第8話 はじめてのお買い物

「はじめてのお買い物?」

「なんですのよそれは」


ディア王女とスメラ嬢が、私の方を振り返る。

一応ルールを説明しないと……


「はい、今からお2人で買い物に行ってもらいます!」

「んな!?」

「はぁ!?嫌よ!」

「いいですか?ディア王女、スメラ嬢様私たちはこの世界のことを知りません。なのでここで喧嘩をしている場合では無いのです!つまり……仲良くなるための企画には、ちょうどよいと私は考えます。」


2人は、お互い睨み合っている。

皆にこの様子を見せるのは、少々気が引けるが、挨拶の時点でこの2人の仲の悪さは、分かってるはずなのでここはこのままにする。


「まぁ〜いいわよ!私は王女なのよ!買い物なんて簡単にできますわ!」

「ねぇ、本当に私も一緒なの?嫌な予感しかしないんだけど」

「私も一応、後ろからこのカメラを持って着いていきます。しかし居ないものと思って2人で助け合い買い物をしてきてください。これが地図で、一応目的地は○で記しています。あと裏に買う物を書いているのですぐに分かるかと」

「玉子1パックになんて読むのかしら?」

「しょうゆですね」

「玉子1パックに、しょうゆ1本……大きさはなんでもいい……ね。それに水1L1本……分かったわ」

「ちょっと!私も見たいんだけど!?」

「あなたは邪魔私ひとりで充分」

「協力って言ってたじゃない!スメラ!ちょっと!フィナリア!どうするのよ!」

「えっと……スメラ嬢様一応協力ですので……2人仲良くをメインにしたいんです」

「こいつと仲良く出来ると思う?」

「こいつってなによ!スメラ!私は王女なのよ!?」

「とりあえず、今から着替えてくださいね。着替えたらすぐ出発してもらいますから」


そうして2人は私服に着替え、廊下に出てくる。

前回の挨拶時の服は、目立ちすぎるため、外に出る時は、みさきが準備した服を着るように言われたからだ。

まあ、当たり前だろう。

私たちのいた世界と、この世界は違うのだ。

あの服で外を歩けば、ろくな事にならないだろう。


という事で私達は玄関の外に出て、カメラを回す。


「準備出来ましたね、ではこのカメラをどちらかお持ちください」

「私が持つわよ!」


ディア王女が私からカメラを受け取る。

王女様がカメラを持つのはなにか不自然だがまぁいいでしょう。


「それでは【はじめてのお買い物】始めてください」


ここからは私じゃなくて、2人がメインになる。

だから私は、黙って後ろを付いていこうと思う。


「ところで場所は?どこですのよ」

「ちょっと待なさいよ!バカ王女!ここから真っ直ぐですわよ」

「また私の事……くっ!我慢ですわよ!私!」


スメラの言葉に一瞬反論しかけるが、ディアはギリ堪える。

ひたすら沈黙が続き……

ついに我慢の限界が来たのか、ディア王女が話し出す。


「暇ですわ、フィナリア何か話しなさい」

「今日はフィナリアは居ないものとしてって言ってたでしょ」

「なんでこんな令嬢と2人ですのよ!」

「そんなの私だって聞きたいし!てかそもそも買い物くらい、王女1人で行きなさいよ!」

「何!?護衛も無しで行けって言うの!?」

「だったらフィナリアと行けばいいじゃない!わがまま言わないで!」

「誰がわがままよ!」


そうして歩いていると、1つ目の信号がやってくる。

地図によると、あと5つ信号を超えないといけないらしい。


「バカ!」

「キャッ!」


ディア王女が、信号を確認もせず進もうとするのを、スメラが慌てて引っ張る。


「何するのよ!」

「赤信号は、渡ったらダメってみさきさんから言われてたでしょ!もう忘れたの?バカじゃない?頭終わってるわよ」


前を見たら、車がどんどん左右から走ってくる。

ディアは下を向いて俯いてしまった。


「はぁ……私がいなかったら、今頃ぶつかってこの場にいなかったわよ。感謝なさい」

「あ〜!もう分かったわよ、いちいちうるさいわね!次気を付ければ良いんでしょ!」


そこから意識をしたのか、ディアが赤信号で進むことは無くなった。

そうして5つ目の信号がやってきた。

その信号は直進、右、左に道が続いていた。


「この信号を右ね」

「私にも地図見せなさいよ!こっちね!」


即座に、左に進もうとするディアをスメラは慌てて止める。


「右はこっちでしょ!」

「なんでよ!この建物どう見ても、前の店じゃないの!この方向だとこっちからの方が近いじゃない!」


ディアは指で道をなぞる。

確かに、地図で見たらディア言う方が近道らしい。


「わかったわよ」

「ふん!私に従えば良いのよ!」

「それは絶対に嫌。今回は企画だから仕方なしよ!」


ひとまず、2人は歩き続ける。

ちなみにどこから行っても目的地には着いたのだが、残り2つは圧倒的に時間がかかる。

ディアのおかげで、奇跡的に近道を見つけたとも言える。

しかし、そんなことには、一切気付いていない、ディア王女とスメラ嬢だった。


そうして歩くこと10分……


「あれですわ!あれあれ!」

「ちょっと!騒がないでよディア!見たらわかるじゃん!」


2人の目の前には、大きな看板が立っており、そこには【スーパーセンター・ターカワ】と書いていた。

1時間の歩きの中、ついに2人は目的地に到着したのだ。

ここからが正真正銘の本番である。


スメラは地図を裏返し、買い物リストを確認する。


「まずは水」

「別にどれからでもいいですわ!」


ディアが走り出そうとするのを、スメラが再び止める。


「バカ!卵は割れやすいから上!私が入れるから見てなさいよ」

「……」


ディアはスメラのことを確実に睨んでいるが、流石に人が多すぎるのか、反論はしていない。

結局、スメラが全部指示して無事会計を終わらせることが出来た。


「終わったわー!」

「あとは来た道を帰るだけ」


ディアがカメラを持ち、スメラが袋を持っている。


「私が持つわよスメラ」

「は?別にいいし、何?王女の私が持つから褒めなさいって?」

「そこまで言ってないわ!」

「重いわよ」

「私は王女なのよ!こんなもの楽勝に持てますわ!


ディアはカメラをスメラに渡すと、スメラから袋を貰う。


「うひゃ!」


ディアが、危うく転びそうになるのを、スメラが何とか抑える。


「だから言ったじゃない!重いわよって!」

「うるさい!私だって何かしたいわ!!」

「はぁ……バカ王女、ほら手」

「何よ」

「手繋いだ方が安定するでしょ」

「それもそうね!」


ディアとスメラは手を繋ぎ、その後は無事、家に着くことが出来たのだった。


私も後ろから付いて歩いていて、良い経験をさせてあげたのではないか、と自分自身褒めているところ。

さぁ、本番はここから、私の編集が入るのだ。

モザイクというものをかけないと、家が皆にバレたりするので、ここからは私の技術が試される。


作業前に、寝室部屋を除くと2人は仲良く眠っていた。

余程楽しかったのだろう。

優しい笑みで寝ているのがわかる。


「ふふっ……こんな日が来るとは思いませんでしたよ。さて、私も頑張ります」


という事で作業を始めるのだった。

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