第2話 旅立ち
山の中を歩き回る少し前のこと……
次の街に向かう準備をしてる男性がいた。
目的の街までは距離があるので、念入りに準備をしている。
食料と着替えを縦長の筒状バッグに入れ。
短剣と茶色いマントを掴み旅の支度を整える。
荷物を纏めて、宿泊している集落の宿屋のカウンターに挨拶をして出て行こう「ジェイクさん待って!」としたら、横から声をかけられた。
「あれ? 昨日一緒に酒場で呑んでた採掘場の若旦那じゃないか……どうした?」
「今日出て行くって、言ってたからさ、昨日奢ってくれた代金代わりに、渡そうと思ってね」
急いで来たらしく息が荒い、採掘場の若旦那から袋を貰った。
中を覗いたら石ころが十個入っていた。
「ジェイクさん、
「お! 火が出る石じゃん!
この男性……ジェイクは、摩力持ちではない……
摩力持ちとは、生まれつき
ジェイクのように、
この世界には、摩力を使える人間と摩力が使えない人間が存在する。
生まれた瞬間に判別できるように
摩力回路感知検査とは、元々は
摩力が感知されない子供は、摩力持ちとされる。
脊髄から摩力を感知されない場合は、体内から摩力が漏れ出していない証なので、摩力を生み出し放出できる。
逆に、脊髄から摩力が感知された子供は、摩力無しとされる。
脊髄から摩力が感知された場合は、体内から摩力が漏れ出しているとされ摩力を生み出せないからである。
これが、摩力持ちと摩力無しの違いの一つである。
「よかった! 仕事手伝ってもらったときに、日常素材欲しがってたの思い出してね」
「でも……若旦那の奥さんは俺と同じ、摩力無しだから日常素材大事じゃね?」
「いいのいいの! 僕の右手に炎、左手に水を生み出す力あるから、最低限の素材しか家では使うときないしな!」
摩力持ちとして生まれた人間は、自分にどんな力があるのかを五歳になると受けさせられる摩力成長の儀を通して、どんな力を備えてるか検査される。
「ほんと便利な力だな。でも、奥さんだけのときもあるし……半分貰えれば、昨日の代金相場だと思うが」
「普通の村や都市なら、相場はその通りかもしれないけど……この集落の住人、魔力を流せる人少ないから……素材や摩具の在庫余っちゃってるんですよ。だから、素材の物価が下がっているんで、その数で代金丁度!」
ジェイクのような摩力無しは、空気中の魔力を微量ながら取り込み、道具に魔力を流すことができる。
魔力を流すことで摩具などに付与された力を操り、摩力持ちのような力を発動させることもできる。
現に、ジェイクが所有している短剣も、摩具である。
因みに、摩力持ちは、摩力を身体から常に生み出しているため、魔力を取り込もうとすると、摩力の力が反発して魔力を取り込めない。
魔力を取り込めないと摩具に魔力を流せないため。使用不可能である。
これが、摩力持ちと摩力無しの二つ目の違いである。
この世界では、魔力は自然発生エネルギー体で、摩力は人工的エネルギー体と認識されている。魔力と摩力は似ているが、異なるエネルギー体であると昔から教わってきた。
そのため、異なるエネルギー体を使う摩力持ちと摩力無しは、相対的存在だと言われている。
「なるほどね。素材や摩具があっても動かせないんじゃ確かに……摩力持ちは魔力を取り込めないからね。買い付けに来る他の商人たちに捌くしかないだろうけど、この集落って山の中腹にあるから人来なそうだしな」
ジェイクが今いる集落は、山と山の間に存在している。
「はい……認知度の低い鉱山ぐらいしか、紹介できる場所がないですからね……」
「それで、十分だろ! ここの鉱山なら摩具を作る素材も採れるし売り込めば、一攫千金できそうだけどな」
「いや、それに集落に伝わる昔話が原因もあって、近づく人がいないんで」
「昔話とは?」
「ジェイクさん知らないんですか? この大陸に住んでる人には有名な
「旅の途中でこの大陸に来ただけで、出身じゃないからな。知らないことの方が多いさ」
「それなら、簡単に掻い摘んで話しますと……」
――この土地には元々多くの魔獣が発生していて、誰も近づかない土地だったのですが、ある晴れた日に魔獣の群れが、私たちがいる山に密集し辺り一面を覆いつくしたのです。
その魔獣たちの動きを観察するため気球で空から生態調査を行っていた男たちが望遠鏡で魔獣を観ていたら、突如辺りが暗くなり、なにごとかと空を見上げると、そこには山と同じ大きさはあろう大きな銀色鳥の姿があった。
その銀色鳥が魔獣の群れ目掛けて物凄いスピードで急降下していく。そのときに発生した暴風で気球が煽られ山に落下してしまうが、運よく助かった男たちが次に見たものは山の中心が抉られ、山が二つに分かれている光景だった。
そして、魔獣の群れと銀色鳥の姿は完全に消えていたが、大きな銀の羽が一枚だけ存在していた。
銀翼鳥の力なのか、その土地の周辺には魔獣が寄り付かなくなった。
その代償なのか、抉られた場所には作物や木々が育たなくなり呪いが降りかかった山と言われてしまう。それから銀の羽を奉納し、この場所を管理し呪いを外に出さないようにするために、この集落が誕生したと言う昔話があったのだ。――
「それが、この集落ができたとされる昔話なんですが……今じゃ、おもしろおかしく色々な追加要素増し増しで、話しが大陸全土に伝わっちゃってるんですけどね」
「へぇー。だから、魔獣の姿を見ないのか」
「でも、この先の山を超えたら現れると思うので、これから気を付けてくださいね!」
魔獣とは、魔力をより濃く浴びた生物や化石などが突然変異して魔獣と言われている生命体に進化を遂げ、新たな生態系を確立している存在である。
さっきの捕捉になるが、主に魔獣から採れる素材を使い摩具が作られる。他にも貰った火燃石のような魔力が発生している場所で採取した素材は石だとしても何かしらの力が宿っていることがあり、その素材だけでも魔力を流すなどの条件を充たせば力を発動させられる。
「ああ、気を付けるよ。でも、呪いとは違う気がするから他の町に行ったら宣伝しとくよ!」
「それは、ありがたい! と、ついつい長話をして足を止めてしまったな」
「別に構わないさ、おもしろい話も聞けたしな」
ジェイクは宿屋で別れをつげ山越えを開始した。
この後、予想以上の山越えが待っているとも知らずに。
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