第14話 魔法使いと英雄3
「いい天気なのに朝は案外寒いんだな」
「待ってくださ~~い、ジェイクさん足速いですよ~~」
ウィンの村での三日目の朝を迎え、朝食をライク家でいただき、朝の話し合いの結果クロスのいるベールブルグまでスズと旅を共にする方針に決定した。
現在、ライクに魔道具を預けてジェイクはスズと共にミリー誘拐騒動が起きた現場に向かっている。
もう一度あの場所に向かい、昨日の確認とスズの魔法使いであると言う証明を確認しに山林まで戻ってきた。
ジェイクがスズと出会った場所に到着したが、そこには違和感を感じた。
「死体や死骸が綺麗に消えている……森の魔獣や動物に食べられたにしても、ここまで綺麗になくなる訳ないし」
「だから、ジェイクさん速いですって! 地味に登り坂になってて歩きにくいんですから」
ぜぇぜぇ、言いながらスズが遅れてやってきた。振るえる足が限界に来たみたいで草原に倒れる。
スズが来たのを確認し、辺りを観察するのをやめて今日の目的の二つ目を開始した。
「よし! 時間がもったいないから早速魔法見せてくれよ」
「少し、休憩しましょうよ! ご飯食べてすぐの運動はよくないですし! ね!」
「うるさい! 準備運動がてらに歩いてここまで来たんだから丁度いいはずだ!」
「あ! だから風使って飛ばなかったんですか! 酷いですよ~~」
そう言われたジェイクは、手の平を見てナンバーが消えていることを確認してスズに顔を向ける。
「駄々をこねるな! それと、昼飯は好きな物奢ってやるから早く準備しなさい」
「ハイ! わかりました!!」
奢ると言ったら瞬時にスズは立ち上がり元気に返事をした。
怪訝そうな顔をするジェイクは、心の中で厭きれつつ、スズとの距離を取り対面になるように立つ。
「そんじゃ、昨日言ってた溶かす魔法やってみてくれ」
「ハ~イ! 『大気の息吹よ、大地と混ざり滅びの焔を眠りから解放せし、我を囲え!』 バクサン!」
呪文を詠唱し始めると、スズの身体が蒼く光り、次に緑、赤、黒の光が輝き最後の言葉を発したら紫色のドーム状の球体がスズを飲み込んだ。
「詠唱とか本当にあるんだな。てか、これが触れた者を溶かす結界か……地味だな?」
「結界ですから、地味で当然ですよ!」
「お! 普通に会話できるんだ! こっちからだとスズの姿見えないから声も届かないのかと思ったぞ」
「私の方からは、普通に見えるので会話もできるし便利ですよ! もう少し質量上げればジェイクさんも囲える結界にできますし!」
「応用が効くのか……確かに便利かもな。これって摩力とか摩具で攻撃した場合どうなる?」
「質量に寄っては、破られる場合もあるかもですが……魔法のような魔力量じゃなければ、まず破られる心配がないので、基本魔力量の少ない摩力や摩具では破られないはずです!」
「なんか曖昧だな。試したことはあるのか?」
「試したことはないですけど、母様から教わったときに聞きました」
「なるほどね。ちょっと、試すか!」
ジェイクは、そう言うと短剣を抜きスズの結界を抉るように刺したが、刃が刺さる前に先端が溶けだした。
「ちょちょちょ! いきなり攻撃しないでくださいよ!」
聞いた通りの性能に納得したジェイクは、慌てて短剣に魔力を流し溶けた先端を再生させつつ強度を更に上げたが、何度やっても結界に傷を付けることはできなかった。
「そもそも、ジェイクさんも摩具使えるのおかしくないですか!?」
スズの発言を聞き流しつつ、更に色んな角度から斬りつけたりしたが、結果は同じでジェイクの魔力だけが、消費する一方だった。
「これは、確かに摩力や摩具では破れないかもな!」
「そもそも魔法は、使わないんですか? ジェイクさんの風に付与されてる魔力量だったら結界破れると思いますよ。しかも更に強く込めて放たれると私が吹っ飛ぶと思います!」
スズがそう教えてくれたから、ジェイクも自分の身体のことを簡単に話した。
昨日あやふやにしてしまった、神の話も踏まえた結果スズは驚きつつ真剣に聞きながら拳を握る。
「あの力は、魔法でも摩力でもないし……そもそも俺は摩力無しだから」
「え!? それだと、あれは魔法の力とは別のエネルギー体ってことですか!」
「そう言うことだな。俺は摩訶不思議な力って、そのままの意味で言ってるけどな」
「魔法よりも更に上の質量を所有する力があることに驚きです!」
ライクとは違う観点からの驚きを得られてしまったジェイクは、もう少し自分自身のことを調べておくべきだと再確認しつつ昨日のスズが何で俺に対して怯えていたかが理解できた。
「スズは、魔法使いだから俺の魔力量に敏感になって怯えてたのか!」
「そうですよ~~ あんな魔力を感じさせられては私に勝ち目がないのが、一目瞭然でしたので、怖くて怖くて心臓に悪すぎました」
スズが昨日のことを思い出して顔色が悪くなっていた。
「と言っても……凄いな、本物の魔法か……スズ! 他の魔法も使えるなら見せてくれよ!」
「わかりました! 殴ったり蹴ったりした場所が爆発する魔法! 手で触れた物を燃やす魔法! 土からサメのゴーレムを生み出す魔法! 氷の塊を生成して指定した場所にぶつける魔法! 自分自身を羽のように軽くする魔法! 私が指定した対象を癒す魔法! どれからがいいですか?」
「う~~ん! 最後の二つ以外、怖いんだけど!」
ジェイクは笑顔で答えつつ、怖いもの見たさで全ての魔法を見る決心をした。事故って死んだとしてもナンバーが発動すれば怖いものはないと考えた結果であろう。
「いきます! 『砕き焔よ、我に集いし、力を目覚め!』 ボムズ!」
スズが詠唱に入ると、赤い光と黒い光を纏い樹に向かって回し蹴りを放った。
蹴りの威力は弱かったが『ゴン!』と鈍い破裂音と共に樹が蹴られた場所から破裂した。
「スズとは、接近戦はしません!」
「今度はこれで! 『眠りを覚まし、罪の獄炎よ断りを破りし、罪を問え!』 フレイ!」
詠唱と同時に両腕が赤い光に包まれた。スズが枝を掴むとそれに火が纏わりついた。
どうやら、対象を燃やすのではなく対象に火を付与する魔法だったようだ。
その枝で樹を突いたら、突いた場所が焦げて煤になっていた。
「その魔法、剣とか弓に付与したら強くね。イメージしてた魔法と違って新鮮だ」
ジェイクは自分の短剣にも付与できるならなど、応用の仕方をついつい考え込んでいた。
「そろそろ好きな魔法行きます。『古の守護者よ、巨大な渦をなし、大地に顕現せよ!』 サンドシャーク!」
詠唱が始まり緑と黒の光の粒子が地面に集まり渦を描き、そこから土塊のサメが現れた。
空中に飛んだり地中に潜ったり自由に動き回っている。スズ曰く魔力が届く距離なら動かせるらしい。
「サメとしか言いようがないな……今度は樹が嚙み砕かれた……」
「離れて下さいね『大気の精霊よ、凍てつく息吹を時を刻みし現れよ!』 ブリューナク!」
詠唱によって青い光と白く眩しい光が混ざり氷の塊が生まれる。
その氷の塊が、前方の森林をターゲットにし発射した。
樹を悉く薙ぎ払いながら、氷の塊が直線に槍のように飛んで行った。
「大砲だよねこれ! 危ないから余り使わないでね!」
「疲れてきましたが、やります! 『獅子よ、妖精の息吹を我に与えよ!』 クイック・スタック!」
詠唱しながら蒼い光と赤い光を纏い、高速で移動し凄いジャンプ力を披露してくれた。
「この魔法、唱えとけば安全に戦闘に入れそうだな」
「ラスト。『天空に舞う光よ、祝福の風と共に、恵みを与えたまえ!』 リフレクション!」
詠唱と共に蒼い粒子と白く発光する粒子が集まり、ジェイクの身体を包み込む。
「ぽかぽか暖かくて、身体が軽くなっていく感じがするな」
「即効性はないですけど即死以外なら、ほぼ治せるらしいですよ! 母様に聞いただけで実戦では試せてないですけどね。アッハハハハハ~~」
魔力を一度に使い過ぎて、段々とハイになってるようだ。
ジェイクは再度怪訝な顔でスズを見つめた。
「結論、魔法って凄いな! これは本物と認めるしかないわ!」
『うんうん』と頷き無理やり納得することにした。
「これで、私が魔法使いだと言うことが証明できましたよね!」
手を腰に当て胸を張って『エッヘン』と言いいたそうなポーズをとっているスズを見て、ジェイクは「魔法使いって言動も行動も痛々しいんだな」とぼやいているが、スズには聞こえていなかった。
「こんなに強いんだったら、クロスを倒して奪い返せばよかったんじゃね?」
ジェイクの意見は最もである。ここまで強力な力を持っているものは現在では少ないので、単純な力押しならスズが負ける気がしない……そんなジェイクの疑問に気まずそうな顔をしながら、スズが口を開いた。
「魔法は、魔法使い以外の人には向けてはいけない禁忌の力だと教わったので……前回、ヘイさんに魔法を使ったのも最低限の魔力を込めた攻撃でしたが、禁忌には違いないので少し後悔しています。それに母様が亡くなってから、何度も私は自分を守る為に魔法を使ってしまっているので癖になってるんですよね禁忌を破るの」
「後悔することないと思うぞ」
「え? でもジェイクさんも言ってましたけど怖い力なので」
「だってさ、スズも怖い思いをしたから魔法を使ってしまったなら一緒じゃん。自身の身が危ないなら守るために抗うのは生物として普通さ……それが例え禁忌だとしても」
ジェイクも禁忌と言える能力を持ち禁忌を犯して好き勝手している人物にも心当たりがあるので、スズだけが真剣に悩んでいるのが不憫に感じてしまった。
「許されるのでしょうか……」
「大丈夫だろう。力の制御もできてるし、そこら辺の摩力使いや摩具使いより安全なんだから許されるさ」
「ジェイクさんに安全確認してもらえたなら、確かに安心ですね。だって、神様に選ばれた人の確認ですしね!」
スズの魔法確認も終え、帰りはゆっくり歩いて村に戻った。
少し遅くなってしまったが、昼食の約束を叶えるべく飯屋に入った。そこで、スズの魔法使いとしての燃費の悪さを思い知るいい機会になったのである。
ジェイクとスズは食事を終えてから宿屋に向かった。
宿屋には昨日帰っていなかったので、ジェイクの荷物が無事かどうか確認をして、もう一泊だけ、宿を取る申し込みを受付でして部屋を継続させた。ついでにスズも別の部屋を一泊借りた。
その後は、昨日もお世話になったボックス商会に向かい、あれから魔道具について新たに分かったことがないかを聞きに行った。
「やはり、魔道具なんて伝説のアイテムについての新たな情報は分からなかったよ」
ライクは申し訳なさそうに項垂れていた。そんなライクを見ながら気にするなと笑いかけるジェイクは明日ウィンの村を発つことを伝え、魔道具をライクに預けることにした。
「こんな貴重なものを私が預かっていていいのかい? 預かれるのは光栄だが盗まれるのではないかと気が気でない」
「普通の人が見たら摩具に見えるし大丈夫でしょう! また近いうちにウィンの村に戻ってくる予定だから、それまで頼むぜライク」
「ああ! 任せてくれ、必ず更なる情報を掴んで見せる」
またもや夕飯をごちそうになり、双子と楽しい夜を過ごし眠りにつく頃にジェイクとスズは宿屋に戻り明日からの旅の準備をし深い眠りについた。
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