第11話 銀色鳥と英雄9

  


 村の何処を探してもミリーを見た人がいない。

 なのに荷物は届けられている状況だけが、現在把握できている。


「他にミリーが行きそうな場所は、もう分からないのか!?」


 ジェイクがライクの肩を掴みながら揺らすが、その掴んだ手を払って叫ぶ。


「私の方こそ! 知りたいんですから!! あの子が仕事を放り出していなくなるような子ではないのは、親である私が保証します!」


 今度は、ライクがジェイクの肩を掴み涙目で睨みつける。

 改めて、ライクの顔を見たジェイクは、冷静になれた。

 彼の顔から、不安と心配に満ちた表情が伝わってきたのだから……

 もう一度、お互いの情報共有をするためにボックス商会に戻り、ことの発端から、今の現状に至るまでの過程を整理し疑問にぶち当たった。


「今回の配達の仕事ってのは、定期的に荷物を下ろしに行ってる露店なんだよな?」

「はい。毎週火曜日に届けてる小麦粉を今日はミリーに行ってもらったんです」


「なのに、今日に限っていつもの露店に向かう道を通った姿を誰も見ていない……こんな真っ昼間の人がごった返す広場を抜けなくちゃ行けない露店なのに、誰も目撃した人がいないのはおかしい……」

「あの子が行きそうな露店には立ち寄ったのですが誰もミリーを見ていないことと荷物を露店に届けに行ったきり帰ってきてない事しか現状では……ですが、露店には荷物を届けてあったから、その後に何処かに行ってしまったと思ったのですけれど……」


 そこでジェイクは、疑問にぶつかる。


「そもそも、露店に荷物を届ける姿を見た人がいないのに、荷物だけ露店のドアの場所に置かれてるのが謎だ」

「確かに……そうですね。ミリーのことばかり考えていたので、見落としていましたけれど、誰も露店に荷物を運んでいた人を見ていないと言うか、露店周辺にいた人からも、気づいたら荷物がそこにあったと言う情報しか得られませんでしたもんね」

「もしかしたら、ミリーは家を出てすぐに誘拐されたか、何かに巻き込まれたのかもしれないな……」


 ジェイクがそう言うとライクは、また落ち着きがなくなり慌てだす。


「何かって何ですか! それに誘拐だったら、余計に一刻を争うかも知れないじゃないですか! 村の警備兵たちにもお願いしたけど一向に連絡もないのに!」

「落ち着けってのも無理があるが、とにかく今考えられることをしよう」


 疑問は解決してないが、ジェイクもミリーが心配だ。それに彼には風の力がまだ使えるので考えがあった。


「こうなったら、もっと探す範囲を広げよう。ライクは、もう一度村の中を探してくれ!」

「そうですね……もう一度ミリーの立ち寄りそうな場所に行ってみます!」

「そしたら、俺は村の外を探して来る。一時間ほどしたら、またボックス商会の前に集合にしよう」

「はい! どうか……何卒お願いします!」

「ああ! ちょっくら、外回りしてくる!」

「兄ちゃん! 姉ちゃんのこと絶対見つけてね!」


 ジェイクは、無言で手を上げ走り出した……村に来るときとは別の小麦畑を一直線に進むと森に出る。

 ここから、周辺の風に力を込め、範囲は狭いが風の力で魔力探知を開始した。

 魔力探知は、主に魔獣か摩具にしか反応しない。

 今日もミリーは、摩具を使って配達に行っていた。摩具ごと姿を消してしまったので、使っていた摩具を見つけられれば新たな手掛かりに繋がるはずだ。

 村の中では摩具がありすぎて、この方法では探せないが村の外ならば、摩具が少ないはずなので場所の特定がしやすいだろうと思った。

 それに、魔獣と摩具だと魔力に差があるので判断もしやすい。

 なぜ森に的を絞ったかと言えば、ウィンの村にはこの森に向かう道だけ、警備兵がいない。

 村から他に向かう道に行く途中や出入口の門には、警備兵が配置されているので、摩具の特徴を言いつつミリーのような子供が通ったか聞いてみたが、見ていないと言われた。

 なので、警備兵がいない森の方を探すことにした。

 更に、ジェイクは風を自分に纏わせて、猛スピードで移動しながら魔力探知を繰り返す。

 森の中を数分進むと、摩具を探知した。

 探知した方に向かうと、そこは分かれ道になっている。

 森の奥深くに繋がる道の林に、ミリーが使っていたキックボードに似た摩具が捨てられていた。

 車輪の部分と物を後ろに乗せるためのカゴがボロボロになっていたが、昨日見た摩具と同じである。

 これが、ミリーの物かは確実ではないが十中八九彼女の物であろう。


(ミリーは、何かに追われて森まで来てしまったのかもしれない……もしくは……)


 ジェイクは、森を眺める。そこには影でできた暗闇が続いている。

 その森の奥からも二つの摩具が探知できた。

 一度戻った方がいいかもしれないが、もし彼女が今も森の中で何者かに追われているのなら急いで森の中を探索せねば、一大事になるかもしれない。


(迷うな! ここは行くしかないさ!)


「まだ、風の力も使えるし。昨日の遊びながらの実験で、工夫も聞くようになってきた。今ならこの森で何が出てきてもへっちゃらだ!」


 早くミリーを見つけて、ライクたちを安心させてあげたい気持ちが先行し、ジェイクは暗闇の中を猛スピードで駆けだした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る