第15話 魔法使いと英雄4
「朝か……だる」
ジェイクは気怠さが残る身体を起こし、ベットから洗面所に移動して顔を洗い手の平を確認した。
そこには、昨日も確認したがナンバーが消えている。
「風の能力便利だったな~~」
ジェイクは先日ライクにもらった衣類などをしまい荷物の確認をしてから、一階の受付に部屋の鍵を返してスズを待った。
少ししてからスズが、眠たそうにリュックを背負いながらやってきた。このリュックもライクからのもらい物である。
二人で朝食を済ましてから、ウィンの村から出るところでライク一家が見送りに来てくれていた。
「あ! 双子ちゃんとライクさん! わざわざ待っててくれたんですか!」
「おいおい! 見送りは昨日済ませたつもりだったんだけどな……」
二人が港町に向かうことは昨日の内に話してあったので、わざわざ港町がある東北東の道で出待ちしていた。
「お兄さん! 素直じゃないね!」
「兄ちゃんたち遠く行くみたいだから、もう一回お別れしたくて」
ミリーは少し不機嫌になりながらもジェイクとスズの見送りに来てくれた。対するケリーは、二人と別れるのが寂しい様子が見て取れた。
「どうしても、見送りに行きたいと朝から言って聞かないものですから」
ライクが『たはは』と頭を掻きながら笑い二人を見ていた。
「短い期間だったが、ジェイクとの出会いは私にとって生涯忘れられない出会いになったと思う。君を狙う連中は一筋縄では行かなそうだけど……どうか気を付けて!」
ライクが手を差し出してきたので、ジェイクもその手を取り固い握手を交わした。
「こちらこそ、充実した時間を過ごせたよ……ありがとうな。それと、これから迷惑をかけるかもしれないが、なにかあったら俺たちのことは見放してくれて構わないから自分たちの生活を最優先してくれよな!」
ジェイクが預けた魔道具は、ライクたちに危害を加える者を引き寄せるのではないかと心配している。だが、ライクもそれを承知で魔道具を預かることを承諾してくれているので、こちらが心配するのは杞憂と言うものだ。
「それじゃ、そろそろ行くよ」
「ミリーちゃん! ケリーくん! ライクさん! 行ってきます!」
スズが両手を『ぶんぶん』振りながら叫んでるのを横目にジェイクは先に歩き出す。
その後をスズが急ぎ足で追う姿が見えなくなるまで、双子も両手を振るのをやめなかった。
村を出てから数日が経った昼下がり、様々な魔獣を倒しながら魔石を回収しつつ港町に向かっているジェイク一行は、現在も魔獣と交戦中である。
「ジェイクさん! そちらに魔獣が行きました!」
「簡単に抜かれてどうする! こちとら今は一般人なんだぞ!」
ジェイクが、短剣を構え犬に似た魔獣ことべロスが飛び掛かってきたのにタイミングを合わせ横薙ぎに斬りつけた。
べロスの脇腹が抉られ返り血を浴びながら、更に後ろからもう一体のべロスが襲い掛かって来たので顔面を蹴り飛ばし距離を取った。
「ジェイクさん避けてください! 『大気の精霊よ、凍てつく息吹を時を刻みし現れよ!』 ブリューナク!」
スズが詠唱をし氷の塊が砲弾の如く炸裂した。
ジェイクは慌てて射線上から退避し、数秒後にべロス二体が氷の塊に潰され魔石に変化する。その姿を確認してからスズを睨みつけた。
「スズ! その技は気軽に使うなって言っただろうが! 殺す気か!」
「だって……」
「だってじゃない! お前の技は殺意が高すぎるんだよ! 人が誰もいないか確認してから使いなさい!」
「でもでも! ジェイクさん一般人のときは一回死んでもセーフだし安全ですよね!」
「死ぬこと前提で話を進めるな! 痛み感じるんだから極力死にたくないんだよ! てか、考え方が普通じゃない!」
「あ! 死んでもいいと思ってる時点でジェイクさんも普通じゃないので同類ですね! アハハハハ!」
ウィンの村を出て最初の夜を過ごしたときに、改めてジェイクの実年齢と能力について話していた。
事前に神の話をしていたからか、すんなりと信じられ、今では容赦のない攻撃をしてくるほどには打ち解けている。
「それにしても、魔獣と出くわすペースが早いな。こんな道端で野犬感覚で出現するはずないんだが……」
「私も、ここまで連続で遭遇するのは、旅を始めてから初ですよ」
「まるで俺たちの進む先々に、魔獣が現れるように仕組まれているような」
「それって、誰かが魔獣を意図的に操ってるのでしょうか?」
「あの魔道具と似たような物が存在するなら可能性はあるな」
どちらにしろ、この道を進まなくては目的地にたどり着くことはないのであった。
「考えても答えは出なそうだし、気にせず目的地を目指そうぜ」
ジェイクは地図とコンパスを取り出し、間違った道を進んでないか確認を取る。
「え~と、このまま道なりにまっすぐ進んで行けば明日には、漁港と灯台の港町オオライに着く予定でしたよね」
「地図に書かれてるルートが間違えでなければ、昨日抜けた『センバ草原』を越えたらもうすぐのはずだ」
「どんな場所か楽しみですね!」
「海に面した町だから、魚介類がうまいだろうな~~それと、船に乗るのも久しぶりだから楽しみだ」
「私も久しぶりです! 故郷の大陸を離れるために一度だけ乗ったのですけど……波に揺られて気持ち悪くなった思い出しかないんですよ」
「船や摩力車は、慣れてる人でも酔うからな」
「摩力車って私じゃ動かせないんで乗ったことないんですけど便利なんですよね?」
「ああ。だけど、燃費が悪いのと摩力車本体が高いのがネックだな!」
「万能なものはそう簡単に存在しないってことですね! うんうん!」
「そう言うことさね。さて、無駄話は終わりのようだ。お客さんだ!」」
「え! あ? ああ!」
林からベア―ドと言う熊に似た魔獣三体とべロスが四体現れた。
「今度は犬と追加で熊かよ……やっぱ、狙われてるって考えていいかもな」
気樽けそうにジェイクが短剣を抜き。スズも手を前にかざし詠唱を唱えたのが戦闘の合図となった。
スズが詠唱を開始した瞬間べロスとベアードが一斉に突撃してきた。ジェイクは前に飛び出し迎え撃つ。ベアードの爪を短剣で受け止め空いた手でベアードの顔面を殴り流れるように腹を斬り裂いた。斬り裂いたところで次のヘルに向かって短剣で
更にベアードが二体同時に突っ込んできて今度は避けれない受け止めるしかないと判断したジェイクだったが寸前でスズのサンドシャークが地中から現れ二体のベアードを嚙み千切って行った。
「いいアシストだ。だが目の前でスプラッターは、ビビる!」
体制を立て直すために、後ろに下がったら同時に今度はスズが接近戦を開始した。
「私の必勝コンボ! クイック・スタックからの『砕き焔よ、我に集いし、力を目覚め!』 ボムズ!」
軽いフットワークからの、蹴りをべロス一体、ベアード一体に放った。やはり蹴りの威力はないが蹴った場所が五秒後に膨れ上がり爆裂した。
何度見ても恐ろしい魔法だと思いながら残りの一体を横回転しながら斬り砕いた。
これで、周りの魔獣たち七体とも魔石になって散らばった。
「ふぅ。……楽勝だな! 俺たちならよ!」
一息ついてから辺りを見回し、スズの魔法に負んぶに抱っこ状態のジェイクは少し反省した。
ことなくして、街道に出る。
先を見ると大きな船が、何隻もあるオオライが見えてきた。
ウィンの村を出て、六日ほどかかったがジェイクたちは、かすり傷程度で辿り着いたことに安堵している。
ここまで魔獣の出現率が上がってること以外は、特に気になる点はなかったが少し引っかかる点があるジェイクたちは、オオライでも何か起こる気がしてならなかった。
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