第19話  魔法使いと英雄8

「さて、エコーズを返してもらうぜ」

「なにが、返してもらうですか……いきなり人の店に来て、魔道具を盗むなんて」

「申し訳ありませんね。この品は元々彼の所有物なのですね」

「そうだぜオッサン! なんなら今ここで証明してやるよ!」


 シンがライクを押さえつけ、ヘイがエコーズを手に取りボタンを一定のリズムで押し能力を起動する。

 エコーズから不思議な音が流れ響き渡る。

 音が止むと二人の男はライクを蹴とばし店から出て行った。

 双子はその姿を震えながら見送ることしかできなかった……。


「さて、これで第一関門突破として次のフェイズに移行できるな」


 ヘイがエコーズをパーカーにしまう。


「ですが、油断はできませんね。あの方たちも向かってるはずですしね」


 シンは首にかかっているトリプルハーツを撫でながら計画について考えている。


「今回の計画にもジェイク御一行様は必要なピースだからな……タイミングがうまく合えばいいが」

「どちらにしろ、もう計画は動き始めましたね。後は、この村が飲み込まれるまでに間に合うか掛けて待ちますかね?」

「それもいいが、一応俺たちも足止めしないと行けないし。俺っちの指に計画進行の為に必要な入れ替える物の登録をストックしとかないとまずい……保険として逃げる時に便利な入れ替え先も考えないとだしな……おい、思ったよりやることあるぞ!」

「そうでしたね。わたくしの方は八割完了したようなものだったのでね。まあ、平和な時間も残り少ないですが、村観光でもしながら必要な物を用意しますかね」

 

 こうして、二人が村に溶け込んでいるころ、スズランたちがウィンの村出入り門まで戻ってきていた。


「門番さん! 今すぐ村の住人をここから一番近い村や町まで逃げるように伝えてください!」

「あれ? お嬢ちゃんさっき出て行ったと思ったらいきなりどうした?」

「いいから! 早く村の住人を非難させて! もう一時間もしない内にスタンピードを起こした魔獣たちが一斉にここを通過するのよ!」

「スタンピードだって! 魔獣の群れなんか一度もこの村に来たことがないのに信じられないが……」


 高台から望遠鏡で門番がスズランの指示する方角を見ると、そこには無数の魔獣の群れが押し寄せて来ていることが確認できた。


「本当にこっちに足取り向けてやがる……早急に村の者に伝えなければ!」


 門番が急いで村の者に伝達をしに向かった。

 スズランは、門番と別れてすぐに村の門から、魔物の群れに向かって駆け出した。

 地鳴りを鳴らしながら、ヘラジカに似た魔獣ジガルの群れが先頭を走り、その後ろにゾウに似た魔獣ボウルやハイエナのような魔獣エナエナたちが目の色を変えて村のある方向に押し寄せて来ている。

 村から少し離れた原っぱで、スズランとシシボネが待ち伏せをして向かい打とうとする。


「完全に裸眼で捕らえられる距離まで来ました! シシボネやりますよ!」

「かしこまり!」

「「シャドール!」」


 シシボネの身体が黒いスライム状になりスズランの頭から覆いかぶさる。

 すると、スズランの身体を取り込み、腕が六本生えた長身の黒い鎧の騎士がその場に現れた。


「行くよシシボネ! 私たちの力で少しでも時間を稼ぐわよ!」

「だな! 恨みはないが、正常に戻らないなら潰させてもらうぞ」


 二人の意思があるシャドールと言う黒い鎧状態になったスズランと先程よりも声が低くなったシシボネが魔獣たちに警告しながら迎え撃つ。

 鎧から紫色の煙を放出し、それぞれの六本の腕からそれぞれ黒い鎖を放ち先頭を走る魔獣を縛り進行を妨害した。そのまま別の鎖で捕らえた数体の魔獣を他の魔獣に叩きつけながら、左右に手繰り寄せ後方の魔獣目掛けて振りかざし投擲した。

 隊列が崩れた魔獣の群れに今度は鎖を使い近づき、両足の鎧の隙間から紫色の煙を放ちながら殴りかかる。

 その煙を吸った魔獣たちは、怖気を感じその場に失神するものや困惑し後退してしまい他の魔獣と激突し砕け散り魔石に変わる。

 だが、流石に数が多すぎるので全ての魔獣の足止めはできず逃した魔獣が徐々に村に向かって行ってしまう。


「チッ! さすがにこの数は捌ききれね」


 採り逃した魔獣たちが、村の入口の壁に激突し壁を壊して村に突入して行った。


「まずい!? このままじゃ村が崩壊してしまう」


 シャードール状態のスズランたちが魔獣を素手で砕きながら、村を見ていると何度も爆発音が起き数カ所から煙が上がる。

 ボウルの頭に鎖を巻きつけ背に飛び乗り、状況確認をしようとしているとき、突如二人の人影が現れた。


「おやおや、予想とは違う先客がいますね」

「なんだ? あの黒い鎧は? ジェイクの仲間だとしても、あんな奴の情報あったか?」

「聞いていませんね。ですが、少し時間稼ぎしなければ本丸は現れないらしいので、丁度人で不足でもあるので、助かりますね」


 さっきまで村にいたシンとヘイが、シャドール状態のスズランをみながら軽口を叩く。

 その二人の様子をみつつ、新たな鎖でエナエナを縛り上げ周りの魔獣にぶつけながらスズランが声を上げる。


「あなたたち! 味方なら、ここではなく村に入った魔獣を叩いてきてください!」

「あ? 俺様に命令するな鎧が! つうか、村の魔獣は全て木端微塵に爆発して粉砕してやったわ!」

「わたくしが! やったんですけどね!」


 偉そうに言い放つヘイだが、どうやら魔獣を倒したのはシンらしい。

 それを聞いたスズランたちは、先程の爆発音は彼らが村に入った魔獣を倒した際の音だったらしい。


「そう言うことだから、ここで一緒に時間つぶししてやるよ!」


 更にヘイは出しゃばった発言をした。 

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