013.遊びに行こう!
「流石に大きいなー」
城壁をくぐって中に入るとその中には整備された街並みが広がり、さらに奥には王城が鎮座している。
あのお城だけで通ってた大学のキャンパスよりも広そうだ。
足元からあのお城まで伸びる通りも馬車が余裕ですれ違えるくらいに広くて、思わずおのぼりさんみたいな感想を漏らしそうになった。
一応梟で上からは見てたんだけどね。
実際に地面側から見ると上から俯瞰するよりもずっと広く大きく感じる。
「こりゃ一日じゃ回り切れなそうだ」
「そうですわね、まずは宿屋で部屋を取りに参りましょうか」
夜間の外出が制限されているわけじゃないけど、そもそも店は閉まるしトラブルも増えるだろうしね。
そういえば、今回は生身で来るのが不安だったので、俺とルビィ共に魔力で遠隔操作できる魔導人形を使ってここまで来ている。
ルビィはある程度なら自衛できるからわざわざ魔力を使って用意せずに生身でいいなんて言ってたけど、なにかあったら困るので二人分用意した。
まあ再利用できるのでそのうち利用していてよかったという場面も来るんじゃないかな。
ちなみに、二人とも容姿はそのままなので、ルビィがナンパされまくったりしないかは心配だけど。
ということで宿屋へ。
一人部屋よりも二人部屋の方が若干安かったのでそちらを借りることにした。
「んじゃまずはメシかな」
宿、食事、各種店、ギルド、教会。
あとは国の情勢や宗教観なんかも知れたらありがたい。
「そこのお兄さん、一本どうだい!」
通りへ出てすぐに誘われて屋台に寄ると、そこには串に刺された肉を焼いたものが並べられている。
幅広で平たい肉は見た目だけなら美味しそうだけど何の肉なんだろう。
「おばさん、これ何の肉ですか?」
「なんだお兄ちゃんそんなことも知らないのかい。これは大蛇の肉だよ」
「へー、珍しいですね。どれくらいの大きさの蛇なんですか?」
「そりゃアンタ、こーれくらいの大きさよ!」
お店のおばちゃんが両手を目一杯まで広げて答える。
実際に全長1.5メートルくらいじゃこんなに太い肉にならない気がするけど分かりやすさ重視なのかな。
「それじゃ、1本いくら?」
「1つで銅貨10枚だよ」
「2本買ったらおまけしてくれる?」
「あはは、お兄ちゃん商売上手だね。それじゃ2本買ったら銅貨18枚でいいよ!」
「じゃあそれでよろしく」
ということで銅貨を渡して代わりに串焼きを二本受け取り、少し離れてその内一本をルビィへと差し出す。
「はいよ、ルビィ」
「よろしいんですか?」
この体になってから俺は食事を必要としなくなっていて、ルビィも俺と同様なのでわざわざ店で買った食事を食べるということに戸惑いがあるんだろう。
必要ないって言っても食べることはできるし、美味しいものはやっぱり美味しいけどね。
「もちろん、人生長いんだから楽しいことや美味しいものは沢山あった方が嬉しいよ」
逆にそれが無い人生なんてそのうち飽きるのが目に見えてるし。
ちなみに魔導人形を操ってる現状でも、ちゃんと味はわかるよ。
「それでは、いただきますわ」
「召し上がれ、まあ元々は俺の金じゃないけど」
所持金は全て人から巻き上げたものなのであんまり偉そうな顔するのも恥ずかしいけどまあ細かいことは気にしない。
ということでルビィは蛇肉を口に運び、左手で口元を隠す。
なんとなくそのしぐさが微笑ましい。
考えてみればルビィが食事しているところを見るのは初めてどころか、彼女にとっては生まれて初めての食事なんだな。
「美味しい?」
「はい、とても。知識で知っているのと実際に味わうのでは全然違いますわね」
「これから生きていけばもっと色んなものが食べられるよ」
なんて言葉の傍らに二口目を口に運ぶルビィにちょっと笑って、自分もそれを味わうことにする。
肉はさっぱりとしてて美味しいけど、個人的には追加で塩かタレが欲しくなるかな。
あっちの世界に比べて調味料が高価であんまり自由に使えないのかもしれない、なんて転生者らしい感想。
とはいえ素材の味としては十分に美味しいし、なにより大蛇の肉だから骨を取りやすいのが嬉しかった。
「いらっしゃいませー」
お店に入ると、女性の店員さんがカウンターの中から声をかけてくる。
広い店のわりに店員さんが一人なのもその店員さんが女性なのも若干驚いたけど、その女性の頭から猫の耳が生えているのには一際驚いた。
話には聞いていたし街中で遠目に見たこともあったけど、やっぱり対面するとインパクトがある。
あっちじゃ二次元では人気属性だったけど、こうやって実物を目の前にするとそれはそれで触らせてもらいたくなるなー。
とはいえそんな反応を顔に出すのも失礼なので、務めて平常心で声をかける。
その一瞬で彼女の耳がピクリと動いたので多分バレてるけど。
ともあれ、ルビィは後ろに控えていてもらって俺だけカウンターへと向かう。
「これの買い取りお願いできますか?」
「おおー、魔石ですねー。結構大きいですけど魔物から採れたんですか?」
「いえ、曾祖母の遺品を整理していたら出てきたんです」
「そうなんですね、御愁傷様でした」
「大往生だったのでお気になさらずにー」
「はいー、それではちょっと見させていただきますねー」
そう言って店員さんがルーペのようなものを通して魔石を覗き込む。
「んー、ちゃんと魔力は入ってますねー。これなら結構な金額になると思いますよー」
「その覗き込んでるやつでわかるんですか?」
「はいー、この魔道具を使うと流れてる魔力が見えるんですよー。魔力が籠っている装備なんかもこの道具で鑑定する感じですねー」
装備の鑑定もここでやってもらえるんだ。ダンジョンから特殊効果付きの装備が出るのは定番だからそのうち作りたいよね。
「便利なんですね」
「装備の鑑定なんかは魔力の色と流れを見た上で、それがどういう効果を持つかは自己判断しないといけないのでまた難しいんですけどねー」
「なるほどー」
「実際に見てみますか?」
「いいんですか?」
「ええ、道具には手を触れないようにだけお願いします~」
ということで、人差し指と親指で作ったわっかくらいのサイズのレンズを覗き込むけど、体勢の関係で店員さんの顔が近くて困る。
「確かに、魔力が流れてますね」
まあこれならダンジョン内であれば自力で確認できるけど。
魔力仕掛けのトラップとかを使う関係か、もしくはダンジョン自体が自分の探知範囲の中だからか、中では魔力を察知する能力が格段に上がるらしい。というか外に出て感覚が鈍ったせいで気付いたんだけど。
「これくらいの石の大きさと魔力の総量なら、金貨1枚はいくかもしれませんねー。もうちょっと細かく調べさせてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろん。その間にお店の中を見させてもらってもいいですか?」
「どうぞどうぞ~」
快諾してから再びルーペを覗き込み「むむむ」と唸る店員さんの前から立ち上がる。
そのままルビィと一緒に壁にかかっている装備やら棚の魔石やらを一緒に眺めていた。
そういえば、あっちの世界と明らかに違う文字でもちゃんと読めるのは、そういう魔法のおかげなんだよね。異世界転生魔法セットマジ優秀。
まあ言葉が通じなくて四苦八苦するのみてもつまらないっていうショタ神様の都合だろうけどさ。
「ねえルビィ」
「なんでしょうか」
ちなみにルビィには街中では主様とは呼ばないようにお願いしてある。
一般人を装って情報収集するには邪魔だろうという判断。
「この火の魔石、金貨五枚だって。凄いね」
「そうですわね」
と雑談をしてから少し離れて壁際の商品を眺めるフリをして顔を寄せる。
こめかみが触れそうなくらいまで顔を寄せると、彼女のサラサラの髪が頬に触れてちょっとくすぐったい。
そして店員さんに聞かれないようにひそひそ話をするように声の大きさを抑えて話す。
「あの火の魔石、同じくらいの家にもあったよね?」
「そうですわね」
「売っちゃってもバレないと思う?」
「問題はないかと」
「売ったらどれくらいになるかな?」
「どうでしょう、あの方に直接聞いてみるのがよろしいかと」
「たしかに」
ということで、顔を離して少し待ってから店員さんの方へと声をかける。
「すいません、ちょっとお聞きしたいんですけど」
「はい、なんでしょう?」
「あの火の魔石って同じくらいの物を持ってきたらいくらくらいになります?」
「そうですねー、買取で金貨3枚程度でしょうか」
「なるほど、ありがとうございます」
「いえいえー」
ということで査定が済んで、最初の見立て通り金貨1枚の買取になった。
「そうだ、支払いは金貨じゃなくて銀貨でお願いできますか?」
「大丈夫ですよー、本来なら両替は手数料いただきますけど今回は丁度金貨1枚なのでサービスしときますね」
「ありがとうございます」
銀貨を受け取って、そのまま店を出る。
「主様、質問よろしいでしょうか」
「どしたの、ルビィ」
店からしばらく離れて、雑踏の流れに乗りながら隣のルビィが声をかけてくる。
「店内でのあの芝居は必要だったのでしょうか?」
あの芝居というのは火の魔石のやり取りね。
俺とルビィは念話でやり取りができるので芝居の仕込みは自由自在である。
「まあ普通に聞いても教えてくれたかも知れないし、ちょっとしたお遊びかな」
「左様ですか」
「一応幾らで買って幾らで売るかっていうのも情報だからね。もしかしたらタダじゃ教えてくれないかもしれない。だから教えたら儲け話になるかもしれないって情報をそれとなく渡して教えてもらえる可能性を上げたって感じ。お店の人からしたらもし他のお店にもって行かれたら損だしね」
なので彼女の聴覚が人間よりも優れていて、おそらく秘密の話まで聞き取れるだろうという想定の仕込みだった。
こっちを気にしないようにしながら片耳がしっかりこっちに向いている姿は見てて口元が緩みそうになったけどね。
「なるほど、勉強になりましたわ」
「それはよかった。んじゃ次はマジックバッグ売ってるお店探そうか」
「はい、主様」
それから道具屋、武器防具屋、魔法店を回ったあたりで日が暮れたので宿に戻ってくる。
そもそも王都はかなり広く、歩くだけでも一苦労だったので事前にある程度は梟で観察していなかったらその半分も回れなかったかもしれない。
道端で話しかけ勝手に案内しておきながら案内料を要求し、しかもその店がぼったくりなどという観光客向けのトラップも無事回避できたし。
ちなみに魔法店というのは魔法使い用の杖やスクロールを売っているお店。
明日は薬屋と飯屋と酒場を回りたいかな。あとギルドと教会も。
「んじゃ明日も早いし休みますか」
言いながら自分のベッドに腰を下ろす。
まあ問題は、ルビィと同じ部屋に一晩ということなんだけど。
そのルビィはすぐ近くに立ったままこちらを見ている。
ダンジョンでも最初に二人分の部屋作ったから別々だしなあ。
まあこの身体は人形であって本体ではないからそこまで気にはならないけど。
「主様はお休みになられますか?」
「うん、ルビィは?」
「私は睡眠が必要ありませんので、何か御用がございましたらお命じくださいませ」
「あー、そっか。それじゃあ今日の情報だけまとめておいてくれる? それが終わったらそっちのベッドで寝ちゃっていいよ」
「わたくしは、主様と同じ床でもよかったのですけれど」
ルビィがそんなことを言いながら妖しく笑う。
誘惑されているのか倹約を促されているのか、若干判断に困るけれど、どちらにしてもルビィの微笑みは魅力的だった。
「でもお互いが人形の身体じゃ結局一緒に寝ても生殺しだからなあ」
一緒に寝るというシチュエーションはとても魅力的だけどね。
「確かにそうですわね。……それではまたダンジョンへと戻りましたら何なりとお命じくださいませ」
「うん、そうする」
ということで俺はベッドに潜り込んでルビィが部屋のランプの明かりを消した。
「おやすみ、ルビィ」
「お休みなさいませ、主様」
こうやって、眠る前に挨拶する相手がいる生活も、悪くはないかな。
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