。

 スメラ嬢を付けた理由はこれにある。

 私だと確実に注意するにしては力不足なのだ。


「はぁ……私がいなかったら、今頃ぶつかってこの場にいなかったわよ。感謝なさい」7


 スメラ嬢の言い方は、人によったら怒る言い方かもしれないが、言われたくない。

 という面では最高だと私は思う。

 あ、どうも高みの見物フィナリアです。


「あ〜!もう分かったわよ、いちいちうるさいわね!次気を付ければ良いんでしょ!」


 そこから意識をしたのか、ディアが赤信号で進むことは無くなった。

 そうしてようやく5つ目の信号がやってきた。

 その信号は直進、右、左に道が続いていた。


「この信号を右ね」


 スメラ嬢が言うとディア王女が慌てて止める。


「私にも地図見せなさいよ!こっちね!」


 即座に、左に進もうとするディアをスメラ嬢は再び止める。


「右はこっちでしょ!」


 またもや喧嘩が始まった。

 喧嘩するくらいならまだいい。


「なんでよ! この建物どう見ても、前の店じゃないの! この方向だとこっちからの方が近いじゃない!」


ディアは指で地図の道をなぞっている。

確かに、地図で見たらディア言う方が近道に見える。


「わかったわよ」


 スメラ嬢もそれが分かったのか、素直に受け入れた。


「ふん! 私に従えば良いのよ!」


 ディア王女は右手を胸に、左手をスメラ嬢に伸ばしながら言った。


「それは絶対に嫌。今回はあなたのほうが正しいから仕方なしよ!」


 ひとまず、2人は歩き続ける。

 ちなみにどこから行っても目的地には着いたのだが、残り2つは圧倒的に時間がかかる。

 ディアのおかげで、奇跡的に近道を見つけたとも言える。

 しかし、そんなことには、一切気付いていない、ディア王女とスメラ嬢だった。


 そうして歩くこと10分。


「あれですわ!あれあれ!」


 ディア王女が前の巨大な建物を見て飛び跳ねている。


「ちょっと! 騒がないでよディア! 見たらわかる!」


 2人の目の前には、大きな看板が立っており、そこには【スーパーセンター・ターカワ】と書いていた。

 1時間の歩きの中、ついに2人は目的地に到着したのだ。

 ここからが正真正銘の本番である。


 スメラ嬢は地図を裏返し、買い物リストを確認する。


「まずは水」


 スメラ嬢が順番を決めるようだ。


「別にどれからでもいいですわ!」


ディアが走り出そうとするのを、スメラ嬢が止める。


「バカ、卵は割れやすいから上、私が入れるから見てなさいよ」


 さすがのスメラ嬢もこの場だと大きな声は出せないらしい。


「……」


 ディアはスメラのことを確実に睨んでいるが、流石に人が多すぎるのか、反論はしていない。

 結局、スメラが全部指示して無事会計を終わらせることが出来た。


「終わったわー!」

「あとは来た道を帰るだけ」


ディアがカメラを持ち、スメラ嬢が袋を持っている。


「私が持つわよスメラ」


 なんとあのディア王女が自分から持つと言い出すなんて……

 私は後ろで見ていてついつい感動してしまう。

 ディア王女は、持っていたカメラをスメラに渡し、代わりにスメラから袋を貰っている。

 帰りは、一切喧嘩することなく家まで帰ってくることができたのだった。


「ただいま帰りましたわ!」


 ディア王女が袋を掲げながら家に入っていく。

 

「ただいま戻りました」


 スメラ嬢も片手でカメラを持ちながら中に入っていく。

 私は、一旦カメラを一時停止状態にする。

 これもみさきさんに教えてもらった。


「ディア王女、スメラ嬢。最後撮影しますよ。集まってください」


 私の言葉にディア王女とスメラ嬢が歩いてくる。

 私は再びカメラの録画ボタンを押した。


「ということで、今回の企画は【ディア王女とスメラ嬢! はじめてのお買い物に挑戦する!】でした。えっと……皆様よければ高評価? アカウントのフォローよろしくお願いします」


 これを最後に私は録画を止めた。

 さあ、今度は私の番。

 動画編集という作業があるのだ。

 作業前に、2人が入っていった寝室部屋を除くと、2人は仲良く手をつないで眠っていた。

 余程楽しかったのだろう。

 優しい笑みで寝ているのがわかる。


「こんな日が来るとは思いませんでしたよ。さて、私も頑張りますか」


 という事で起こさないように作業を始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る