第5話 動画投稿開始

 次の日。

 私は慌てて目を覚ました。

 目を開けた瞬間、見知らぬ天井が見える。 


「うーん……むにゃむにゃ、私が王女……」

「すぅ……すぅ……」


 ディア王女とスメラ嬢はまだぐっすりと眠っていた。

 私は昨日の出来事を振り返る。

 私達は昨日魔族軍に追われて、崖から飛び降り、死んだかと思ったけど何故か見知らぬ場所にいた。

 それで家を失い放浪していた私たちを、助けてくれたみさきという人の家にいる。


 大丈夫覚えてる……


 私はゆっくりとカーテンを開ける。

 気持ちいい明るい日差しが、部屋の中を包んだ。


「ディア王女様、スメラ嬢様起きてください。朝ですよ」


 時間も時間なので2人を起こす。


「私は眠たいの! もう少し……」

「うるっさいわね! ディア!」


 急に叫ばれて驚いたのか、スメラが飛び起きた。

 スメラ嬢に関しては、まだ何とかなりそうだけど、ディア王女は、あのスメラ嬢の叫び声でも起きない。

 昔からなかなか起きてくれないのだ。

 そこで、昔から使っていたある必勝法がある。


「そういえば、この国のお菓子というものを食べた事ありませんね。スメラ嬢、一緒に食べに行きますか?」

「私も食べに行く!! フィナリア!」


 やはり思った通り、ディアが飛び起きた。

 ディアはお菓子が大好きということを、私は知っている。


コンコン……


 扉から音がなり、みさきさんが顔を覗かせる。


「皆起きたー? ご飯出来たから食べに来てね」


 ひょこっと顔を出し、笑顔で手を振った後、また向こうへ行ってしまった。


「かしこまりました。みさき様……みさきさん、ありがとうございます」


 私達は、起きて早々だが朝ごはんを食べに食堂へ向かった。

 無言で朝ご飯を食べ終えた私たちは、とりあえず配信するため、戸籍やらいろいろと登録しに行く事になった。

 もちろんこの世界のことは、私たちには良く分からない。

 なので、みさきさんにほとんどやってもらいながら、無事、手続きを済ませることに成功した。



「とりあえず、自己紹介動画だけ撮影だね!」


 家に帰った後、みさきさんが何かを持ってやってくる。


「なんですの? それは」


 ディア王女は、みさきさんの持ってきた謎の道具に首をかしげている。


「これはカメラといって、これで録画して動画を投稿するんだよ! 見たことないと思うからとりあえず……やってみたらわかると思う! 今回は自己紹介動画だから、簡単に自分は何者なのかというのを言えばいいだけ! あ、本名は控えた方が良いね」


 みさきさんの説明がわかりやすいのかすぐ理解できた。

 つまり、あのカメラという道具があれば配信?というものをできるらしい。

 これからするのは自己紹介らしい。


「私はディアでいいわ」


 正直私たちに他の名前は合わないと思う。


「そうですね、私もフィナリアでお願いします」

「めんどくさいし、私もスメラでいいわよ」


 結局、名前は変えずそのままにすることになった。


「りょうかいーじゃあグループ名は? どうする?」


 グループ名……つまりは私たちの3人まとめての呼び方になるのだろうか? となると、やはりあれしかない。


「スラム国とかでどうでしょう?」


 スラム国は、ディア王女が前の世界で統治していた小さな国で、この名前にしておけばもしかしたら変えることができるかもしれない。

 私はそう考えている。


「良いわね! フィナリア! 私の国名ね!」


 ディア王女には大変好評なようでよかった。

 しかし、ただ1人……


「こんなバカ王女の国名をまた……」


 スメラ嬢だけ納得いってないようだった。


「なんですってスメラ!!」


 再び2人の喧嘩が始まった。

 みさきさんに関しては、もう完全に慣れてしまったようだ。

 適応能力高い……


「じゃあスラム国で登録するからー」


 慣れた手つきで、文字を打ち込んでいく。

 昨日、2時間のうちにかなり日本語を勉強したので、なんとなく何を書いているのかわかる。


「それじゃあ動画を撮るから、1人づつ行くよ!」


 みさきの言葉に、まずはディア王女が歩いていく。

 どうやらこのまま自己紹介動画を撮るらしい。

 なかなか新鮮な感じがする。


「それでは行きますよー! 3、2、1!」


 そうして自己紹介動画の撮影が始まる。

 私たち全員が、撮影というものが初めてなので、ものすごく緊張していた。


「ふぁぁ! 終わったわ!」


 一通り撮影を終えると、ディア王女が大きな声で伸びをした。

 私自身もなかなか新鮮な気分である。

 今まで、女王様とか王様に自己紹介をしたことはあっても、道具に向かい1人で自己紹介などすることはなかったのだ。


「バカ王女、なに間違えてるのよ。ダサいわね」


 スメラ嬢がディア王女に詰め寄っている。

 まぁ、今回はみんなが初めての経験だったので間違えるのは仕方ない。


「何よ!? 王女にダサいとかあんた……」


 ディア王女も負けじと言い返そうとしている。


「2人共、落ち着いてください」

 

 何とか喧嘩は止められたが、毎回ここまで言い争いになるのは逆にすごいと思う。


「いやー良かったんじゃない? 3人素のままで、私はめっちゃいいと思う。これだと……撮り直しは必要ないかな。このまま投稿しようか! そうだね、この自己紹介動画は、まず私のアカウントに載せて宣伝してからみんなの【スラム国】アカウントに載せることにしよう! 効率良いし! 宣伝のために私が編集してあげるよ!」


 私たちはもう、みさきさんにすべてを任せているので、頷くことしかできなかった。

 

 この動画を、コトリムの配信アプリで投稿すれば、全世界の人に見られるらしい。

 私は昨日のうちに、利用規約? という本を軽く読んでおいた。

 フォロワー1000人以上で、かつ動画が累計100万再生行くと、お金が貰えるようになるらしい。

 口座も、みさきさんと一緒に作ってもらった。

 みさきさん曰く、お金を盗まれる恐れがあるので、登録した内容は、他人に話してはいけないのだとか。

 また、今回登録したのは、アカウントと呼ばれるもので、これはいわばコトリムでの命? みたいなものらしい。

 このアカウントがなくなると、すべてが終わる。

 とも書いている。


「おっけー! 編集できたよ!」


 みさきさんの編集が終わったので、早速【おちゃ漬け】アカウントで動画を投稿した。

 正直。どうなるのかは全く分からない。

 だけどやるならば全力でやりたい。

 それはわたしも、ディア王女も、スメラ嬢も同じなようで、ほっとするのだった。

 

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