012.方針決定

「解放してしまってよろしかったのですか?」


使い魔のフクロウの目で彼らが帰っていくのを見送りながら、ルビィがそんなことを聞いてくる。


「ルビィは殺した方が良かったと思う?」


質問を返すと、ルビィが少し考えてから頷く。


「そうですわね、メリットとデメリットを考えればそうするのが一番良い選択だったと思いますわ」


「確かに見逃して手に入るかもしれない利益と、殺して得られる魔力を天秤にかけたら後者の方がメリットが大きいだろうね。それを踏まえて、なんで俺が見逃したのかを考えてみて」


「そうですわね……。ここで冒険者を殺してしまったという事実が生まれるのが殺した場合の一番のデメリットでしょうか」


「そうだね、彼らの死とこのダンジョンが関連付けられて冒険者を容赦なく殺すという評判が広まるととても強い冒険者が送られてきて困るかもしれない。それにダンジョンからモンスターが溢れ出してくるかもしれないという懸念が強くなれば王国自体が敵になるかもしれない」


特に目と鼻の先に王都があるこのダンジョンには結構なリスクになりうる。


「それは大きな痛手となりますわね」


「とはいえ、もし敵対者が増えるかもしれないって懸念だけなら、彼らのことは殺したかもしれないけどね」


「と、おっしゃいますと?」


「俺が穏当な手段を選んだのは魔導書の魔法が優秀なのが一番大きいかな。ダンジョンっていうフィールド自体がこちらに有利すぎるし、更に引きこもって侵入者を拒むことに全力を出したら多分相当な戦力が攻めてきても防げると思うんだよね。だから目先の魔力で防衛を強化することを選ぶより、彼らを無事に返してついてにギルドへダンジョンの安全性をアピールしてもらった方がいいかなと考えたんだよ」


実際に今回の彼らくらいの冒険者を程よく接待するためにはスケルトンを沢山増やせば十分だし、スケルトンが倒されても原型が残ってれば再活用できる。


一応最終防衛線のスライムを活かすために魔法使い対策は考えておきたいけど、あんまり高位の冒険者が来なければそれで当面は十分だろう。


引きこもれば安全と言ってもそればっかりじゃ冒険者に呆れられるだろうから、理想は程よく接待しつつ最後まで帰らない人間はスライムで撃退って形がいいかな。


「主様のお考え、よくわかりましたわ」


「なんてここまで偉そうに講釈を垂れておいてなんだけど、実際その選択が間違っている可能性もなくはないんだよね」


正直に告げると、ルビィが困惑の表情を浮かべる。


なるべくより良い選択肢を選んでいるつもりでも、未来予知なんてできる訳もないのでそこはしょうがない。


「もちろん、俺は何が一番良い方法なのかをよく考えて行動するつもりなんだけど、それでも失敗することは多々あると思う。だけど世界一のダンジョンを作るっていう目標を裏切ることはないから、これからもよろしくね」


「もちろんですわ、主様」


そこだけブレなければ、あとは上手く進んでいくだろう。


当然ちゃんと努力はしないといけないけどね。


ああそう、あとさっき解放した冒険者の彼らには、質問された内容の口止めとギルドへの手紙の配達を頼んだよ。


内容はダンジョンの営業開始日のお知らせ。


まあこんな文章で安心してくれるとは思わないけど、様子を見に来て閉まってるのを何度も繰り返すのは迷惑かなってことで。




ということで話は進み、ルビィがリザルトを出してくれる。


「それでは収支を報告させていただきます」


「よろしくね」


「スケルトンを生成した時点での魔力が13210。スライムが3体で-1500、スケルトンの復活に-10、魔石の生成に合計-1000、罠を含む1Fダンジョン作りに-300。戦士の戦闘で+50、治癒師の魔法で+200、狩人が+100ですわね、三人を虜囚としていた期間で+10。狩人は周囲の警戒や罠の探知に関する感覚の強化に魔力を利用しているようですわ。合計が-2450で現在10760ほどになりますが、これは凡その数字ですのでご注意くださいませ」


「了解」


実際にはスライムと魔石が残ってる分、固定資産を加味した総合的な収支はプラスかな。


「更に撃退した冒険者と前回の襲撃者から回収した道具になります。金貨が4枚、銀貨が28枚、小銀貨が3枚、銅貨が52枚、小銅貨が12枚、剣が5本、斧が1本、ナイフが3本、盾が3つ、皮の鎧が1組、松明が5本、薬草2組、他細々したものがいくつかありますわね」


「結構お金あったね」


「6人分の合計ですので、1人分に換算するとさほどでもないかと」


「たしかに」


まあ金のほとんどは冒険者パーティーのものだったけど、銀行がないなら所持金は持ち運ぶしかないんだしそうなるか。


「そうだ、次回からは金貨、銀貨、銅貨換算で報告お願い。枚数多かったら切り上げちゃって、あと小銅貨分は省いちゃっていいよ」


「かしこまりました、主様」


「手間だろうけどよろしくね」


これからの小銭の管理とか考えただけでも嫌になるから、そういう点でもルビィの存在はとても助かる。


「とりあえず目ぼしい物はマジックバッグ以外全部回収したけど、没収するのはそのうち何割かとかでもいいかもね」


「マジックバッグは回収しなくてよろしかったのですか?」


「大量に荷物を運べる方が捕まえた時の実入りも増えるからね」


「なるほど」


あとまあ他の狙いもあるんだけど。


「そういえば、ダンジョン自体を変形させて閉じ込めるとかも出来るのかな?」


それができるならもうスケルトンを使ってチマチマ接待せずになるべく人を集めてから入り口閉めて一網打尽なんて方法も取れなくはない。


まあそれで餓死させるところまで言っちゃうと王国ヘイト問題が起こるかもしれないから程々を見極める必要はあるけど。


「出来なくはありませんが、問題がいくつかありますわ」


「具体的には?」


「まず、ダンジョンの構造を正確に弄るには主様が出向く必要がありますので危険性があるのが一点。ダンジョン変形中は結界が不安定になりますので強度がないことがもう一点。あまりそう言った手法を使うと冒険者自体に探索を敬遠される可能性があるのが最後の一点ですわね。あと単純に主様の労力が増えるという部分もありますかと」


「それならなるべく使わないようにした方が良さそうだね」


奥の手になるかなと思ったけど、奥の手が必要な相手なら変形見てから破壊余裕でした、みたいになりそうだ。


まあそれでも迷路に迷ってもらってる間に入り口をふさぐとかはできそうだけど。


「左様かと、ですが罠で天井を落とすことで代用できるような機会はあるかもしれませんわ。そちらもあまり大質量を浮かせて保持させておくには継続的に魔力がかかりますが」


「どっちにしろなにか工夫しないとダメそうかな。ちょっと考えてみるよ」


確かにルール無用な入り口閉めよりは、トラップで隔離の方が心象も柔らかいか。


降りてくる天井を支えて、ここは俺に任せて先に行けみたいなシチュエーションを演出するのはまたちょっと大変そうけどがんばろう。


「そういえば、過去最大のダンジョンってもう滅んでるんだよね?」


ここまでのダンジョン有利な情報を聞いて、改めて疑問に思った情報をもう一度ルビィへ質問してみる。


「はい、100階まで拡張したダンジョンは、現在は機能を停止していますわ」


「目標を追いかけなくていいのはありがたいけど、100階まで拡張しておいてどうして滅びたのかはちょっと気になるかな」


ダンジョンの防衛機能を考えたら100階層は戦力過剰にも程があると個人的には思うんだけど、事実そのダンジョンは滅んだらしい。


「それじゃあ考えられる滅んだ理由。まず一番はその迷宮主が油断して倒された。二番目はそれを攻略できるくらい強い冒険者が存在していた。三番目は外に出たところを騙し討ちされた、とかかな。滅んだのはどれくらい前かわかる?」


「およそ300年ほど前になりますわね」


「んじゃ、詳しい状況は文献でも探さないとわからないか」


ダンジョンに関する情報収集もやることリストに加えておこう。


それからしばらくルビィと相談をして、話がまとまった所で次にやることが決まった。


「というわけでルビィ、デートをしよう」


「はい?」


次回、王都デート回!


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