第2話 ここはいったいどこですか?
「うーん……」
私はゆっくり目を開ける。
どうやら魔族からは逃げられたようで、追ってくる気配はなかった。
左隣にはディア王女とスメラ嬢が仰向けで倒れて眠っている。
「ディア王女様! スメラ嬢様! 起きてください!」
私は、慌てて2人を揺らし起こす。
「何よ! せっかくいい夢見てたのに! 起こさないでよ!」
よほどいい夢を見ていたのか……
ディア王女が私を睨みつける。
「うるさいわよ! ディア!」
王族で有名な、寝起きを起こされたら怒るランキング第2位のスメラ嬢が、飛び起きてディア王女に叫び返す。
「何よ! 貴族の身分で王女の私に偉そうね!!」
ディア王女とスメラ嬢が再び喧嘩しそうになっている……
いや、もう喧嘩しているといっても過言ではない。
「2人共! 寝起きのいきなり喧嘩はやめてください!!」
さすがに、この状況で喧嘩されると私もたまったものじゃないので、思わず声を大きくしてしまう。
2人は、私のあまりの声の大きさにビビったらしく、それ以上喧嘩することはなかった。
私が城内を掃除しているときにも、女王様直々から、喧嘩していると報告を受けたこともある。
「ところでフィナリア! 魔族はどうなったのよ!?ここはいったいどこなのよ!」
ディア王女は、ようやく思い出したのか慌てて周りを見渡しながら叫ぶ。
「とりあえず離れたようです。しかし、ここがどこなのかは私にもわかりません」
私も分かってないので、魔族から逃れたということだけしか王女に言えない。
「白い光が見えましたが、あれは転移魔法です。別の所に飛んだのではないの?どこかのゴミ王女のせいですわ」
スメラ嬢が私とディア王女の顔を交互に見ている。
スメラ嬢は、魔法に長けていて、第2の魔王とも呼ばれている。
そんなことより、どうして毎回喧嘩口調になるのか……
「スメラ嬢もそのくらいにして下さい。今はここがどこかの方が大事です。森を抜けるまで歩きましょう」
「はぁ……それもそうですね」
スメラ嬢はこれ以上討論をしたくないのか、頭に左手を置きながら首を横に振った。
「分かったわ!フィナリアの意見に従ってあげる!わたくしは寛大な王女なのよ!」
腰に手を当てふんぞり返っているが。
王女の寛大はどこから来るのかわからない。
とりあえず私たちは、森を抜けるために歩き出すことにした。
そこで1つ気になったことがある。
どうやらディア王女も気が付いていたらしい。
「ねぇ! この道って何よ! 私たちの土の道と違って固いじゃない! フィナリア!」
ディア王女が何やら地面を蹴っている。
「私も見たことありませんね……石? の塊のようにも思えますが……」
私は地面を見る。
地面には灰色の固い砂?のようなものがぎっしりと敷き詰められていた。
「ねぇ、ここ魔法使えないのだけど?」
スメラ嬢が、杖を振っている。
しかし、何も起こらない。
「あら~? スメラあなたついに魔法使えなくなったの~? 残念ですわね~」
王女は右手で口を押えながら、スメラ嬢のことを横目で見ている。
「王女だからって生意気ですよ!!」
スメラ嬢がまた言い返す。
「待ってくださいディア王女様! スメラ嬢! 確かに、魔力や精霊の力も何も感じませんね」
再び喧嘩に発展しようとする危険があり、もう反射で止めにかかっていた。
しかし、1番重大なことは、魔法が使えないということ。
つまり、何も武器がないということに等しいのである。
「あら? 見なさい! 明るいですわよ! 森を抜けますわ!!」
「危ない!! ディア王女!!」
私は走っていったディア王女の腕を慌てて引っ張る。
その時、とてつもない高い音とともに、目の前に巨大な物体が通り過ぎて、奥で止まる。
「おい!危ないだろ!周りちゃんと見ろ!」
その巨大な何かから、人の顔が見える。
しばらくするとそのまま進んで行った。
かなり危なかった。
下手したらディア王女様が、あのまま飛ばされている所だったのだ。
そうしたら私は、もう死ぬしかなくなってしまう。
「ちょっと何やってるのよバカ王女!!」
スメラ嬢も、これには本気で怒っているようで、手を掴んでいる。
「あれは一体何なんですのよ!!!」
ディア王女は叫びながら、何かが走っていった方向を指さしている。
「落ち着いてください! ほら、どんどん通り過ぎていきますから、乗り物だと思います」
こんな乗り物など見たことがないが、私が思う限り、あり得る話ではある。
想像が合っていればの話だが……
「あんな速い乗り物なんて聞いたことないわ!!」
まさしくディア王女の言う通り。
「勝手に飛び出すからでしょ、バカ王女」
スメラ嬢はわかっていたのだろうか?
と思い振り向くと、慌てて振り返ったので、私の説明で知ったんだろう。
「バカって何よ!!王女権限で罰するわよ!」
お互いがお互いで、喧嘩を吹っかけているので、収拾がつかない。
使用人である、私にとっては仲がいいのは良いことなんだろうけど……
「はぁ……とりあえず落ち着いてください!私が状況を整理します!」
疲れによるため息が思わず漏れてしまった。
私の想像だと、歩いたことの無い道、そしてみたことの無い乗り物。
よくよく見たらそこら辺に建てられている建物も、私たちの国とは全く違う建てられ方をしている。
しかも魔力はない。
となると。
「ディア王女様、スメラ嬢様」
私は再び2人に話しかける。
「何よ、早く言いなさいよ! フィナリア!」
そろそろディア王女に怒られる気がしたので、はっきり言うことにする。
「私が考えるには。この世界は恐らく、私たちが住んでいた世界とは違う世界の可能性があります」
つまり私が言いたいのは、この世界は異世界ということ。
「フィナリアはいったい何を言っているのよ! 王女を前に、冗談はほどほどにしなさい!」
もちろんディア王女は、1回では信じてくれないと思っていたので想像通り。
「ディア王女様。気づきませんか? 先ほどの装置からかなり離れているのに、魔力は一切感じません。そして、見たことの無い道、見たことの無い巨大な乗り物、明らか私たちの世界では存在していない物ばかりです。私、全ての国を制覇してますので、分かります」
私の言葉に賛同してくれたのは、まさかのスメラ嬢だった。
「つまり異世界ということね……バカ王女が余計なことをしたから」
確かにスメラ嬢の言う通り、タイミング的にはディア王女が叫んだあと白い光に包まれた。
でも、それは本当に王女のせいなのだろうか?
誰かが、私たちを安全なところに連れて行ってくれた可能性もある。
「もしもこの世界が、私達のいた世界と違うのであれば、この世界のルールに従うしかありません」
まだ確信はできない。
が、もしもということがある。
「そんなの絶対イヤ!私は王女なのよ!?縛られるのなんてごめんだわ!」
ディア王女は、一所懸命に首を左右に振っている。
まぁ……
王女がこういう性格なのは昔から知っている。
「あんたの国は、今どこにあるっていうのよ、少し考えなさいバカ王女」
スメラ嬢が杖を持ったまま腕を組み、ディア王女に話している。
「人を探して情報を聞くしかないようですね。言語は通じるようなので、話が出来る人を探しましょう」
さっきのディア王女の飛び出しの件だと、言語はどうやら同じらしい。
とりあえず私は2人の手を握る。
そのまま情報を集めるため、人の多そうな所へ向かっていくのだった。
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