第12話 魔法使いと英雄1
暗闇を駆け抜けながら、走ること凡そ数分ほどして『ギギギィィ』と木々が軋み倒れる音が聞こえる。
摩具を探知した方から、音が聞こえたので慎重に進むことにした。
とにかくミリーに会えればいいのだが、最悪の状況は考えないようにしようとジェイクは風を更に纏い足音を消す。
音のした方に向かうと、人が通ったであろう痕跡を発見した。
そこから、痕跡を頼りに進むと開けた場所が見えてきた。
すぐに人の声が聞こえてきたので、木陰に身を潜めて辺りを伺った。
開けた広場の端の方から男性の声が聞こえ、そちらに徐々に近づき、姿を確認できる範囲まで来た。
こちらに気が付かれないように、注意を払いながら声の出所を覗く、そこには地面に寝かされている状態で、放置されているミリーの姿があった。
ミリーの他に、腰まで伸びた金髪に赤いケープコートを着た女性が一人、気まずそうな顔をして座っていた。
その横に細身で脇に剣を所持してる男が二人。よく見ると昨日の夜に宿屋でぶつかりそうになった男たちである。
最後に、ミリーに視線を向けつつ会話しているベストの様な上着を着ていて、他と比べてがたいがよく、両腕に包帯を巻いている男一人の計四人の姿が確認できた。
他にも仲間がいるかも知れないと警戒したが、それは杞憂だったらしく魔力探知も気配も感じないので、相手は四人だけと判断した。
ミリーの安全を確保する為に、ゆっくりと進み茂みの音を立てないように行動を開始する。
ジェイクの気配に気づかず、すぐ後ろの茂みまで近づいて来ていることを知らない、男たち三人が他愛もない会話をしてるん所にいきなり風が吹き荒れる。
男たちは突然の風で、顔を手で隠すなどして慌ただしくなる。
周りの木々も風により『メキメキ』としなって軋み出した。
女性は、木々の軋む音を聞き手で頭を守り地面に伏せる。
その状況を確認したジェイクは、手を横にかざし突風を生み出した。
男たちは更に吹き荒れる強風により、風よけになる場所を探したりなど各々行動しミリーから離れだした。
流石に何かが、おかしいと思ったのであろう包帯男が、三人に指示を出そうと動き出し、ミリーに向いてた視線が離れたのをジェイクは逃さない。
三人の男が、有らぬ方を向いたタイミングでジェイクは茂みから出て、猛スピードでミリーを肩に担ぎ、一気に風の力で後ろへ飛び下がる。
一瞬の出来事に驚きつつ男たちが騒ぎ始める。
「お前、何処から現れやがった!?」
「何だって? 風が強くて聞こえんな?」
「白々しい! この強風もお前が魔法……否、神の力で起こしてるんだろうがよ!」
包帯男が上着の内ポケットから、ペンライトに似た物を取り出すと、耳にモスキート音のような耳鳴りがしだした。
その音を聞いた途端、風の力が乱れる。肩に担いだミリーを庇いながら音のする方を注意深く様子見した。
「お前を潰すためにそのガキを攫ったんだからよ。奇妙なことが起こったらお前の仕業だと分かってるんだぞ!」
またペンライトから音を出し風の力が乱れ、ジェイクが耳鳴りに意識を取られた瞬間、上から五本の丸太が降ってきた。
突然の攻撃で、一瞬反応が遅れたが、その場に落ちている枝や石を拾い風の力を乗せて丸太に投げつけつつ風の壁を展開し丸太をいなす。
相手もやる気だと分かったなら、こちらも容赦しない。
ジェイクは風を右手に集め、風の力を流し込み斬撃を生み出し包帯男目掛けて放ったが、包帯男がサイコロを取り出し投げたと思ったら、サイコロが石壁に変化した。
そのまま石壁を砕き、風が刃の形状を保てなくなり周りに霧散する。
お互い睨みつつ、ジェイクは内心焦っていた。直感だが、妙な違和感を感じていたのであろう。
「この騒動、狙いは俺だったか……誰の差し金だ? それと、この耳障りな音を止めろ!」
「クライアントの情報は教えられないな。お前ら! 音が聞こえなくなるように耳を切り落としてやれ!」
包帯男の取り巻きの細身二人が腰の剣を抜いて、ジェイクに振りかざしたが、厚い風の壁でできた結界により弾き返された。
ジェイクは左肩に担いでるミリーを手で支え、右手を男たちに向けて拳を開いた。
その瞬間、結界の風が吹き荒れて、細身二人は風の衝撃により吹き飛ばされる。
追加で手を右に払い風の斬撃を放ち、包帯男の手にあった物を弾き飛ばした。
「音はやんだな……それで、俺をどうするんだっけ?」
ジェイクは不敵な笑みを向けながら、もう一度風の斬撃をぶつけてやろうと思ったとき、地面が揺れ、魔力探知が大量の魔獣が近づいてくるのを探知した。
急遽、風を身体に纏わせ上空に高らく飛んだ。
上空から辺りを見渡すと、土煙が近づいてくるのが見え目を凝らすと猪の姿をしたブルと言う魔獣の群れが樹木を薙ぎ倒しながら進んでくる様子が確認できた。
そのスピードは早く、ものの数分でジェイクたちがいた足元に、魔獣の群れが通過していくだろう。
下に目を向けると、現状が分からなく困惑している男女三人と笑いつつジェイクを見ている包帯男の姿が見えた。
ジェイクは笑っている包帯男に最大の注意を張りながら、その場で、ブルの群れに飲み込まれて行く姿を見届けるも、結果なにもしてこなかった。
包帯男が薄気味悪かったが……そんなことよりこのままブルが進んで行ったら、村を通過して行くかもしれないと言う恐怖が新たに生まれた。
「とにかく先頭のブル連中を蹴散らして、進路を変えてやる」
風を操り猛スピードで先頭のブル集団の真上に行き、上空の空気を一カ所に集め、風の力を込めて圧縮した風圧をブル目がけて解き放った。それは風の壁となり樹木を巻き込みながらブルの群れを押しつぶし、地面が陥没するほどの衝撃を与えた。
それでも、止まることも無く進行方向も変えずに残りの半分以上が突っ込んでくるので、ヤケクソ気味にジェイクは手を横に振り風を四方八方に叩きつけた。
容赦なく周りの魔獣が再起不能になるまで風の斬撃と衝撃を放つのをやめなかった。
ようやく、観念したのか此方に向かってくる魔獣はいなくなった。
ブルの後ろに違う個体の魔獣も数体いたが、その魔獣たちは前方のブルがバラバラに切り裂かれたり上からの圧力で潰されたりなどする様子を見て理性を取り戻したかのように大人しくなり、それぞれ山の中に散って行った。
「よし! これで最小限の被害だけで済ませただろう」
木々が滅茶苦茶に薙ぎ倒され地面はボコボコになってしまった山を見渡した。
「後は、魔獣の魔石を集めつつ事件現場に戻りますかね」
風を操り、豪風で地上の魔石を搔き集め回収してから、包帯男たちがいた場所まで急いで戻った。
地上に下り、木陰になった場所があったので、そこにミリーを寝かせ、血だらけになった三人の男たちの死体を確認した。
顔面などは魔獣に踏まれて原型を留めていないが、男たちが所有していた摩具や服装などから包帯男たちで間違いないことが分かる。
だが、一部異様な光景がそこにはあった。
端っこの方だけ円状に焼け焦げた場所があり、その周りだけ微かに腐敗臭がしていた。
それだけではなく、魔石も散らばっている。
そこには、地面に這い蹲って頭を抑えながら振るえる人の姿があった。
魔獣に巻き込まれて死んでった三人の男たちと一緒にいた女性だ。
ジェイクは、本命の敵はこの女性かもしれないと身構える。
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