第4話 ライブ配信者

「本当に広い家ですね……」


 家の中は、本当に広かったので私はついつい口に出してしまった。


「なによ私の所の方が大きいじゃない」


 今まで黙っていた王女が口を開いた。

 まぁ……王女はお城で生活していたので、そもそも規模が違う。


「わがまま自慢娘は黙っていなさいよ」


 スメラ嬢がため息交じりで呟いた。

 一瞬のことだったので私も何とか聞き取れたが……


「誰がわがまま自慢娘よ!!」


 ディア王女にははっきり聞き取れたらしく、スメラ嬢に近づいていった。


「まぁまぁ、そんなことより、まずは自己紹介しようか。私は金銅美崎、気軽にみさきって呼んでいいよー」


 みさきさんが何とか話の話題を作ってくれたので、ディア王女とスメラ嬢も喧嘩せずに済んだ。


「私はフィナリア、ディア王女の使用人兼護衛人です」


 もうここまで来て隠す必要はないだろう。


「スラム国第1王女ディアよ! 覚えておきなさい!」

「スラム国第2皇女スメラ」


 2人も私に続けて自己紹介をする。


 「なるほど、にわかに信じられないけど、実際に目の前にいるもんね。簡単に説明すると、おそらくこの世界とはまた別の世界から来たってことかな?」


 大体の解釈はそれであっているとは思う。


「恐らくそうだと思います。ですが、戻る方法がわかりません」


私の言葉にみさきさんが悩んでいる。


「こんなこと生まれて初めてだし……国籍とかもないもんね? 文字は?」


 この世界の言語はわかるが、文字は全く読めない。


「いいえ、言葉はわかりますが文字が読めません」


 みさきさんは大きく頭を悩ませている。

 それもそのはず、文字が読めないとなると、相当何もできないのだ。

 前世の世界でもそうだった。


「となるとバイトは……厳しいかぁ。ん~そうだなぁ、帰れないとなるとここで生活しないといけないだろうし、教育をしてる時間もないよね。じゃあ3人とも! 動画投稿とかライブ配信に興味ない? うまくいけばお金稼げれるようになるとおもうよ! 国籍は私が何とかしてあげる! お金稼ぐことができるまでなら、私の貯金でなんとかなるだろうし! 1から学校行くより、動画投稿しながら、私が文字を教える方がいいと思う!」


 またまた初めて聞く言葉が……


「どうがとうこう? らいぶはいしん? こくせき? なんですかそれは」


 私が聞いたことない言葉である。


「新しい魔法の名前かしら!?」


 ディア王女は目を輝かせて、みさきさんの顔をのぞき込んでいる。


「はぁ……この世界には魔法はないでしょ、バカ王女」


 再びため息をつきながらスメラ嬢が話す。

 スメラ嬢の言葉はまぁ、正論である。


「適当に言っただけじゃない!」


 ディア王女が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 これは単純に恥ずかしかっただけなのだろう。

 喧嘩にはならず安心した。


「私はライブ配信者だから、ライブ配信については、見てもらうほうが速いかな」


 みさきから何やら四角い小さな物を渡された。

 何だろうか?一応色んな絵が無数に描いてあるのだが。


「それはスマホと呼ばれる便利道具だよ! 青色でKって書いている。アプリ押してみて」


 けーとはいったい何なのだろうか?


「けー? どれですか?」


 私はみさきさんに聞く


「これこれ! 名前は【KOTORIM】でコトリムって読むんやで」


 みさきさんは、いろいろな絵のうちの1つに指を置く。

 そこにはKという見たことのない文字? が書かれていた。


「これがそのどーがなんちゃらって?」


 以外にも反応したのはディア王女だった。


「それは通称、配信アプリと呼ばれててね。ビデオ式生配信、テレビ式配信したり、動画を撮ってその動画を乗せたりできるアプリだよ。世界的にはそこまでだけど、試しに配信してみるから皆はこの部屋で開いてて待っててほしいかな。始まったら、上から通知来るから押したら行けると思う。あとこっちの部屋には来ないでね、声入るとまずいから」


 そういうとみさきさんは別の部屋に入っていった。

 何が何だか全く分かっていないので、言われるがまま通知というものを、待つことにした。

 しばらく待っていると、見ていた画面というのだろうか? の上から何かが降りてくる。

 そこには【おちゃ漬けさんの雑談配信が始まりました】

 とだけ書かれていた。


「これはなんですの?」


 ディア王女が不思議そうな顔で見ている。


「これが通知なのだと思います。とりあえず押してみますね」


 私は確認のため降りてきたものに触れようとする。


「爆発したりしないわよね?」


 スメラ嬢が呟く。

 そんなことはないと思うが、私は恐る恐る通知に触れた。

 するとそのまま画面が切り替わり、目の前に別人が現れる。



『みなさんらっしゃっせーらっしゃっせー湯呑みの擬人化おちゃ漬けと申します~』


「凄いですね……画面の向こうから声が聞こえてきます!外見は別人?ですけど……」


 私は声と見た目に混乱してしまう。

 そう、見えているのは全く分からない人なのだが、声はみさきさんそのものなのだ。

 服装は、髪は黄緑色のショートヘアで、上には団子結びが2つの、何やら水色三角のカチューシャを付けていた。

 服は、水色の大きな首輪かを付けており、そこから伸びている紐が後ろで交わり、下のベルト? を支えているらしい。

 ちなみに、なぜかそのベルトにはぬいぐるみがぶら下げてある。

 そのベルトは、他にも右足に履いている黄緑色のタイツを支えているらしい。

 右足は太ももが素肌でそこから下は黄緑色のタイツになっているのだ。

 そしてどうやら下着は上半身黒色のタイツで、そのタイツがそのまま左足に伸びており、何やら後ろに尻尾のようで、先には何やらクリスタルがついているベルトが伸びている。

 最後に手が隠れるような大きな白色と青色のジャケットを着ている。

 ちなみに靴は水色というか、雲みたいなデザインのようにも見えた。

 何とも珍しい服装である。


「文字が下に流れてるわよ!」


 ディア王女が見たのはその下で、読たくさんの文字があり得ないスピードでぅ上から下に動いているのだ。


「何書いてるのか読めないですわ」


 スメラ嬢も必死に見ているが、私たちはこの世界の文字が読めないので、何が書いてあるのかわからないのだ。

 とりあえず続けて見ることにする。


コメント


:こんちゃー!!


おちゃ漬け『ありがと~! きたよー』


:おひさー! ロケットドーン!


おちゃ漬け 『いやロケットー! じゃないから! 湯呑みだから! そこは飛ばさないでもろて』


:じゃあ……おちゃにハンマー!


おちゃ漬け『割れちゃうから! そっとね! そっと!』


:名無しさんがハートを1000個送りました


おちゃ漬け 『あ~ハートありがとう~! そのハート大事にするね!』


「なんかすごく、盛り上がってるように思います」


よくわからないが、みさきさんの声的に楽しくしているのは確かだろう。


「面白そう! 私もやってみたいわ!」


 ディア王女は完全にこの配信? というものに心を奪われたらしい。


「ディア王女だと盛り上がらないでしょう。考えたらわかります」


 スメラ嬢からの辛口が入る。

 しかし、スメラ嬢自身は興味はありそうなので、やってみてもいいかもしれない。。


「うるさいわね!」

「ディア王女、スメラ嬢、そんな大声出したら、聞こえてしまいますよ」


 これ以上声が大きくなると向こうに聞こえてしまう可能性があるので、私は一旦2人を抑える。

 ひとまず、みさきの配信?というものが終わるまで、文字とのやり取りをひたすら見ることにしたのだった。


『それじゃあもう終わりますー! おつおちゃ、おつ漬け、お疲れ様でしたー!』


 そう言うと見ているところが真っ黒になった。

 

「ふあ~楽しかった!」


 しばらくして、みさきさんが伸びをして戻ってきた。


「お疲れさまです、みさきさん。はいどうぞ」


 私は、とりあえず水を渡した。

 この世界では、どうやら捻ると水が出てくるらしい。

 何とも素晴らしい技術なのだろうか。


「あ、ありがとう! お腹すいたでしょ、もう遅いし、夜ご飯は私が作ってあげる」


 本当にみさきさんは優しい。


「みさきさん、本当にありがとうございます」


 一応感謝を伝えるが、みさきさんは私たちの命の恩人。

 感謝しきれない。


「全然いいよー! フィナリアだっけ? フィナリアさんも休んでー」


 私たちは夜ご飯を食べ、もうそのまま寝ることにする。

 魔族に襲われ、知らない世界に来てしまった私たちだが、ここに来てよかったとは思う。

 あのまま行くと、私たちは生きていなかったのだから。

 私は2人が寝たことを確認すると、ゆっくりみさきさんの部屋に行く。


「今日はゆっくり寝ないとダメだよ?」


 みさきさんは首をかしげながら私の方を向く。


「もちろんわかっていますが……みさきさんに文字を教えていただきたいのです。みさきさんが良ければですが」


 私は、ディア王女とスメラ嬢を支えていかなければならない。

 文字すらも読めない使用人など、必要ないも同然。

 私は隠れてみさきと一緒に2時間程、勉強会をすることに決めた。


「2時間だけなら全然いいよー」

「お願いします」


 そうして私はみさきさんに、ひらがな、カタカナ、漢字を、詰め込めるだけ詰め込んでもらった。

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