第18話 魔法使いと英雄7
酒場から出たジェイクは急いで宿屋に戻った。
その後を必死に走ってついて来たスズは、息を荒くしながら自信も宿屋に入りジェイクの後をついて206号室に入った。
「そんなに急いでどうしたんですか?」
「これからウィンの村が、大変なことになるらしいんだ」
「え!? それってさっきクロスさんと揉めてたことに関係あるんですよね!」
「ああ。あいつが今回の本当の目的を果たすためにウィンの村が生贄に去れることになりやがった」
ジェイクが簡単に説明しつつ荷物をまとめ真夜中になろうとしている今から、ウィンの村に向かう準備を整えた。
「今から向かうんですか!? 暗闇を進むのは危ないからってジェイクさんがよく言っていたのに」
「時と場合によっては、どうにも言ってられないだろう! スズだってライクたちが心配だろう?」
「それは……そうですけど」
「だったら、四の五の言わずに荷物まとめてこい! 先に一階に行ってこの時間でも馬車とか借りれる場所ないか聞いてくるから」
「は、はい! すぐに私も準備してきます!」
それからの二人は迅速に物事を進めて、宿屋の知り合いに代金を多く渡して二頭の馬を借りた時におまけで可燃石を入れて使えるランタンを二つ貰いそれを光源にして馬をウィン村に向けて走りださせた。
「わ、私ゆっくりとした乗馬しかしたことないのに、案外速く走らせられるもんなんですね」
「このスピードについてこれるなら上出来だ! とにかく振り落とされないように手綱を握って気をつけろよ」
行とは違い馬で戻ることにした二人は、暗闇を突き進む。
走り進ませながら、またもジェイクは後悔していた。
あのとき、クロードにもっと詳しく魔獣の王のことについて聞き出せばよかった。
そして、ウィンの村にどれぐらいの早さでスタンピートが押し寄せて来ているのかを聞くのを誤った事実に後悔していた。
「とにかく間に合ってくれよ。もう誰かが、亡くなる後悔だけはしたくないんだ」
ジェイクたちがウィンの村に到着するのは、馬を走らせ三日目の日が暮れ始めたころだった。
そこには、ジェイクにとって頼れる仲間がいることをまだしらない。
ジェイクたちが、馬を走らせて三日目になるころウィンの村ではライクの店にお客さんが訪れていた。
そのお客さんは、小柄で青いフード付きポンチョを羽織っている女性で品物を物色している。
彼女は、この辺りで大型地竜の目撃情報を得て、その道中に寄ったウィンの村で、珍しい品揃えの店を見つけ立ち寄った。
そこには、気さくな店主と双子の小さな子達が店内を案内している。
興味深い摩具が多く少し質問しただけだったのに、店主であるライクがどんどん摩具の話を語りだした。
「スズランさんも、摩具に興味があるそうでオススメもどんどん案内しますよ!」
摩具の説明を聞いていたときに自己紹介を済ませていたらしく。
彼女の名前は、スズランと言う。
スズランに対して色々な商品の紹介し始め。今年の一押しの紹介では店主が熱く語ってきたがスズランは苦笑いで聞き流しつつ相打ちだけを打っている。
「興味深い品物だらけで、勉強になりました」
「いえいえ! 摩具語りは私の楽しみの一つですからね。初めてのお客さんに話しを聞いていただけるだけで感謝ですよ」
嬉しそうに話すライクの声を聞き、少し笑顔が崩れるスズランの申し訳なさそうな表情がそこにあった。
「それはそれとして、この周辺に大型地竜の出没情報を聞いて来たんですけど……ご存じありませんか?」
「大型地竜なら、十日ほど前に討伐されましたよ」
「え! 一週間以上も前にですか!? ここまで来た意味が……」
その回答を聞いたスズランは両目を見開き、その場に項垂れる。
「なるほど! なるほど! ズバリ! スズランさんの目的は大型地竜の魔石ですね」
顎に手を当てて嬉しそうに話すライクはスズランに待つように言い、店の奥に姿を消した。
少ししたら両手で抱えられるぐらいの木箱を持って戻ってきた。
「お待たせしました! こちらでどうですかね?」
木箱の中には大柄の魔石が入っていた。
「これってまさか!」
「そのまさかですよ! 流石に極級魔石とは言いませんが、上級魔石になります……しかも回収できる範囲で持ってきた一点物です」
魔石を手に取り魔力が籠っているか確認し、即決した。
「金貨三枚と銀貨七枚確かに受け取りました。高額な買い物ありがとうございます!」
「すげー! 金貨だ!」
「こんな大金持ち歩いてるなんて……お姉ちゃんお金持ち?」
金貨を取り出したのを見て双子も興味津々にスズランを見る。
「小金持ちくらいかな……このレベルの魔石なら、正当な価格なので売れずに残っててよかった」
双子に見送られながら買い物を追えたスズランは、魔石を持ちウィンの村の出入り門まで向かう。
そこに黒い大型犬が一匹佇んでいた。
「お待たせ! シシボネ大丈夫だった?」
「暇だったから軽く走ってきたわ!」
この喋る大型犬はシシボネと言う。
「あなた、また勝手にウロチョロしてたのね!」
「仕方ないじゃない、スズラン以外の人に話しかけたら魔獣として討伐対象にされちゃうかもしれないし……退屈だったから運動がてらにね」
「だから、静かにお座りしといてって言ったじゃない!」
「あら、今は静かに座っているでしょ?」
とんちのような回答をして来たシシボネの背中に、魔石の入った木箱を置くと、そのまま背中に吸収された。
「お目当ての物は、手に入ったようね」
「そうなの! 情報取集に寄ったら本命があったの! だけど、タリスタの町に戻るまでは野宿になりそう……」
「それなら、私を使えば二日で戻れるから痛手ではないでしょ?」
「う~ん。私の負担がでかいから、なるべく普通に帰りたい気もするけど……」
「早めに戻って、購入した魔石で製薬生成したいんじゃないのかしら?」
「そうね……人目が付かない場所まで行ったらお願いしようかしら」
そして、ウィンの村から少し離れた場所まで来たところで不思議な音が響き渡った。
「なに? とても不思議な音色ね」
「ウッウッうっうううううううう――――」
その音を聞いたシシボネが苦し気にうめき声を上げる。
「ちょっと! シシボネどうしちゃったの!」
「痛い! 視界が歪む! 何かが崩壊しそうになる! あ、あ……ああああ!?」
「シシボネ! これを飲んで正気を保ちなさい!」
スズランが、ポシェットからポーションを取り出しシシボネの口に無理やり注ぎ込んだ。
暫し暴れはしたが、なんとかシシボネの状態が安定してきたところで、地鳴りが聞こえ始めた。
「何か近づいてきてるのかしら……しかも、この感じって」
シシボネの耳が立ち、口を開く。
「スズラン大変よ。この感じは、スタンピードに違いないわ」
「シシボネ! 正気に戻ったのね! 向かってる方角とかわかる?」
「ええ! わかるわ……東の方から一直線にこちらに向かってるもの!」
「ここに! 私たちの後ろにはウィンの村があるってことは、大災害になるじゃない!」
魔石を売って貰った店の店主と双子のことが気になるスズランは、シシボネが言う方角を見て土煙が見え始めたことで、すぐさま来た道を戻りウィンの村に引き返した。
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