011.尋問②
次の冒険者の牢屋へと移動する。
尋問の関係上、それぞれが防音対策した個室だ。
「こんにちは」
「……」
牢屋の中の男は黙ったままこちらを睨んでいる。
「よいしょ。もう一度こんにちは。これから貴方に質問をします。正直に答えていただければ数日で三人とも解放させていただきます。正直に答えなかった場合は食事は抜きです。それでは貴方のお名前は?」
「ジョン」
「そうですか、正直に答える気がないようでしたらまた明日にしましょう。その間貴方とそのお仲間は食事抜きですね」
「おい、あいつらは関係ないだろ!」
「三人分の答えが揃わないと質問の意味がないので、それでは」
意見が分かれた時に2対1なら2の方が信用できるって判断法がつかえるしね。
そういって部屋を出ると、後ろから鉄格子を叩く音が聞こえた。
「こんにちは。夕べはよく眠れましたか?」
「んー、あんまりかな」
翌日、治癒師の女性へと質問をするために訪れる。
ちなみに昨日もちゃんと質問したのでこれで二日目だ。
改めて鎖に繋がれている女性ってなんかエロいな、なんて感想は非難されそうだから言わないで心の中にそっと閉まっておく。
「それでは最初に、良いお知らせと悪いお知らせがありますがどっちが聞きたいですか?」
「なにそれ?」
折角の渾身のネタが通じない……だと……?
異世界のカルチャーギャップが凄い。
「おほん、それではまず良いお知らせから。貴方と戦士の方の回答がほぼ一致いたしましたのでこのままなら数日で貴方がたを解放させていただけます」
「悪いお知らせは?」
「狩人の方が最初から答えるのを拒否したので拘束が一日伸びました。あとあの人は昨日飯抜きです」
「あのバカ……」
ちなみに彼女と戦士の人にはちゃんとご飯は渡したよ。上の森で狩った動物の肉を焼いたものだけど。
「ウパスカルに言っといて。もし今日も答えなかったらアンタが一方的に惚れてる酒場の娘にアンタの恥ずかしい話を洗いざらい話してやるって」
「かしこまりました」
これで正直に答えてくれるといいなー。
「それでは質問です。貴方の魔法を使える回数は?」
「9回くらいかな」
「使える魔法の種類は?」
「傷の治癒、明かりの作成、耐久力の上昇、炎とかの軽減かな」
「回復魔法の効果ってどれくらい?」
「あたしのは切り傷や打ち身が治るくらい」
「もっと等級が高い冒険者なら効果も上がる?」
「高位の冒険者なら刺された腹を癒やしたり切り落とされた腕をくっつけたり、それ以上の事ができる人もいるらしい」
「死んだ人を生き返らせたりは?」
「それは聞いたこと無い」
なるほど。
「冒険者ってどうやって強くなる?」
「基本的には実践かな。魔術師とか治癒師も実践で使える魔法の量と種類が増える」
「最初の魔法を使えるようになるまでの訓練は?」
「瞑想したり精神集中したり、人によっては運動したりとか。あと最初から魔法を使える人もいるって」
基本的に体内の魔力を高める訓練なのかな。
それから、彼女には魔法に関する質問をいくつか答えてもらう。
そのまま戦士の人への質問を終わらせた後、狩人の人に彼女からの伝言を伝えると、しばらく叫び声をあげたあとに正直に答えてくれるようになり、その翌々日には三人とも用済みになった。
☆
「マジで解放されたな」
アルスたち三人は現在、牢獄から転送陣でそのまま入り口に転送されていた。
解放されるという約束を完全に信じていなかったわけでは無いが、それでも絶対ではないと思っていたのでこうしてそのまま外に放り出された時は困惑があった。
「二人とも、なにか変なことはされなかったか?」
「なにも」
「あたしも全然。アルスは?」
「俺も何もだな」
傷もなければ洗脳や毒の気配もない。
装備や金は奪われていたが、ギルド証とアイテムバッグは手元に返却されている。
「一応質問されたことは秘密にして、捕まってた最中は何もなかったってギルドに伝えるように言われたけど」
それも、絶対に従わせようというような意思は迷宮主の使いからは見えなかった。おそらく一応口止めをしておいた、程度の扱いなのだろう。
「あとこれ」
渡されたのは封筒に収められた一通の手紙。
ご丁寧にも封蝋が押されたそれは、とても魔物の元締めに渡されたとは思えない文化力を感じる。
カットした宝石を模したような封蝋のデザインが何を示しているのか、アルスたちにはわからなかったがそれはともかく。
「どうする?」
「どうするって、ギルマスに渡す以外の選択肢ある?」
「見なかったことにして焼いちまうとか」
「それをして、なにかメリットでもあるなら考えるけど?」
「従うのがシャクだし……」
ウパスカルがそんなことを言うが、逆に言えばそれくらいしかメリットはない。
そして渡した場合はギルドに貢献でき、そして迷宮主からヘイトをかうかもしれないというデメリットも無くせる。
つまりまあ、どうするかは議論をするまでもなく決まっていた。
それが本人たちになにか釈然としない気分を残すとしても、実利を覆すほどのモヤモヤではない。
「そいえば、アンタ初日にちゃんと答えなかったんでしょ」
「解放される確信もなかったんだからしょうがねえだろ」
「うるさい。お陰で捕まってるのが一日伸びたし、実際今は解放されたでしょ」
「それは悪かったよ。飯も一日食えなったしな」
「あたしたちは食べられたけど?」
「え?」
「え?」
ということで、彼らはそんなことを話しながらさほど時間をかけることもなく王都へ着き、そこで通行料を持っていないことを思い出して難儀することになった。
ちなみに、ギルドマスターへ当てられた手紙の内容はこのようなもの。
『親愛なるギルドマスター様。私は迷宮の主をやっている者です。当ダンジョンは本日より10日ほど入り口を閉じ改装させていただきますので、調査探索をお望みの場合は11日後の日の出以降にお越しください。なおその間魔物をダンジョンの外へと出す予定もございませんのご承知ください。―――迷宮主』
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